閑話 その頃の桜花(10)

「なんだと!?シュエンが死んだだと!?それは真か!」


 明らかに狼狽している王を相手に事実を話す。

 

「おい!貴様勇者のくせに救わなかったのか!!使えないやつだ!」


 相変わらず豚が何か言っている。

 いい加減鬱陶しいわね。

 

 私は刀を抜いて豚を向く。

 近衛兵が私に剣を抜くが・・・


「どきなさい。もし歯向かうなら容赦はしない。あなた達が守るのは王様?それともそこの豚?」


 そう言って殺気を全開にする。

 すると、近衛兵達は身震いしながら剣をおさめ場所を譲った。

 

「おい!お前ら!何故私を守らない!おい!?」


 私は豚の前に立って刀を向ける。


「ひぃっ!?」

「あんたいい加減鬱陶しいのよね。そろそろ出荷するわ。」

「わ・わたしはこの国の宰相・・・」

「勘違いしないで。私がこの国にまだいるのはレーナがいるからよ。国もお前もどうでもいいの。それ以上囀るな。」

「お・王よ!このような狼藉を認めるのですか!?」

 

 豚は王を見て懇願する。


「勇者よ。ここは儂に免じて許してやって「許さない。」ぐっ」


 私は王を見て、声高に言った。


「もしこの豚を許せと言うのならば、私はもうこの帝国から出ていく。しかし、この豚を処分するのならばこの国に居ても良い。こいつはもう目障りなのよ。大したこと無いのに偉そうにして。消えてもらえる?」


 私は豚を見下ろす。

 豚は震え上がっていた。

 そこに、


「オウカ!待って!!ちょっとおかしいよ!?どうしちゃったの!?」


 私がおかしい?

 どこがおかしいのかしら?


「たしかにオウカは苛烈な所もあるけど、命を取ろうとまではしなかったはずよ!今自分が何しているかわかっている!?」


 何って豚を処分しようと・・・処分?それって要は殺・・嘘・・・

 私殺そうとしてた!?


 愕然とする私。

 レーナは私を抱きしめた。


「お父様、オウカは戦場帰りで少し疲れているようです。席を外してよろしいでしょうか?」

「・・・うむ。そうしろ。勇者よ、今この場では何も無かった。良いな?」


 王は私に下がるよう言った。


 自室に帰り、レーナと話し合う。

 私に何が起こっているのか・・・考えられるのは・・・あの薬!


「レーナ、あの薬はどこから手に入れたの?強くなれるって言ってたけど。あの薬を飲んだ時、殺意を押さえるのが大変だったわ。まだその影響があるのかも。」

「あの薬は確か・・・お父様が、強化ポーションだと言ってくださったも・・・の・・・」


 レーナは固まった。

 理由はわかる。

 

「ねぇレーナ。以前の話し覚えてる?」


 ここから逃げる話だ。


「・・・ええ、覚えてるわ。」

「じゃあ、戦場で会った二人の話は?」

「勿論覚えているわ。」

「あれが決定的な証拠だと思うの。」

「そう・・・かもしれない・・・いえ、そうね。」

「じゃあこれからも私と『一緒に』いてくれる?」

「・・・うん。そうするわ。」

「ありがとう!」

 

 どうやらレーナも共に逃げる決心がついたみたいね。

 良かった・・・

 そうと決まれば、色々前向きに考えないとね。

 私の帝国での心残りは、ほぼ消えた事になる。


 しいて言えば、レーナ付きの侍女を連れていくかどうかくらいかしら。


 できれば早いところ出たいけど、そうは行かないでしょうね。

 準備を含めて1ヶ月後ってところかしら。


 ・・・そう言えば、あの獣人の二人の、仲間のエルフと思われる女性が言っていた名前・・・なんだったかしら?あれを聞いて頭が痛くなったのよね。


 なんで急に頭が痛くなったのかしら?

 頭が痛くなるときなんて昔の事を思い出そうとした時・・・ちょっと待って!

 まさか、そこで出た名前が関係しているの?

 

 名前・・・名前・・・『あいつ』のなま・・・え・・・ぐっ・・・痛むわね・・・

 あの時、私は名前を・・・り・・・りょ・・・ま・・・りょう・・・ううう・・・


「どうしたの!?オウカ!?まだどこかおかしいの!?大丈夫!?」


 レーナが私に寄り添う。

 もう少し、もう少しなのよ!

 りょう・・・りょう・・・りょう・・・ま・・・


「あああああああああああああっ」

「オウカ!オウカ!しっかりして!オウカ!」


 異変を察知した騎士がなだれ込んできた。

 やっぱり盗聴していたようね。


 でも、今はそれは置いておく。

 りょう・・・ま・・・りょう・・・ま・・・りょう・ま


「龍馬!」


 思い出した龍馬だ!

 その瞬間私は激痛と共に意識を失った。


*******************************

200話を越えてようやく思い出すことができました。

これが今後どう影響していくのか・・・楽しみにしていて下さい。

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