第155話 規格外

 僕とアイシャが訓練所に入ると、ベンが殺気立って待っていた。


「遅えぞ!!」


 無視無視。

 僕が訓練所中央に歩いて行くと今にも飛びかかって来そうな程殺気を向けてくる。


 アイシャとフィルさんは他の幹部と端っこで一緒にいる。

 フィルさんの横には目が血走った幹部・・・そりゃ自分の進退がかかってるからなぁ。


 審判はギルマスだ。

 


「それではこれより試験を始める。準備はいいな?・・・始め!!」


 ギルマスがそう宣言するとベンは一気にこっちに飛び込んできた。

 ふむ、拳闘士か。


「おらぁ!まずそのムカつく面を一発殴らせてもらうぜ!!」


 早い・・・ゲルムスよリはね。


 僕は顔面を殴ってきたベンの右手に合わせて、大ぶりのパンチを逆にカウンターで当て、地面に叩きつけた。


「がはぁ!?」


 このパンチ自体には技術は何もない。

 ただ殴っただけ。

 僕もムカついてたからね。


 ベンにはそこまでダメージはない・・・と思う。

 ベンはすぐに身体を起こす。


「て・てめぇ・・・」

「Sランクでしょ?さっさと立ってよ。」


「くそがっ!」


 ベンは立ち上がるときちんと構えた。

 ようやくまともに戦う気になったか。

 ふ〜ん・・・中々隙の少ない構えだね。


「しっ」


 ベンはジャブを打ってきた。

 僕が手で払うと、ベンはそのままローキックを放ってきた。


 ボクシング・・・というよりキックボクシングに近い感じかな?。

 僕は蹴りを足の裏で止める。


 そこからはベンが一方的に連打を放ってくる。

 僕はことごとく払い除けていく。


 最初は自信を持って攻撃していたベンは、攻撃が当たらない事にイライラし始め、その後は焦ったように顔色を悪くしていく。


 よし!ここは安定の煽りを入れておくとするか!


「何?こんなもんなの?こんな程度であんなに大口叩いてたわけ?」

「っ!!があああぁあぁぁぁ!」


 ベンがまた凄い形相で攻撃の回転を上げる。

 でもやっぱり僕には当たらない・・・・というか、僕一歩も動いて無いんだけどね。


 こういう輩は、実力差を決定的に見せてどっちが上か思い知らせておかないと、また絡んでくるからね。

 僕はあえて試験を監督している幹部の方を見る・・・攻撃を捌きながらね。

 これも煽りです。


 すると、驚愕している幹部とフィルさんが見えた。

 口が開きっぱなし。

 審判役のギルマスもおんなじだね。

 この試験を提案した(事にしてやった)幹部は顔色真っ青になってる。


「クソ!クソが!」


 ベンが絶望的な実力差に表情を歪め、それでも踵落としを放ってきた。

 諦めないのは流石にSランクまで上り詰めただけはある。


 でも・・・そろそろ決めるかな。


 僕は、右側頭部から左頬に抜ける軌道の踵落としをギリギリでおじぎをするように躱し、そのまま左足踵を上に向けながらスコーピオンキックのように背面側から足を振り上げ、右足を軸に半回転してベンの頭上まで踵を上げる。


 ベンには僕の顔を蹴りがすり抜けたように見えていたはずだ。

 でも実際には既にこちらが踵落としの体勢。


 一瞬当たったと喜んだベンの顔が、驚愕し絶望の表情に変わるのが見えた。


「待っ・・」

「待ちません。強さがすべてなんでしょ?生まれ変わって出直して下さい。」


 僕はそのまま踵を振り下ろす。

 ベンの額にクリーンヒットさせると、ベンはそのまま白目向いて仰向けに倒れ込んだ。

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