閑話 その頃の桜花(12)

 あの戦争から三ヶ月がたった。


 記憶を取り戻してから、技の冴えが以前にも増しているのがわかるわね。

 今や、帝国で一番強いのは私になっていた。

 これなら、いつでも脱出できるのではないかとも考えた。

 早くリョウマに会いたい・・・


 でも、まだダメ。

 セレス様からの話だと、後1ヶ月は待たなくてはいけない。

 神様が言うのだから、信じようと思う。

 もどかしいけど仕方がないか。


 レーナは最初の内は、あまり元気が無かったけど、最近はそうでもないみたい。

 どうも、あの一件が、吹っ切っれるきっかけになったみたいね。

 

 そう、ついに私は一度殺されかけた。

 今から1ヶ月前、私は王の命令で、帝国南西にある森に、魔物の討伐に行かされた。

 その魔物は強かったけど、そこまで苦戦することなく討伐を終えた。

 しかし、その後の帰り道、突然現れた見慣れない鎧を着た兵士たちに夜襲をかけられたの。


 私達の近くにいた騎士数名は命を落としたけれど、襲撃そのものは退けられた。

 その際、私も初めての人殺しをしてしまった。

 

 しかし、精神的にはそこまでショックは無かった。

 セレス様から貰った加護のおかげか、次元を渡った際に、魂が強化されたおかげか・・・私がこの世界に慣れたせいか、わからないけどね。


 それは置いておいて、その騎士たちを調べてみると、王国の鎧をつけていたのがわかったの。

 それを見て、私につけられていた騎士たちは、憤っていたわ。

 でも、私は気づいた。

 彼らが薬を服用していたのを。


 以前、この薬は、帝国のものだという説明を受けた。

 王国の騎士が使用しているのはおかしい。

 勿論、王国も薬を開発した可能性は、否定できない。

 でも、そもそも、この討伐に、いつも必ず行動を共にするはずのレーナが、王命で居残りさせられているのも変だし、突然、王国と真逆にある、この森に現れるのも、違和感が拭えない。


 だから、私は、こっそり持っていたスマホで、騎士の亡骸や、顔を撮影ししておいた。

 一応、ついて来ていた騎士たちには、私の世界の冥福を祈るための、お祈りをすると言って、少し離れて貰っておいてからだけど。


 スマホの充電については、私の持つ、雷属性の魔法を上手く活用して、オリジナル魔法を作り充電していた。

 もし、一番得意な魔法が雷魔法でなければ、多分無理だったでしょうね。


 そして、城に帰ってから、王に討伐の報告と、襲撃の報告をした。

 王は何食わぬ顔で労ってきたけど、私は見落とさなかった。

 宰相の豚野郎が苦々しげにそれを見ていたのを。

 そして、私の退室時に、王と宰相が密談を始めていたのを。


 自室に戻ってレーナが来てから、スマホの写真を見せたのだけれど、かなり驚いていたの。

 何故なら、その騎士たちは、宰相派閥の騎士であることがわかったから。

 最初、レーナは怒り狂いそうになって、今にも豚野郎に突貫しそうになったけど、うまくなだめて止めた。

 

 でも、この一件以来、レーナは完全に帝国を見限ったみたい。

 私はこの時に、レーナに全てを話した。


 記憶が戻ったこと、セレス様に会ったこと、そしてこの国のこと。

 勿論、例の、声に出さない方法を使ってね。


 レーナは驚いていたけど、納得もしているようだった。

 それ以来、レーナはレーナで、独自に情報を入手するように動き始め、やはり帝国が、レーナに嘘の情報を教えていた事に至ったの。


 レーナは、自分付きの侍女が、天涯孤独である事も調べ、脱出する際には、この侍女も連れて行って欲しいとお願いしてきた。

 渡りに船だ。

 私もそう考えていたし。

 でも、ぎりぎりまで計画を話さないつもり。

 万が一漏れたら、私達だけでなく、侍女も危険だろうからね。


 もうすぐ、もう少しだ!

 

 そんな考えがいけなかったのかもしれない。

 私は知らなかったのだ。

『帝国』最強は私になったけど、『世界最強』では無かった事を。

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