第339話 謝罪と婚約の挨拶

 僕たちは桜花の家に着いて、現在は廻里家の居間にいる。

 対面に、桜花の両親と僕の両親がいて、僕と桜花が並び合って座っている。


「それで・・・龍馬くん。桜花からも聞いたんだが、その・・・」

「はい。異世界にいた事の証明ですよね。でも、その前に、僕は桜花さんのご両親に謝らなきゃいけない事とお願いがあるんです。」

「なんだろうか?」


 ふう。

 気合を入れなきゃ。

 そっと僕の手が握られる。

 そっちを見ると、桜花が微笑んで僕に手を伸ばしていた。

 うん、がんばろう。

 これは、みんなを受け入れた僕の義務だ。


「桜花から聞いているかわかりませんが、僕は、向こうの世界で桜花と婚約しました。そして、その時に、桜花以外の女性とも婚約しました。」


 そう言ったら桜花のご両親は困惑した表情になった。

 それを見て、桜花が口を開く。


「お父さん、お母さん、ちゃんと聞いてね。向こうの世界は、一夫一妻じゃないの。で、龍馬は世界を救った英雄なのよ。それで、私と合流するまでの間に出来た仲間や、向こうで出来た私の親友、その世界の女神様なんかとも婚約する事になったの。」


 今度は、桜花のご両親だけじゃなく、僕の両親まで開口してフリーズしている。

 そうだよね・・・こっちの常識じゃそうなるよね。


「はっきり言っておくけれど、私は納得しています。だって、みんな命をかけて戦った仲間だもの。それに、良い子ばかりよ。こちらの常識から外れていることはわかっているわ。それでも!もう、みんながいない事には私も耐えられないくらいには仲良くなったの。認めて欲しいとは思うけど・・・でも、認めないと言われても仕方がないとも思う。実際、龍馬も、みんなとの関係には悩んでいたしね。」


 そう言って僕を見る桜花。

 僕は頷いて桜花のお父さんを見る。


「まだ、高校生の分際で、こんな事を言うのは、時期尚早だと言うのは重々承知です。でも、僕たちは、みんな真剣なんです。だから、この件での責任は全て僕にあります。」

「龍馬!」


 桜花が僕を睨む。

 でも、これは・・・これだけは譲れない。


「桜花・・・駄目だよ。これは、みんなの想いを受け止めた時に、僕が決めたことなんだ。だから、僕の責任にして欲しい。頼むよ。」

「・・・はぁ。わかったわよ。」


 もう一度桜花の両親を見る。

 僕は、そのまま少し後ろに下がり、両手をつけて頭を床にこすりつけた。


「どうか、僕と桜花の婚約・・・みんなとの婚約を認めて下さい!お願いします!!」


 桜花のご両親も、僕の両親も何も言わない。

 その時、となりで、何かをこする音がした。

 横目に見ると、桜花も額を床につけていた。


「桜花!?」

「駄目よ龍馬。私はあなたの正妻よ。だったら、みんなを認めて貰うのに、私が何もしないでどうするのよ?これは、私が望んだことでもあるし、私が決めた事よ!あなたにだって邪魔はさせない!!」

「・・・わかったよ。」


 僕と桜花は、二人共、土下座の体勢を崩さない。

 そのまま、何分たったのだろう。

 ため息が聞こえた。


「龍馬くん、桜花、顔をあげなさい。」

「ええ。そうしてくれるかしら。」


 桜花の両親の声がしたので、頭をあげる。


「色々複雑な思いだが・・・」

「もう、桜花決めちゃってるみたいだしね。それに、二人共もう、夫婦みたいだもの。これから引き裂くのは私には出来ないわ。」

「そうだな。それほどの覚悟が見えた。私も同じだよ。龍馬くん。一つだけ約束してほしい。」

「はい。なんでも言って下さい。」

「桜花を泣かせるような事だけはしないでくれ。お願いする。」

「誓います!桜花につらい思いは絶対にさせません!!」

「うん。ならば、廻里家は正式に、龍馬くんとの婚約を認めよう。三上家としてはいかがだろうか?」

 

