第140話 決闘(5)

 僕が最後の一人のカワキに目を向けたところ、カワキはすでに立ち上がっていた。

 しかし表情が・・・笑いをこらえているように見える。


「・・・・ククク。恐ろしい強さだ。Sランクを歯牙にもかけぬとはな。」


 なんだ?


「だが、まだ終わっていない。」


 そう言うと、足元にいたゲルムスが立ち上がった。

 下を向いているから顔色はよく見えないけど・・・さっきより圧力が増してる?


 僕が警戒していると、


「世の中には貴様などが知り得ぬ深淵がある。さあ、やれ!」


 カワキがそう叫ぶと、ゲルムスが顔を上げた。

 その表情は・・・憤怒の表情となっていた。


「ぐがあああああぁぁぁぁ!!!」


 ゲルムスが雄叫びを上げると周囲に衝撃が走った。

 

 これはおかしい?

 『鑑定』!

 【種族:人族 

  氏名:ゲルムス

  職業:槍術士

  状態:魔狂薬を摂取している。

     狂乱中】


 何!?

 まさかカワキが投与したのか!?


「お前!真神教徒か!!」

「・・・驚いた。まさか我が宗教を知っているとはな。貴様何者だ?」


 カワキが訝しげに僕を見た。

 やっぱりか。

 しかし、本当にどこにでも出るな・・・まるで黒くてカサカサ動くGみたいだ。


 リディア達の方を見ると、カワキの言葉に驚愕している。

 真神教についてはすでにアルザードさんには話してあるからね。

 事情を知らないアリオスさんだけキョトンとしている。


「バレているのなら仕方がない。いずれにしても、この場にいる者には全員死んでもらうからな。我が名は『渇き』。偉大なる教皇様より頂いた名前だ!孤児だった俺を拾って、飽くなき欲望への渇望を、教皇様に気に入ってもらえた俺は、特別に目をかけてもらってこの名を得た。勇者の世界の言葉だそうだ。この名の通り俺の欲望に終わりは無い。金も!女も!地位も!全て手に入れる!!教皇様はそれを認めて下さった!教皇様の命により、メイビスを影から腐敗させ、アゼルの影で好き勝手やるつもりだったが予定変更だ。今この場で全員排除し、俺がメイビスを名乗る。なに、当主の隠し子だとでもいっておけばばれないだろうさ。何せ、そこで寝ているアゼルを筆頭にアゼルの取り巻きは馬鹿ばかりだからな!!どうとでもなる。」


・・・『渇き』か・・・まさか・・・いや、考えすぎか?

それよりも・・・


 僕は頭を抱え叫んでいるゲルムスを見る。

 まずはこいつをどうにかしないと。


 ゲルムスに正対すると、ゲルムスが突然叫び声をやめ、頭を上げた。

 その目は白目の部分が赤く染まっている。


「Sランクに魔狂薬を投与できるとは僥倖だった。貴様にやられボロボロの状態だったから、精神的にも対抗できず、正気を保てていないようだ。これでこいつは今この場では俺の言いなりだ。やれ!!」


 その言葉とともにゲルムスが飛びかかってくる!

 うわ!?早い!?

 かなり強化されているな。


「そいつに投与した魔狂薬は原液に近い。強化の具合は想像を絶するだろうよ。使い潰しのつもりだったからな。この場の全員を始末したら用済みだ。せいぜいあがいて殺されてろ。」


 カワキはニヤニヤと僕を見ていた。


 そのカワキの言の通り、ゲルムスの攻撃は今の僕に匹敵する位の速さだ。

 膂力は僕を超えているかもしれない。

 

 僕が防戦一方なのを見て、カワキは、


「それにしても貴様驚異的な強さだな。正直驚いた・・・人の強さをゆうに超えている。これだけの強さ・・・まさか勇者か?しかし帝国の勇者は未だ国を出ていないはずだし、そもそも女のはずだ・・・」


 違います迷子です!

と、カワキのつぶやきにつっこむ暇がないほどのゲルムスの猛攻。

 

 でも、封印はできれば解きたくない。

 また寝込むわけにはいかないからね。

 どうしたものか・・・・


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