第143話 欲望の終わり

 風の刃が僕たちに飛んできた。

 刃がアゼルを切り飛ばしながら僕にも迫る!


「カワキ・・・な・・・ぜ・・・」

 僕を正面からすがりつくようにしがみついていたアゼルは、胸から下を切り飛ばされた。


 僕は、僕に触れていた宝石が、アゼルの手から離れた瞬間に、魔力を全開にした。


 障壁は間に合わない!

 身体能力を全開で上げる。


 その瞬間身体の正面に凄まじい熱を感じた。

 切られた!!

 

 人間は切られた瞬間に痛いと思うよりも先に熱いと思うのだ。

 僕はそのまま後ろに倒れ込んだ。

 

「アゼル!!」「アゼルちゃん!!」「兄貴!!」

「「「「リョウマ(さん)(お兄さん)!!」」」」


 アルザードさんやリディア達の声が聞こえる。


「ふははははは!これでメイビスは俺のものだ!!」


 イテテテ・・・結構深く切られたな。 

 手は動く、足も動く、立ち上がることは可能だな。

 

 さて、喜んでいるカワキには悪いけど。


「よっと。」


 僕は跳ね跳びで起き上がった。


「ははは・・は?」


 カワキは固まった。

 アゼルは・・・ほぼ即死だったか。

 まあ、アルザードさんには悪いけど自業自得かな。

 でも、カワキにはきっちり責任を取ってもらおうか。


「この程度の傷で殺せたと思ったの?あんたフェイルよりもかなり弱いな。」

「なんだと!?・・・何故殺せない!?魔力は遮られ動くこともできなかったはずだぞ!?」

「それは宝石が触れている間だけでしょ?あんたがアゼルまで攻撃範囲に入れたから、宝石が離れた瞬間に身体強化を最大にして耐えたんだよ。」

「そんな・・・人間の反射ではない・・・」


 今頃気づいたの?

 やっぱりこいつ弱いな。


 僕はそんなカワキと決着をつけるために歩いて近寄っていった。


「く、くるな!!」


 カワキは僕にファイアボールを連射してくる。

 僕はあえて避けずに魔力防壁で防いだまま近づいていった。


 そして手が届く距離まで来ると、カワキは


「ひっ!?」


と、反転して逃げようとしたので、そのまま足をかけて転ばせた。

 そして顎を掴んで、持ち上げる。


 これで魔法は打てないだろう。

 詠唱できないからね。


「さて、散々好き勝手やって、アゼルの命まで奪った。僕としてはこのまま処断してやりたい気もするけど、それは権利を持っている人に譲るよ。本当は、お前から情報を入手しようかとも考えたけど・・・もういいや。というわけで」


ゴキャ!!


「あがあああああああぁぁぁぁ!!」


 僕はカワキの顎を外した。

 手を離して倒れ込んだカワキの両手と、右足を踏み潰す。


「あああああぁぁぁぁぁぁ」


 カワキは這いずり回って呻いていた。

 僕はカワキが抵抗できなくなったのを見届けてから結界を解いた。


「アルザードさん!来て下さい。」


 僕が呼ぶと、アルザードさん達が駆け寄ってきた。

 レイチェルさんとアリオスさんはアゼルに駆け寄っている。


「アゼルちゃん・・・うう」「兄貴・・・」「「・・・・」」


 レイチェルさんは泣きながら、アリオスさんは顔を歪め下を向いている。

 リディアとゼパスさんは無言だ。


 アルザードさんは気丈に僕の前に立った。

 僕はそんなアルザードさんに、


「ここに、あなたの息子の命を断った仇がいます。処断はあなたに任せます。」


 そう告げた。


 アルザードさんは、無言で目を閉じ、少ししたら目を開けて、


「感謝する。」


 そう言って、這いずり回るカワキに向き直った。

 そして、腰に差した剣を抜き、鬼のような形相でカワキに言い放つ。


「我が息子、アゼルの仇!ここに処断する!!」

「ガッ!!」


 剣を振り下ろしカワキの命を断った。

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