第139話 決闘(4)

 僕がゲルムスを倒すとその場に動きは無くなった。


「う、嘘だろ?ゲルムスさんはSランクだぞ?」

「こんな化け物とやっていられるか!!」


 一斉に兵が逃げ出した。

 おいおい・・敵前逃亡は駄目でしょ。


「おい!何をしている!!さっさと倒さないか!!相手は一人なんだぞ!!逃げるな!おい!?」


 アゼルはただひたすら喚いている。

 イブルは顔面蒼白にしている。

 カワキは・・・無表情でゲルムスを見ているようだ。


「逃げ出すとは感心しないね。でも戦いたくないなら退場願おうかな。」


 僕はオリジナルの広範囲殲滅魔法を使用するために、魔力を高めて精神統一する。

 ただ殲滅するだけならそう難しくは無いけど、命は取らない、当てない相手を指定するとなると深い集中を用する。


「広範囲殲滅魔法『サンダーストーム』」


 僕を中心に円状に雷まじりの竜巻が吹き出した。

 強風で足を止め、雷を食らわせる。


 周囲ではそこら中から悲鳴が聞こえてきた。

 対象からは、アゼル、イブル、カワキ、倒れている兵士は外してある。


 竜巻が治まると、立っているのはその三人だけ。


「な・・・馬鹿な・・・」


 アゼルはようやく現状が理解できたようで棒立ちとなっていた。

 イブルは恐ろしさのあまり蹲っている。

 カワキは・・・ゲルムスの所でしゃがみこんでいる?


 介抱しているのかな?


 僕は無造作にイブルに近づくと、


「剣を抜かないの?尊い血の流れる伯爵家の人間なんでしょ?」


 そう尋ねた。


「ひぃぃぃぃぃ!!」

 

 イブルはしゃがみこんで目を合わせようとしない。

 僕はイブルの胸ぐらを掴んで持ち上げた。


「離せ!離して!離して下さい!!」


 イブルは泣きわめいていた。

 子供か。


「離してほしいの?はい。」


 僕はイブルを放り投げた。


「うわぁぁぁぁぁ!!・・・ぐえっ!」


 イブルは30メートルくらい飛んでいき、顔面から地面に激突した後、更に10メートル位滑っていきそのまま動かなくなった。


 生命反応があるから生きてるだろうけど・・・気絶したか。


「な・・・イブル!?貴様!下賤な身の上で伯爵家たる・・」

「うるさいよ。」

「ぶっ!?」


 僕はアゼルの胸ぐらを掴み横っ面をはっ倒す。

 端正な顔が衝撃で歪む。


「貴様!イブルのみならずこの俺に・・ま”!?」


 僕は無言で反対の頬を張る。


「・・おい!聞いてい・・る”」


 また反対を張る。


「ちょ・・!!」

 バチン!

「ま・・・!!」

 バチン!

「はな・・・!!」

 バチン!

「もう・・!!」

 バチン!

「ゆるし・・」

 バチン!


 喋ろうとするたびにひたすら無言で頬を張る。

 10往復位して、顔がパンパンになったところで喋らなくなったから。

 胸ぐらを離すと地面に腰砕けに座り込んだ。


 顔は涙でグシャグシャになっている。


「・・・これって決闘だったよね?で、僕を殺すつもりだったんでしょ?当然殺される覚悟もあるんだよね?」


 アゼルは僕を見て目を見開いてガタガタと震えだした。


「お”・・・お”れに”・・・こ”う”しゃぐけ”の”もの”に”でをだじでだだでずむと・・・」

「だからあんたは今廃嫡されてるから公爵家じゃないんだって。まだ理解できない?」


 僕がそう言って、アルザードさんに顔を向けると、アルザードさんは頷いていた。

 つられてアルザードさんを見ていたアゼルは目をむいて、


「そ・・そんな・・・」


「今回は命は助けてやる。でも今後一切メイビスの敷居をまたぐな。それと僕やリディア達、アルザードさん達に手を出すな。出せば・・・」


 僕は殺気を放つ。

 アゼルの顔は引きつり、今にも気絶しそうなくらいフラフラしていた。


「わかるな?」


 その言葉とともに殺気を全開にすると、アゼルは泡を噴いて失禁しながら気絶した。


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