第336話 ただいま

 突然、浮遊する感覚に切り替わる。


「きゃっああああああ!?」

「おっと。」


 僕は、桜花をお姫さま抱っこして、魔力で空中に足場を作る。

 問題なく魔力も使えるみたいだ。

 まぁ、万が一があっても、どうとでも出来たんだけど、一安心だね。


 下を見ると、そこには山々が見える。


「ここは?」

「ああ、僕たちの家からちょっと離れた山の中だよ。」


 ここは愛知県の北の方にある山の中だ。

 移動するにあたって、座標をどうするか悩んだんだけど、以前行ったことがある、岐阜県との県境にある市の大きな池の近くにしたんだ。

 ここなら、帰り道もわかるしね。


 空を見上げると、現在は太陽は中点に差し掛かったところだ。

 おそらくお昼の12時前後だろう。

 

 こんな時間にいきなり現れるのを、誰かに目撃でもされたら、大変だからね。

 あえて、上空に出口を開いたんだ。


「ちょっと!それなら最初に言っておきなさいよ!!」

「痛っ!」


 桜花にほっぺをつねられる。

 僕は、姿を隠す魔法『インビジブル』を使用する。


「わっ!?何!?龍馬が消えた!?」

「違う違う。姿隠しの魔法だよ。とにかく一度下に降りよう。」


 僕たちは地上に降りた。

 

「・・・この空気。帰って来られたのね・・・」

「そうだね。」


 やっぱり、向こうと違って、科学技術が発展しているだけあって、たとえ山の中だとしても、空気が淀んでいる感じがする。

 昔は空気が良いと思っていたけど・・・排気ガスがまったくない異世界とは比べ物にならないなぁ。


「さて、無事帰って来られたし、着替えましょうか。」

「うん。」


 僕たちは、自分のストレージから、学生服を取り出して着替える。

 最初から着替えておけば良かったのでは?と思われるかもしれないけれど、何せ初めて使用する魔法だったからね。

 万が一があって、全然違う世界に来ちゃった場合、戦闘しなきゃいけない時に、学生服じゃちょっと防御力に難があるかもしれなかったから、移動してから着替える事になってたんだ。


 衣擦れの音だけがする。

 う〜む。

 目の前で桜花が着替えていると思うと・・・ドキドキするね!

 見えないけれど。


「・・・なんかよこしまな気配がする・・・」

「・・・なんの事?」


 ふ〜。

 危ない危ない。

 桜花がジト目でこっちを見ている気がする。

 桜花からも見えない筈なのに、なんでわかったんだろう?


 僕たちは着替えを終えた。

 インビジブルを解くと、制服を着た桜花が現れる。

 ・・・あれ?前よりも・・・


「・・・あら?ちょっと太ったのかしら?それとも筋肉質になったのかしら?なんだか制服がきつい気がする。どう思う?」

「・・・・・・」


 違う!違うよ!

 太ったんじゃない!

 胸とお尻が大きくなったんだよ!


 そりゃそうだよね。

 だって、こっちでは3日だけど、向こうで一年以上過ごしてるんだもん!

 色々と大きくなるさ!

 というか、前よりも制服着た桜花がエロく見える。


 僕は突っ込まずに無言を貫き通した。

 しかし、桜花にはお見通しだったみたいだ。

 僕をニヤニヤ見ながらほっぺをつついてきた。

 くそぅ・・・


 とりあえず下山を開始する。

 ちょっと駆け足・・・と言っても、普通の人よりもだいぶ速いけど、気配察知で人がいないのを確認しながら移動しているので、見られることは無い。

 というか、普通の道じゃない山の中を疾走してるからね。

 まず、人はいないよ。


 移動方向については、空中に居る時に、駅がある方角は確認しているので、そちらに向かう。

 それから15分位かけて、駅に到着した。

 ・・・車で下山するより早かったな。

 当然だけど、僕たちは一切汗もかいていないし、息も切らしていない。


「さて、最寄りの駅に着いたわね。・・・にしても、これだけのペースで移動してもまったく疲れないなんて・・・本当に人間を越えちゃってるわね。」


 桜花が苦笑しながらそう言った。

 ストレージにある財布を取り出し、久しぶりにこっちお金を使う。

 駅で新聞を購入して、日付を確認するためだ。


 よし!おおむね計算通りだね。

 その日付は、桜花が召喚された3日後になっていた。


 僕たちは、最寄り駅から電車を乗り継ぎ、地元へ向かう。

 桜花と僕は、中学が一緒だった通り、近所とまでは行かないまでも、地元は一緒だ。


 地元の駅に到着して、最後の打ち合わせをする。


「本当に、それでいいのね?」

「うん。ここまで来たら覚悟を決めよう。」

「わかった。龍馬がそれでいいなら、私も覚悟を決めるわ。」


 僕たちは、駅で別れてそれぞれの家に向かった。


 徒歩で20分位。

 これは流石に歩いて行った。

 僕にも、流石に葛藤はあった。

 

 でも、決めたんだ。

 誤魔化すのは止めようって。


 その為に、親には本当の事を話すつもりだ。

 信じてもらうための方法もある。

 

 だから、まず、きちんと話をしようと思った。

 みんなも紹介しないといけないしね。

 ・・・桜花の家族に殺されるかもしれないけどね。


 家の前に着くと、両親の車が置いてあった。

 どうやら、父さんと母さんは家にいるみたいだね。


 建築家の父さんと、デザイナーの母さんは、結構自由に仕事が出来るので、家にいる事も多い。

 さて・・・行くか!!


 僕はチャイムを鳴らす。

「はい・・・どちらさま・・・」


 母さんだ!

 言葉が途中で途切れる。

 いきなり帰ってきたから驚いているんだろうね。


「ただいま!!」

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