第207話 卒業の式典(2)

 拡声の魔道具を使用したアナウンスが入り僕たちは講堂入口に注目する。

 そこからは主席のリディア、次席のシエイラが出てくる。


 二人も僕がデザインしたドレスを身につけている。

 

 リディアは首の後ろで結ぶワンピースタイプのドレスで色は紅色。

 シエイラはワンショルダーのマーメイドドレスで色は空色。


 それぞれの後ろには従者として、女性の体型に合わせた灰色のタキシード風の衣装に身を包んだグレイスと、僕デザインのメイド服に身を包んだルーさん。

 メイド服はこの世界のものじゃなくて、僕の世界の物を参考にして仕立てて貰った特注だ。

 

 会場からみんなのうっとりしたようなため息が漏れる。

 よく似合っているからね。


 そうしているとみんなと一瞬目があった。

 僕が小さく手を振ると、思いっきり笑顔になった。


 笑顔の先に僕がいることに気づいて周囲の目が僕に向く。

 不思議そうにしている人達と、嫉妬の目が多数。

 中には歯ぎしりしている人もいる。


 そして講堂前に卒業生が整列し、学長の挨拶が始まった。

 式典は進み、卒業生の挨拶。

 代表としてリディアが行うそうだ。


 リディアは学長と場所を交代し、卒業生、その関係者の来賓の方を向く。


「卒業生代表リディア・リヒャルト・メイビスです。まずは私の父母を含めた保護者の方、私達の卒業の式典に足をお運び頂きありがとうございました。そして学長をはじめとする教授方、今までご教授頂きありがとうございました。本日、私達は学院を卒業しそれぞれの進路に羽ばたきます。私は本日これより、次席のシエイラ、従者のグレイス共に冒険者となる道を行きます。」


 リディアの言葉に騒然となる周囲。

 やっぱり貴族令嬢の冒険者は珍しいのかなぁ。


「冒険者になるにあたっては様々な方に思い直すようにお声がけ頂きました。学長含め教授方にも学院への就職、教授待遇での話などもございました。しかし、私はすでに行くべき道を決めています。その道に私の父母、兄は理解を示して頂けました。なぜならその冒険者パーティは私の師匠とも言うべき人がおり、私と切磋琢磨し合えるライバルであると共に、良き友人である方々だからです。」


 周りはざわざわしている。

 たまに、「学院史上最高の天才にライバルなんかいるのか?」なんて声も聞こえるね。


「私は全ての卒業生に伝えたい。今日は卒業であると同時にスタートでもあると。私自身も同じです。私が入るのはSランクが何人もいるパーティです。もし、努力を怠れば置いていかれるでしょう。」


 「Sランクが何人も?」「それって・・・」「あの『黒衣の天災』率いるシャノワールだろ?」


 そんな周囲の声が聞こえて、アイシャ達はクスクス笑ってる。

 そうです。

 僕の二つ名が決定していたのです。

 その名も『黒衣の天災』。

 僕達に喧嘩を売った人間や組織、貴族が軒並み破滅に追い込まれた為につけられた不名誉な二つ名。

 見た目普通なのに中身はヤバい事から、出遭ったら破滅って事で名付けられたみたい。


 酷いよねぇ・・・喧嘩うる人の方がダメなのになぁ。

 僕は火の粉を振り払っただけなのに・・・


「そして自分を高めるのは、切磋琢磨し合える友人や尊敬できる先輩であります。どうか皆様も努力を辞めぬよう祈っています。貴族として領地を経営する人も入れば、官僚として働く人もいる。宮廷で魔法師をしたり軍に入る人もいるでしょう。立場に胡座をかき腐らぬようにして下さい。私やあなたの努力が他の人の幸せに繋がります。しいては自らの幸福へと繋がるでしょう。この言葉を持って挨拶とさせて頂きます。ありがとうございました。」


 リディアの挨拶が終わった。

 最後に学長の激励があり、式典は終了。

 解散となった。


 リディア達の周りには人が溢れている。

 でもリディア達は打ち上げを丁寧に断りながらこちらに来た。


 周囲の目がまたこちらに向く。

 しかしそこで、アルザードさん達とジラートさんが前に出たことでおさまった。

 

「リディア、卒業おめでとう。」

「リディアちゃん。おめでとう。主席とは流石は私の可愛い娘ねぇ。グレイスちゃんも3年間ありがとねぇ。」

「シエイラ。よく頑張ったな。お前は私の誇りだ。」


 アルザードさん達は嬉しそうに口々にお祝いの言葉を伝える。

 リディア達も嬉しそうだ。


 するとそこに、


「リディア様ここにいたのか!ご両親ですか?ご挨拶させて下さい!」

「シエイラさん!ちょっとお話させていただきたいのですがよろしいですか?」


 二人の男が取り巻きを連れて現れた。

 二人は中々のイケメンで、一人は爽やかな感じ、もうひとりはちょっとやんちゃな感じがする感じ。


 リディア達は面倒そうに振り向く。

 すると、男たちは


「僕とこいつの二人で冒険者になることにしました。パーティは卒業生でも優秀な者だけで組む予定です。平民上がりの男が率いるようなパーティなんて、何か汚いことをしてのし上がったに過ぎません。どうか僕たちとパーティを組んで下さい!」

「その通りです。シエイラさんやリディア様のご両親がいらっしゃるのであれば話が早い。私は伯爵家、そしてリーダーは公爵家の方です。身分的には最善と思います。どうかお二人に考え直すようにおっしゃって下さい。このお二人に野蛮な身分のパーティは似合わない。そう思いませんか?」


 そんな事を言いました。

 ・・・こいつら僕に喧嘩売ってるの?


 それを聞いていたアイシャ達も不機嫌そうにしている。

 暴れたり言い返したりしていないのは、多分リディア達のめでたい日に揉め事を起こしたくないと思って我慢しているんだろうね。


しかし、我慢しきれない人がいました。


「・・・いまなんとおっしゃいました?」


 

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