 桜花のお父さんが僕の父さんを見る。

 父さんは戸惑っていたけど、すぐに表情を変え、


「正直、戸惑っているのが実情ですが、二人の真剣さはよくわかりました。二人がそれでいいのであれば認めようと思います。廻里さん、愚息ですがよろしくお願いします。」


そう言って、桜花のお父さんに頭を下げた。

 はぁ・・・良かった・・・


「それにしても・・・桜花。私の言った通りだったでしょう?龍馬くんの魅力に気づく人はすぐに出てくるって。」


 すみれさんがそう可笑しそうに言った。

 桜花はバツの悪い顔をしている。


「あら、龍馬の事なんて、桜花ちゃん以外誰も見ていなさそうだけど?」


 母さんが不思議そうに言う。

 悪かったな、モテなくて!!


「いえ・・・違うんです。龍馬、実はモテるんですよ。それも、可愛いくて良い子ばっかりに。その・・・私が、中学生の時から他の子をブロックしていただけで・・・」

「え!?そうだったの?」


 母さんが桜花の言葉に驚いている。


「はい・・・で、龍馬が向こうに行って、私と合流するまでに、おおむね1年位開いていたんですが、その間に・・・美少女や美人ばっかり助けて好意を持たれて押しかけられたんです。最後は神様まで・・・」

「ちょっ!?違うよ!?僕はそんなつもりで助けたんじゃ・・・」

「お・だ・ま・り!!」

「・・・はい。」


 そんな僕たちを見て、みんな笑っていた。


「ははは!!なんだ龍馬!お前、もう桜花ちゃんに頭が上がらないのか!!」

「くくくっ!龍馬くん。それじゃさぞかし再会した時には大変だったんじゃないか?」

「まさか、龍馬がそんなにモテるなんてね・・・ちょっと驚きだったわ。桜花ちゃんもかなり可愛いから、彼女として紹介された時には驚いたもんだけど・・・」

「うふふ。私の見立て通りだったわね。桜花。勇気を出して良かったでしょう?」


 しかし、桜花は少し、真面目な表情になった。

 両親達がそれに訝しんでいると、桜花は、僕と再会した時の事を語り始めた。


「あのね、お父さん、お母さん。私はね、龍馬と合流する直前、敵に殺されかけてたの。」


 みんなの表情が驚きに変わる。


「で、ギリギリの所で龍馬が助けに来てくれたのよ。その時に、私の状態を見て、龍馬が切れちゃってね。まだ、きちんと扱えない力を使って暴走しちゃったのよ。その暴走は凄くて、国が一つ消える所だったわ。」


 息を飲む、両親達。


「個人でそんな能力を持っているなんて想像できないだろうから、それは後で証明するわね。で、それを止める為に、龍馬の仲間・・・他の婚約者達と私で、龍馬を止めたの。文字通り命をかけてね。だから、受け入れるのにそんなに時間がかからなかったわ。だって、それだけ龍馬の事を愛しているってことだったから。」


 両親達は無言だった。


「だからね。私にとっては、他の婚約者は敵じゃ無くて、仲間なのよ。その内の一人は、向こうに行って一年間、私の面倒を見てくれたお姫さまで、親友だし、他にも私が何度も挫けそうな時に、助けてくれた神様だったりしたからね。」


 そう笑った桜花を見て、桜花の両親はようやく口を開いた。


「そうか・・・まだ、きちんと証明されていないが・・・私は既に信じる気になったよ。それだけの気迫が今の桜花にはあった。龍馬くん。娘を助けてくれてありがとう。感謝する。」

「同じくね。龍馬くん。娘が今こうして帰って来られたのはあなたのおかげよ。ありがとう。」

「桜花ちゃん。こちらも同じくだよ。君がいなかったら龍馬の心は無事では無かっただろうね。ありがとう。」

「桜花ちゃん。夫の言う通りよ。本当にありがとうね。」


 そう言って、笑顔になった両親達。

 どうやら、信じて貰えたみたいだし、認めて貰えたみたいだな。

 良かった。

 桜花と顔を合わせて微笑み合う。


 そして、桜花がパンッと柏手を打つ。

 

「それじゃ、証明しに行きましょうか。道場に行きましょう。」


 いよいよ、証明の時間です。

 ・・・果たして、どんな反応になるのか・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る