第326話 打ち上げ(4)

「被告人三上龍馬くん。あなたは、女性を無自覚にたらしこみ、釣った魚には餌を与えず、婚約者を悶々とさせています。」


 人妻裁判とやらは、フェオドーラさんのそんな口上から始まった。

 僕を取り囲むように、人妻7人が見下ろしている。

 傍聴人は他の女性全員だ。

 桜花とレイチェルさんとイリーナさんは呆れたような顔をしていて、ミリアンちゃんは目をキラキラとさせている。

 なんで?

 アインくんは気の毒そうな目でこっちを見ている。

 なんでアインくん混じってるの?


 僕は助けを求めるように、かたまっている男性陣に目を向ける。

 すると、一斉に目を逸らされた。

 見捨てられた!?

 酷いよ!!


「被告人。聞いていますか?」

「はい!聞いています。」


 フェオドーラさんがじろりと僕を見た。

 怖い!


「被告人は、よく聞いていて下さい。もし、有罪が確定したら、『女王と巫女頭による、めくるめく夜のツアー』の刑に処します。」


 なんて!?

 何それ!?

 僕がちらりとアネモネさんとセルマさんを見ると、二人は妖艶に舌なめずりをしていた。

 ひぃ〜〜〜〜!?


「そして、被告人には発言権はありませんし、弁護人もいません。」


 どんな裁判!?


「それでは、証言者、リディアさん前へ。」

「はい。リョウマさんは私達に対し、まったくと言って手を出しません。婚約者に手を出さない、これは重罪だと思います。女性にも性欲はあります!」

「そうだ!女にも性欲はあるんだ!!」

「そうだぜ!」


 婚約者達が騒ぎ出す。

 そんな事言われても・・・

 セレスはこのノリについて行けず、困った顔をしている。


「傍聴者の方、お静かに。それでは次の証言者の方、ガーベラさん前へ。」

「はい!被告は私を含め、色々な人を助けました。それも命の危機や、尊厳の危機です。そして、私達に訓練をしてくれて、強くもしてくれました。とても感謝はしていますが、これで惚れない訳がありません!にもかかわらず、特定の人しか婚約者にしていません!ズルいです!!」

「そうです!師匠はズルい!」

「・・・わたしももう少し受け入れてもいいのではないかと・・・」

「そうだそうだ〜!!」

「ん。婚約者にしなくても、愛人という手もある。」


 今度はウルト達婚約者じゃない組みが騒ぎ始めた。

 いや・・・僕、好きになってもらいたくて助けてる訳じゃないからね!?


「お静かに!お静かに!ここで、参考人として、この方々に話をして頂きます。では、お二方、どうぞ。」


 フェオドーラさんが何故か魔法で衝立のように向こうが見えないようにする。

 そこに二人の女性が入っていった。

 いや、入って行くの見えてるし。


「名前は伏せさせて頂きます。わたくしは、夫に先立たれ、なんとかある国の女王として頑張って統治しております。そんな時に、ある男性にとても男らしいところを見せつけられ、女としての部分を刺激されてしまいました。意を決して誘っても、頑なに拒否されます。女性が勇気を出して誘うのを断るなんて・・・わたくしはいつも枕とベッドを涙とかあれやこれやで濡らして夜を過ごしているのです。人妻のみなさん、どう思われますか?酷いと思いませんか?」


 おい!

 突っ込みどころしかないでしょうが!!

 名前伏せてもわかるし!!

 ある国ってなんだ!ネモス小国でしょうに!

 あれやこれやで濡らすとかいうな!!

 何の液体・・・いや、うん。

 黙ってよう。


「大変悲しい申し出でしたね。それでは次の方。」

「はい。私は、とある種族の巫女頭をしています。娘が被告の妻になることになり、私は心配をしていました。何の心配か?ナニの心配です。果たして娘はちゃんと導いて貰えるのか?夫のそっちの力量はいかほどか?そんな親心から、味見・・・では無く、娘婿に試練を与えようとしました。しかし、事もあろうに、娘婿は試練を受けようとしません!これでは心配は一向に晴れません!私は悲しい!!」


 こっちも!!

