閑話 その頃の桜花(9)

「時空間魔法 転移 イヴァース帝国」


 レーナの魔法が発動した。

 これで逃げ帰る算段はついた。

 今攻撃したら転移に巻き込まれ四面楚歌となるだけだしね。

 

 悔しそうにしている獣人の女性・・・とても野性味溢れる美人な人ね。

 胸も大きいわね…

 この人が言う通り、仲良く慣れそうな真っ直ぐさがあるわ。


「それじゃあね。また会ったら次も勝負しましょう。あなた名前は?」

「アイシャだ。次も負けねぇぞ。・・・っとお前の名前は?」


 既に景色が代わりかけてる。


「桜花よ」


 その瞬間、周囲の景色はイヴァース城になっていた。

 果たして名前聞き取れたのかしら?


「うっ・・・」


 レーナがしゃがみ込む。

 転移魔法はかなり魔力を消費するみたい。

 これはレーナの固有魔法の時空間魔法奥義らしい。

 私と一緒に頑張りたいと努力した結果、ここ三ヶ月で使用できるようになったみたい。

 と、言ってもどこでもいける訳ではなく、今はまだ、城に帰る事にしか使えないらしいけど。


 私は近くにいた兵に、王へ報告のための謁見の許可を依頼した。

 回答が来るまで近くの椅子に座って、レーナの回復を待った。


 その間に、ここのところの事を思い返す。

 ここ三ヶ月ほど色々あったけど・・・一番は『城壁』のおじさんを倒すことが出来たことかしら。


 自分で言うのもなんだけど、かなり力をつけた気がする。

 でも、あのいけ好かない『帝国の剣』にはかなわなかった。


 あいつがネメ共和国に行く前に、一度訓練場で模擬戦をした。

 ・・・圧倒的だった。

 『城壁』のおじさんを倒してつけた自信を砕けさせられたわ。

 そして性格も最悪だった。


「君は美しいな。俺のモノになる資格がある。王からは手を出すなと言われているが君が望んでいるのならどうとでもなる。君も望んでいるのだろう?まあ当たり前か。それでは王の所に行こうか。そして俺に奉仕するのだ。」


 最初それを聞いた時、何を言っているのかまったく理解できなかった。

 意味が理解できた後、その言葉のおぞましさに思わず、


「寝言は寝て言え勘違い野郎。」


と、女の子らしくない言葉を放ってしまったわ。

 当然あいつはブチギレて、剣で切ろうとしてきたけど、周りが止めてくれた。

 あいつは渋々その場を離れていったけど、それ以来私のブラックリストにはあいつの名前があった。


 しかし、もうあいつはいないらしい。

 戦死したようだ。

 あんな奴でもいなくなると…別に悲しくないわね。

 というかそもそも、あたし達が戦場に出た経緯がおかしかった。


「勇者殿、民の希望であるためにも、一度戦場を体験していただきたい。別に戦えとは言わぬ。見ているだけでも良い。我が精強な兵が、祖国を守るため悪しき国を滅ぼすところを見るだけで良いのだ。危険は無い。協力国であるネメ共和国の兵もいるし、何より我が帝国最強の『帝国の剣』が指揮をするからな。安心して見ていると良い。」

「・・・戦争に興味は無いけど、何故そうなってしまったのか教えてくださる?」

「ネモス小国という国が、ネメ共和国を攻めている。いくつも街を焼かれたり略奪されたりしたため、ネメ共和国が我が帝国に協力を要請してきたのだ。ネモス小国の裏には忌まわしきセレスティア王国もいるからな。正義の闘いという奴だ。」

「・・・」

「随行にレーナとラウスもつけよう。100騎程と共に最後尾につけていればいい。良いなレーナ。」

「わかりました!帝国と協力国のネメ共和国の為に尽力します!!」

「うむ。頼んだぞ。」


 これが王との会話だ。

 おかしいと思ってたのよね。

 まず、民の為に戦争を体験するという意味が分からない。

 どちらかといえば戦争をしないほうが民の為になるはず。

 そして、祖国を守るために悪しき国を滅ぼす、これも分からない。

 最初の説明で、帝国は四面楚歌状態だと聞いていた。

 そこら中の国から理不尽に攻められ、窮地に陥っているという話だった。

 なのに急に協力国なる国が現れ、攻め入る余裕が出ている。


 でも、あの段階では嘘か本当かわからなかったから行くしかなかった。

 レーナは信じ切っていたしね。

 

 道中いくつか街のそばを通ったけど、とても帝国兵を好意的には見ていなかった。

 そして極めつけは到着時だ。

 既に戦端は開かれていて、見る限り劣勢だった。

 

 たった二人の獣人の女性に一方的にやられていた。

 全く容赦せず次々と命を刈る二人に、これ以上見ていられなくて闘いを挑んだ。

 結果は惨敗。

 『城壁』のおじさんもやられたようだ。

 そして、私とレーナに言ったあのセリフ。


「へ!人の国に攻めて来て、その土地の人を蹂躙しといて命惜しさに逃げる、最低なのはソッチのほうじゃねえか!よく言いやがるぜ!」

「お前何言ってんだ?逆じゃねーか。帝国が理由なく諸国に攻め入って暴虐の限りを尽くしてんのにおかしなこというんじゃねーよ。」

「そうです。メイでも知っています。今この国の人がどれだけ苦しんでいるのか、攻めて来ているあなたたちが知らないはずがないでしょう?そんな事でこちらは騙されませんよ!いくらお姉ちゃんが単純でも、です。」


 あの二人のあのセリフ・・・とても嘘とは思えなかった。

 特にあの姉と思われる獣人の女性・・・アイシャだったかしら。


 アイシャは明らかに嘘が嫌いなまっすぐな感じがした。

 だとすると・・・帝国が嘘を言っている事になる。


 レーナには気の毒だけど、帝国は疑ったほうが良い。

 直感的にそう思った。

 起きたら説得するしか無いわね。

 それに考えることはまだあるわ。


 あの時の頭痛・・・あれは・・・

 

 その時、兵士が戻ってきた。

 謁見の準備が整ったらしい。

 

 レーナは少し回復した様子をみせた。

 私とレーナは謁見の間に向かうことにした。

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