閑話 その頃の桜花(13)

 その男は教会のローブを身にまとっていた。

 私は知らなかったが、実は私が召喚されてから、ずっとこの国にいたらしい。


 その男の役目は、私の監視だったようだ。

 何故、私が知っているのかというと、本人がそう言ったからだ。


 私は王に呼び出され、謁見の間に行くと、その男が王の脇にいた。

 王の脇にいたのは、今まで豚野郎しかいなかった。

 

 レーナを見ると、レーナも首を傾げている。

 どうも知らないようだ。


「この方は、教会が派遣した大司教である。余と同様に敬え。」


 王からはそのように説明された。

 そして、派遣された経緯を、その男から聞くことになった。


「我が名はペイン。偉大なる教皇様より授かった名だ。我は教皇様の命により、お前が召喚されて以来、お前の監視をしていた。今の所、反逆の意思無しと見えるが、どうも帝国で一番強くなった事もあり、増長していると聞いた。よって、上には上がいるとわからせるため、仕方がなく姿を見せた。増長は悪徳である。弁えよ。」


 その男はとても高圧的に言い放った。

 ムカっときたけど、それよりも、その両脇にいる、王と豚野郎の、ニヤつきが我慢できないといった顔の方がムカつく。

 しかし、まずは情報収集しないと。


「あら、増長しているとは、どなたに聞いたのかしら?私はそんな事はないと思うけど?」

「我に対し、そのような態度をとることが問題なのだ。お前の仕事は、帝国の尖兵として戦い、この国に勝利をもたらすことであろう?戦争を拒否していると聞いた。職務をまっとうせよ。」

「それは、最初に王と約束した事よ。私は私の意思で戦うと。誰かに言われて人殺しはしないわ。」

「そのような拒否権はお前にはない。やはり増長しているようだ。叩き直してやる。」

「あなたにできるの?」

「無論だ。」


 ペインの身体から魔力が漏れ出した。

 私は刀を抜く。

 王や豚野郎は、怯えた顔ですぐに後ろに下がった。

 兵士達も、どうすればよいかわからなそうだったが、巻き込まれないように下がったようだ。

 これで、思いっきりやれる。


「さて、始めるか。これは天罰である。」

「御大層ね。」


 私は、身体強化を最大にして駆け出した。

 一気にペインに近づき上段から切り落とす。

 しかし、ペインはその一振りを障壁で防いだ。


「ふむ。この程度か。」

「っ!!まだまだ!」


 私はすぐに刀を引き、刺突に切り替えた。

 1、2,3、4、5


 連続で打ち込むも障壁は破れない。

 細かいのでは駄目だ!


 私は距離をとり、魔力を練り上げ、刀に注ぎ込む。

 そして、思いっきり打ち込む!


「廻里流剣術 烈!」

「むっ!」


 その一撃に障壁はたわんだ。

 あと少しで破れる!

 

 そう思っていた私に、ペインの声が届く。


「中々の一撃だが、何故我が手を出さぬと思っている?」


 そう言って私の腹部に拳を打ち込んできた。

 私は刀を振り下ろしていた事もあり、まともに食らう。


「がはっ!!」


 その一撃で、私は30メートル位吹き飛ばされた。

 なんて重い一撃・・・!

 私が起き上がると、目の前にはペインがいた。


「それ、調教してやろう。」


 そのまま、ペインは私の顔面を蹴り上げた。


「がっ!!」


 意識が飛びそうになる。

 しかし、ここで気絶したら殺される!

 私は飛び退り距離を取ろうとした。


「それで逃げたつもりか?」

「!?」


 ペインは私の目の前から消え、後ろにいた。

 そしてそのまま回し蹴りをくらう。

 

 ベキベキっ!!


「ぐうっ!?」

「そらまだだぞ。」


 蹴り飛ばされた私に追いつき、私の頭を掴んでそのまま顔面から床に叩きつけられる。


「オウカ!!お父様!やめさせてください!お父様!」

「だまれレーナ。これは天罰である。教会が、勇者の増長を押さえるため、必要なものだ!」

「これのどこがですか!」


 そんな言い争いがどこかから聞こえる・・・

 だけど、私の意識はすでに途切れ途切れだ。


 しかし、そんな私の耳元にペインの声が響いた。


「いいか。お前の役目は、戦争に帝国を勝たせる事だ。もし、次に戦わないと言ったらまた同じ目に遭わせる。それでも言うこと聞かなければ、次はあそこで騒いでいる姫を同じ目にあわせる。」


 レーナに・・・


「レーナに手を出すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!極限発動!!」


 私は、ここ三ヶ月で目覚めた、勇者の固有スキル、極限を発動させる。

 このスキルは、限界を越え、3分だけ身体強化状態より、さらに数倍の力を出せる。

 但し、このスキルは一日に1回しか使えず、解かれると、起き上がれなくなる程の、疲労度が身体を襲う。


「っ!!」


 ペインを振り払うと、ペインはそこで初めて構えた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 私は刀でペインを斬りつけると、障壁を越え、始めてペインの頬に傷をつけることができた。


「貴様・・・神の為に動く、この私の身体に傷をつけたな!!」


 ペインは、私の攻撃を捌きながら、突きや蹴りを放つ。

 極限状態でも、まともにヒットさせることは出来ない!

 しかし、ペインの攻撃は何度も私を打つ。


「これで終わりだ!」


 ペインは、私の懐に潜り込むと、両手を上下にした状態で、私の顔面とみぞおちを打った。

 

「がはっ!!」

  

 まともに入り倒れ込む。

 この瞬間、極限が切れ、私は意識を失っていった。

 泣きながら私に駆け寄るレーナが見える。


 ・・・レーナ・・・ごめん・・・

 私は意識を消失させた。

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