第314話 VS神の人形(8)side桜花

 聖剣による強化状態で人形と打ち合う。

 人形も槍による強化をしていて、どちらかと言えば押されているかもしれないわ。


「ははははは!どうした愚物!!」


 くっ・・・


「おいおい!どうした桜花!お前がだらしねぇならこっちでやっちまうぞ!!」


 その時、大きな声が響いた。

 シルヴァさんだ。

 その姿をちらりと見ると大きな傷も負っていないように見える。

 もう片付けたのね。

 流石だわ。


「こら!桜花ちゃん!あなた勇者でしょう?情けない姿を見せてちゃ駄目よ!!」

 

 その脇には先輩もいる。

 流石せんぱ・・・え?

 なにか生首持ってないかしら?

 怖すぎない?

 

 人形はそちらを見て、不快げに眉を潜めた。

 

「ふん・・・やられたのか。神の従者の風上にもおけぬ奴らだ。他も・・・どうやら、やられているようだ。情けない。さっさとお前を殺して掃除しなければ主様に申し訳が立たん。」


 舐められてるわね。

 でも悔しいけれど、それだけの力は持っているのよね。


 しかし、そんな私を見て、シルヴァさんが叫んだ。

 

「オウカ!お前まだ覚悟が決まってねぇな!いいか?お前は勇者だ!その力の本質は技じゃねえ!身体能力でもねぇだろ!お前はフェオに何を習ったんだ!!」 


 力の本質?

 私は必死に人形の攻撃を防ぎながら耳を傾ける。


「そうよ桜花ちゃん。教えたわよね?勇者とは!?」


 先輩がそう叫んだ。


 勇者とは?

 勇者とは・・・勇気あるもの。

 勇気とは・・・心の強さ。


 そうか!


 私は思い出す。

 龍馬に言われた言葉を。


『君はなんの為に強くなったの?』


 最初はお父さんに憧れて。

 次に、間違っていることは間違っていると言える、自分を貫き通せる強さが欲しくて。

 龍馬と再会してからは、龍馬の隣に立てる力が欲しくて

 そして今は・・・みんなと共にこれからを生きる強さが欲しくて!!


 心を燃やせ!

 私は勇者としては正しくないのかもしれない!

 世界の全てを守ろうとは思えないから。

 

 でも、間違ってても良い!!

 本当に私が道を誤った時には止めてくれる仲間がいる、愛する人がいる!

 

 私は勇者だ!

 勇者とは勇気あるもの!

 苦難を乗り越えられなくてどうする!!


 そう思った瞬間、胸の中にあるナニカが熱く燃え上がる。


 頭に自然と浮かんでくる。


 スキル獲得 ブレイブハート

 効果    苦難を乗り越える魂の力

       全ての能力の超向上


 『桜花さん、あなたの想いがスキルを開花させました。そのスキルは、初代勇者しか持ち得なかったものです。頑張って。』


 セレス様の声が聞こえた。

 周りを見ると、満身創痍のグレイスとアイシャもいた。

 みんなが見守ってくれている。


 私も立ち止まっていられない。

 道は自分で切り開く!!


「『ブレイブハート』!!」


 私の身体を桜色のオーラが包む。

 このオーラは私の魂が生み出したもの。

 本当の意味で魂を賭ける!


「何をしようと無駄だ!死ね!!」


 人形が凄まじいスピードで突きを放った。

 さっきまでは防戦一方だった。

 でも、今は!!


「廻里流剣術『刃流し』!」

「ぐおっ!?」


 私は突きに沿って刃を滑らせ、人形の胴体に一撃入れた。

 ようやくヒットね。


「廻里流剣術『双蛇そうじゃ』!」


 人形が体勢を戻す前に横薙ぎ2連を放つ。

 人形は、一撃は防いだものの、もう一撃を側頭部に食らう。


「ぐあっ!!・・・調子に乗るな!!」


 人形が上段から斬りつけてくる。


「甘い!廻里流剣術『風車』!」


 私はそれを上手く巻き込み、槍を跳ね上げた後に切り下ろす。


「がっ!?」


 徐々に増えていく人形の傷。

 まだまだ!


「まだよ!廻里流剣術『鹿威ししおどし』」


 私は右腕、左腕、両足を三角形を描きながら斬りつけ、最後に腹部に突きを放った。


「ぐおおっ!?」


 人形は衝撃で後ずさる。

 隙!

 私は一気に気を練る。


「させん!『投破』ぁ!!」


 人形が力を練り込み槍を投擲してきた。

 私は飛んでくる槍を見据え、


「はぁぁぁぁぁあ!!」


 廻里流剣術 烈。

 上段からまっすぐ振り抜き槍を迎撃する。

 聖剣と槍の衝突による衝撃波が、周囲に弾ける。


「無駄だ!主様の生み出した聖なる槍が負けるものか!!」

「ああああぁぁぁぁぁぁぁ」 


 負けてたまるもんです・・・かぁぁぁぁ!!


 目を見開き刀を振り抜く。

 その瞬間、槍は真っ二つに両断され、そのまま消滅した。


「な・・・に・・・?神が作りし槍が・・・破れただと?」


 呆然としている人形。

 勝機!!

 私は集中する。

 この一刀で仕留める!!


「私は・・・私達は負けない!廻里流剣術奥伝がつい!『滅』!!」


 この技は、今までどれだけ練習しても、成功した事は無かった。

 私は全ての力を振り絞る。

 唐竹割

 袈裟斬り

 逆袈裟

 最後に突きの連続技。

 

 字面だけなら普通だろう。

 でも、『滅』と言えるのは、奥伝の3つ、つまり、不知火使用時の神速、紫電の足運びと腕の運用、羅刹の捻りによる強化、全てが一度に出来なけれならない。

 これは廻里流剣術の正当継承者にのみ伝わる一子相伝の技。


 どれだけ練習しても出来なかったけれど、今なら!!


「はぁぁぁぁぁぁあぁ!!」


 閃光の様に走る剣閃。


「ば・・・か・・・な・・・」


 後に残されたのは・・・分割され、胸に大穴を開けた人形だった。

 人形はそのまま塵になっていく。


 ふぅ。

 私は残心をとく。

 出来た・・・出来たよお父さん!!

 私出来た!!


「オウカ!!」


 レーナが涙を流しながら飛びついてきたわ。

 私は全力を出し切った事もあり、支えきれずに転んじゃったの。


「やりましたね!オウカ!!」

「オウカお姉ちゃん凄いのです!!」

「か〜また強くなりやがった。負けてられねぇな!」


 みんが身体を引きずりながらも近寄って抱きついてくる。

 嬉しい。

 やっぱり私はみんなの事が大好きだ。


「これだから勇者は油断ならねぇな。今の一撃、多分アタシでもやられてたわ。」

「恐ろしいものだ、まったく。味方で良かった。」

「これもオウカさんの修練の賜物ですよ。それと心の強さでしょうね。」

「凄かったね桜花ちゃん。今の一撃は完全に私を超えていたわよ。もう先輩風吹かせられないわ。」


 シルヴァさん達も口々に褒めてくれた。

 凄く嬉しい。


 龍馬、こっちはなんとかしたよ。

 だから絶対無事に戻って来てね。

 私達を泣かせるんじゃないわよ!!

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