第337話 息子 side龍馬の母親

 息子がいなくなった。

 それも突然。


 一緒に居た、息子の龍馬の彼女である桜花ちゃんが、龍馬と一緒にいたらしいんだけど、混乱してか、泣きながら「突然空中にある穴に吸い込まれた!」と言うだけで、要領を得ない。


 私と夫は、桜花ちゃんを落ち着かせ、ご両親に連絡し、一緒に警察に行った。

 しかし、龍馬が居なくなった時の目撃者は無く、付近に防犯カメラも無かったため、まともに相手にされず、家出という事になってしまった。


 桜花ちゃんは、警察官に泣きながら詰め寄って説明したけれど、やはり困惑させるのみで、ひとまず家出人の届け出をするに留まり、様子を見る事になった。


 桜花ちゃんは、私達夫婦に、泣きながら何度も謝った。

 正直、桜花ちゃんが言うような荒唐無稽な事が起こったというのは、到底信じることは出来ない。

 でも、桜花ちゃんが言っている事が本当であったとしても、桜花ちゃんに非は無い。

 それに、これだけ取り乱しているのに、桜花ちゃんがどうこうしたとも思えない。

 私達夫婦は、桜花ちゃんを信頼している。

 この子はとても良い子だ。

 それに、龍馬の事が好きだというのが、凄く伝わって来る。

 意味もない嘘をつくとも思えないし、誰かに脅迫されていたとしても、それに屈さない心を持っていると思う。

 それが、余計に私達を混乱させるものになっていた。

 しかし、とりあえず、桜花ちゃんにも落ち着いて貰う必要がある。


 だから、


「いいのよ桜花ちゃん。あなたのせいでは無いわ。私達夫婦も探してみるから、あなたの方に連絡があったら教えて頂戴ね。」


とだけ言って、ご両親と共に帰って貰った。


 私達は、それから一週間、仕事を休ませて貰って、いなくなったとされる場所付近や、駅で聞き込みなんかをして探したけれど、まったく情報を掴めなかった。

 一生懸命探し過ぎたのと、心労でなのか、6日後には私は倒れてしまった。


「お前も少しは休みなさい。後は、私が探しておくから。」


 夫はそう言って、また探しに行った。

 一人でベッドで横になっていると、涙があふれてくる。

 龍馬・・・いったい何があったの・・・?

 今、どこにいるの?

 元気にしているの?

 どうか、無事でいて!!


 翌日にも、進展は無かった。

 私達はひとまず、仕事に行くことにした。

 私達でしか出来ないこともあるからだ。

 

 会社では気を使って貰い、もう少し休んだらどうかとも言われた。

 けど、社会人としての責任もあるので、無理を言って仕事に出た。


 次の日、桜花ちゃんがいなくなったと、桜花ちゃんのご両親から連絡が来た。

 なんでも、自宅から突然いなくなったとの事で、靴なんかは家にあったらしい。


 私達は、桜花ちゃんの母親であるすみれさんを窓口にして、連絡を取り合った。

 桜花ちゃん・・・変な事考えないといいけれど・・・

 責任を感じて、自殺とかしてないよね?

 どうかはやまらないで・・・


 桜花ちゃんがいなくなって3日がたった。

 今日は夫と仕事を自宅ですることにし、夕方には桜花ちゃんのご両親と会って情報交換をすることになっている。

 毎日夜にはすみれさんと連絡を取り合っているけど、向こうにも進展は無いようだ。

 一度、きちんと話あって、すり合わせをしようという事になっていた。


 龍馬・・・あんた本当にどこにいるのよ・・・

 早く帰って来なさいよ・・・お父さんも私もあなたがいない事に限界なのよ・・・

 桜花ちゃん・・・あなたもよ?

 早く帰って来てあげて。

 龍馬がいなくなったのは、あなたのせいじゃないわ。


 龍馬・・・あなたは昔から、変な所で要領が良かったし、私の知り合いの中国拳法の師匠と、桜花ちゃんのお父さんから武術を教わっているから、そんじょそこらの事には負けないかもしれないけど、それでも親は心配するのよ・・・


 あなたの後輩くんも心配して一度顔を見せたのよ?

 噂を聞いたって。

 みんなあなたを心配しているの。

 早く・・・早く顔を見せてちょうだい・・・


 ピンポーン!


 あら・・・誰かしら?

 何か注文したっけ?


 私は備え付けのインターホンのモニターを見る。


「はい・・・どちらさま・・・」


 えっ!?

 そこには、息子の龍馬が映っている。

 うそ!?

 幻覚まで見えるように!?


「ただいま!」


 声を聞いて確信した。


「あなた!龍馬が!龍馬が!!」


 ああ・・・間違いない!

 この感じ!

 龍馬に間違いない!!


 私は玄関に走って行った。

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