 ナニの心配とか言ってるし。

 味見って言っちゃってるじゃん!!

 試練とかカッコいい事いってる風だけど、ようは自分がしたいだけだよね!?

 まったくこの二人は・・・


「それはさぞかしお辛かったでしょうね・・・」


 フェオドーラさんが涙をぬぐう素振りを見せる。

 あんたもか!!


「それでは最後に、婚約者の筆頭である廻里桜花さん、お願い致します。」


 呆れて見ていた桜花だったけど、仕方なく前に出てきてこちらを見た。

 ううう・・・何を言われるんだろう・・・


「・・・この茶番に思う所が無い訳ではありませんが、一部共感している所があるのも事実ですので、その話をさせて貰います。」


 そんな語り始めだった。


「被告はとても優しい、それは皆さんもお認めになっていると思います。ですが、被告は一つだけ勘違いしている事があるわ。」


 勘違い?


「好きな女性を大事にする事についてです。先程リディアが言ったように、女性だろうが男性だろうが性欲はあります。大事にするあまり、そういう面を蔑ろにするのは駄目よ。自分には魅力が無いのか・・・自分が抱いてる気持ちと違うのではないか?そんな風に思ってしまう。もう少しそこも考えて欲しい。」


 ・・・大事にする、の捉え方の違いか。

 独りよがりな優しさになってたのかもね・・・


「それに、ガーベラ達については、気持ちはわからないでもないわね。助けたければ助ければ良い。でも、助けられたほうがどう感じるのかも考えられるともっと良いと思うわ。と言っても、私達はお人好しの龍馬を好きだから、人助けを止めろとも言わないけれど。自覚は大事よ。」


 ・・・そっかぁ。

 助けられた側の気持ち・・・確かに考えた事も無かったな。


「最後に。アネモネさんとセルマさんのはただの欲望だから、食べられないよう気をつけてね。」

「ちょっと!!オウカさん!なんて事言うの!」

「そうよ!なんで私達は擁護してくれないのよ!!」


 ぶ〜ぶ〜と二人が文句言ってるけど、桜花は聞く耳持ってない。

 まぁ、この二人はね。


「はい、ありがとうございました。それでは、裁判長お願いします。」


 シルヴァさんが前に出た。


「リョウマ。わかったか?お前が手を出さないのを貫こうというのは悪くねぇ。でもな、相手の事もきちんと考えないと駄目だ。手を出さないのが優しさ、じゃねぇんだ。お前はあんまり女心がわかってねぇみたいだが、女だってそういう所で寂しくなるんだぞ?もうちょっと考えてやれ。」

「シルヴァの言う通りだな。補足するなら、だからと言って誰彼構わず抱けと言ってる訳じゃない。お前の意識がそこに囚われている限り、そういう雰囲気にはなれないものだ。だからちゃんと見てやるんだな。」

「人族も、獣人族も、エルフ族も竜族だって生き物はみな獣です。自然な行為なのですよ。夜に燃え上がるのは仕方がないのです。」


 シルヴァさん、マリオンさん・・・ありがとうございます。

 確かに僕のこだわりだけで、みんなの気持ちを蔑ろにするのは違うかな。

 ヴァリス決戦前に話し合ったけれど、それを踏まえても意識を変えてみよう。

 エルさんはちょっと違う。

 だいぶ違う。

 それはあなたの願望ですよね?


「はい、ありがとうございました。という訳で、被告人三上龍馬くんは執行猶予付きの無罪となりました。私からも一つ。向こうの価値観は大事ですよね。私もそうでした。でも、好きな気持ちに、元の世界も異世界もありませんよ。だから、貞操観念だけ向こうの基準というのはおかしいと思います。一度考えてみて下さいね。」


 色々考えさせられたなぁ・・・

 でも、僕がみんなを好きなことには代わりは無いか。

 少なくとも、婚約者達にはそういう面でももう少し考えないと駄目だね。

 大事にし過ぎて不安にさせてたら本末転倒だからな・・・

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