第334話 帰還の術式

 めくるめく夜を過ごしつつも、日中は帰還の為の術式の構築に入っている僕。

 ちゃんとやることはやっていたのです。

 ・・・て言い方すると、誤解を招きそうだけど。


 そして、夜のあれこれがみんなを一周した次の日、ついに帰還術式が完成した。

 今、ジードとセレスに確認して貰っている所だ。


 これでOKが出たら、いよいよ、一度戻ることになる。

 苦労したんだよね・・・何が一番苦労したかって、時間をどう合わせるかって事なんだよね。


 戻れたは良いけれど、10年とか100年とかズレてたら意味ないしさ。

 時空間魔法と、神力、創造神様から貰った指輪に付与されていた世界転移の術式を解析したものを上手く組み合わせて、ジードと一緒に開発したんだ。

 凄く大変だったよ・・・


 計算では、桜花がこの世界に来きてから3日後位に戻る事になる筈だ。

 僕が次元穴に飲まれてから、だいたい10日後位かな。


 これ以上前になると、大雑把な調整しか出来ないので、下手したら一ヶ月前とか年単位になる可能性がある。

 かといって、普通に戻ったら、1年以上後になっちゃうし。

 流石に、時期が来るまで隠れて過ごすのはきつい・・・よくSFであるタイムパラドックスなんかが起こっても困る。

 一度扉に魔法付与して固定してしまえば、後はその世界の時間軸に準ずる筈だから、成功したらこれ以上の改良は必要ない。


 今から親への言い訳考えないとなぁ・・・もしくは思い切って・・・

 

 僕がそんな事を考えていると、ジードとセレスがこちらに来た。

 確認終わったのかな?


「龍馬よ。おそらく大丈夫だろう。術式を構築しても、壊れる気配は無いし、暴走する気配も無い。」

「後は、実際に使用してみて、成否を確認するしかありませんね。本当は創造神様のお墨付きが欲しい所ですが・・・あの方もかなり忙しいので・・・」

「いや、いいよ。自分で試してみる。でも、問題は・・・最初に僕が試してから桜花を迎えに来るってのに、桜花が納得してくれるかなんだよなぁ・・・」


 万が一がある状態で、桜花を巻き込みたくない。

 出来れば、桜花にはこれ以上危険な目には遭って貰いたくないんだよ。

 でも・・・なぁ・・・


 僕たちは、居間に入って、その旨を說明しただけど・・・


「嫌よ。」


 やっぱり。

 桜花の性格的に納得しないよね。


「でもさ、桜花。万が一があるかもしれないんだ。だから・・・」

「嫌ったら嫌!これ以上置いて行かれるのはたまったもんじゃないわ。何か遭っても二人で乗り越えればいいだけでしょ?」

「う〜ん・・・でも・・・」

「それとも・・・あたしとじゃ嫌?」

「うっ・・・」


 若干涙目で上目遣いをする桜花。

 ぐぅっ・・・やっぱり勝てない・・・

 最近、困ったり、強請ったりする時、みんなこればっかり使って来るんだよね・・・

 ああ・・・僕は弱いなぁ。


「はぁ・・・わかったよ。わかった!じゃあ一緒に行こう。」

「うん!」


 桜花は途端に笑顔になって頷いた。

 僕、この先一生こんな感じなんだろうなぁ・・・


「それで、リョウマさん。今後の予定はどうされるの?」


 リディアが訪ねて来た。


「取り敢えず、まずは僕と桜花で一端戻るよ。僕たちは失踪扱いだろうから、多分、落ち着くのには時間が掛かると思う。警察っていう、こっちでいう・・・兵士かな。なんかからも話を聞かれるだろうしね。」

「じゃあ、また会えるのはかなり先なのですか?そんなの寂しいです・・・」


 レーナが俯く。

 みんなの顔も晴れない。


「いや、そんな事はないよ。僕は帰り次第、僕の部屋に帰還用の術式を付与した扉・・・次元扉とでも名付けるかな。次元扉を設置して、ホームと向こうの僕の部屋を繋ぐつもり。だから、会おうと思えばいつでも会えるさ。出歩くことはすぐには無理だけどね。」


 僕がそう言うと、みんなホッとした表情になった。


「でも、みんなにも課題はあるよ。リディアとグレイスとウルト、レーナとセレス、ルーさんとアナは良いとして、アイシャとメイちゃん、エスメラルダは、今練習中の姿を変える為の魔法を完璧にして貰う必要がある。それに、桜花が監修した、向こうの最低限の知識と常識を身につけて貰う必要もあるね。」


 向こうには獣人や竜種はいないからね。

 業が深い日本では、ある意味喜ばれるかもしれないけれど・・・騒がせるのも見世物にするのも本意じゃない。


「言葉の問題は、ジードがくれた『翻訳』のスキルがあればわかる筈だからいいけど、字は練習しないと書けないだろうから、その辺りはしっかりとね。セレス、見てあげて。」

「ええ、まかせてください。」


 その辺りは、セレスは流石に管理者だっただけはあって完璧だ。

 先生役をお願いしている。

 翻訳スキルは、コストが低いらしく、管理者見習いのジードが、練習がてら与えてくれたんだ。

『幻覚』や『变化』のスキルは、コストも高く、まだ加護の付与は難しいようで、魔法を教わる事にしたんだよ。


「僕と桜花の出発は3日後だ。みんな見送りに来てくれるみたいだから変更できない。次元扉を繋いで、来れそうなタイミングで一度顔を出すよ。もし、僕の考えている通りに進めば、両親にも会って貰うと思うから、心の準備をしておいてね。」


 僕がそう言うと、みんな気合を入れた表情になった。

 相手の両親への挨拶だもんね。

 緊張するよな・・・


 さて、後3日間、僕はのんびり過ごすとするかな。

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