第144話 事後処理、そしてアゼルとの別れ
仇を取ったアルザードさんは、剣を上に翳し、
「決闘はここに終結とする!勝者冒険者リョウマ!!見届人はメイビス公爵家アルザード・リヒャルト・メイビスである。文句のあるものは前に出よ!!」
そう宣言した。
既に、僕が打倒したアゼルの私兵や、パムール伯爵家の次男は意識を取り戻していたが、誰も声をあげるものはいなかった。
アルザードさんはそのままパムール伯爵家の次男に近づき、
「申し訳ないが、縁談は破棄させて貰う。異論はあるまいな。」
と言うと、パルーム伯爵家の次男は、悔しそうに、
「・・・は。」
と言って立ち上がり、その場を兵士と共に去っていった。
アゼルには一言も無しか・・・悲しそうにも見えないし、結局イブルにも利用されていただけだったんだろうなぁ。
そして、僕たち以外は誰もいなくなった。
僕たちはアゼルの亡骸の所に集まった。
アルザードさんと、レイチェルさん、アリオスさん、そしてリディアは揃ってアゼルの亡骸の前にしゃがみこんだ。
みんな一様に涙を流していた。
「馬鹿者め。親不孝者め。親より先に逝くとは・・・大馬鹿者め。」
「アゼルちゃん・・・アゼルちゃん・・・うぅぅ。」
「兄貴・・・」
「・・・・」
僕は無言でその様子を見守る。
僕には何も言う資格がない。
敵として戦い、命を守りきれなかった僕には。
「・・・とりあえず、屋敷に戻ろう。」
アルザードさんの言葉にみんな立ち上がる。
レイチェルさんはアルザードさんに支えられていた。
僕はそんなメイビス家の人達に頭下げ、
「命を守ってあげられなくて申し訳ありませんでした。」
謝罪をした。
罵倒も覚悟の上だった。
すると、アルザードさんとレイチェルさんは、悲しそうに笑い、
「いや、あれは仕方がない事だった。間違いなくアゼルの自業自得だ。お前が気に病む必要はない。むしろアゼルの行動で深い傷を負わせたことを謝罪する。すまなかった。」
「そうよ。悪いのはカワキとアゼルちゃんよ。リョウマちゃんごめんなさいね。痛かったでしょ?」
・・・息子が死んで悲しいはずなのに優しいな・・・それに強い。
でもそれじゃ僕は気が済まないんだよね。
「それでも僕にも責任があると思います。だから、罪滅ぼしとして、僕にできることがあればなんでもしますので遠慮なく言って下さい。出来る限りのことはさせて下さい。」
そう言って再度頭を下げた。
「・・・頑固な奴め。わかった。その時は頼らせてもらう。」
アルザードさんは苦笑してそう言った。
アゼルの亡骸はメイビス家の墓地に運ばれ埋葬されることになった。
亡くなった事については、決闘の最中に裏切りに遭い、裏切り者と相打ちになったという事になった。
葬儀は他の貴族の弔問を断り、翌日にメイビス家だけでとり行われた。
勿論、今回の当事者として、僕たちも参列する。
残念ながら、リディアの弟君と妹ちゃんは、王都の学校に行っていて、今年は既に寮に戻っているから参加できなかった。
王都にリディアを送った時挨拶できるかな・・・無理ならまた今度か。
メイビス家の敷地内にある墓所で花を手向ける。
アルザードさんと、レイチェルさん、アリオスさん、リディアがそれぞれ別れの言葉を送った。
「・・・最後の最後まで愚かな息子だった・・・だが、私にはやはり可愛いむすこだった。私がそちらに行ったら厳しくするからな。次はお前が失敗しないように・・・正しくいられるように。せめて安らかに眠れ。」
「アゼルちゃん・・・私はあなたのあり方がどうしても好きにはなれなかったわぁ。何度も何度も注意したけど直らなかったわねぇ。でもね?私はあなたが嫌いな訳ではなかったのよ?お腹を痛めて生んだ子供だもの。愛していたわ。私がそちらに行って、次に会うときには、今まで以上に注意してあげるから覚悟することねぇ。その後はいっぱい甘やかせてあげるわねぇ。だから・・だから・・今度こそは・・・良い子にしてるのよ・・・うぅぅ・・・」
「兄貴・・・兄貴は傲慢ではあったけど、メイビス家の事は真剣に考えていた。兄貴なりにもっと繁栄させようとしたんだろう?でもその道は間違っていたと今でも俺は思うよ。だから俺は兄貴と違う道を行くよ。今まで通りのメイビスとして、影から王国のために尽くそうと思う。メイビスの行く末を見ていてくれ。」
「お兄様・・・私はこの『眼』があるのであなたの事が子供の頃より嫌いでした。ですが、死んで欲しいとも思ってはいませんでしたよ。血を分けた兄妹でしたもの。お兄様が亡くなってこんなに悲しいのも当然なのです。涙が出るのも仕方がないのです・・・お兄様、私好きな人ができたのですよ?だからお兄様の言う貴族らしいあり方はもうできません。お兄様の幸せがメイビス家の繁栄ならば、私の幸せは好きな人と共に歩むこと。私は歩みを止めませんよ。私がそちらに行ったら思う存分文句を言うといいです。私は妹として受け止めてあげましょう・・それまで・・そちらでは貴族・・の柵から放たれて、安らかにして・・・して・・・くだ・・さい。」
リディアはそこまで別れをつげてから立ち上がり、僕の胸に飛び込んでくると、嗚咽を漏らして泣き始めた。
傲慢で嫌っていてもやっぱり家族だったんだね。
助けられなくてごめん。
僕はやっぱりもっともっと強くならなきゃいけない。
苦戦しないように。
みんなを悲しませないようにするために。
何があっても守ってあげられるように。
僕は決意を新たにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます