第88話 冒険者ギルド(6)sideドレン

 向こうからゆっくり歩いてくる相手を見つめる。

 向こうはまったく緊張していないらしい。


 こう見えても俺はAランクなんだがなぁ・・・

 まあ勉強させてやるのも高ランクの務めか。


 この状況になっている経緯が思い出される。


 元は、ギルドの控室で、次のクエストの情報収集をしている時、ギルド職員から声をかけられ、ギルマスが呼んでいるというところから、この状況が始まった。


「ちょっと訳ありの冒険者の試験官をして欲しい。」


 それを聞いた仲間は、


「おいおい・・・それ、このギルドで、最強の俺たちがやらなきゃいけねぇ仕事なわけ?」


 そう言う仲間に、ギルマスは、


「その冒険者は、テロア伯爵の紹介状を持っている。そして、Dランクから登録するよう要請があった。しかし、すんなり認めてはギルドの沽券に関わる。だから、少々痛い目にあってもらおうと思ってね。」


と言った。


「しかし、紹介状があったら、Dランクからというのは、規定にあるんだろ?だったらしょうがないんじゃないのか?」


 もう一人の仲間がそう言う。


 すると、ギルマスは、


「そうだ。だが、それで冒険者という仕事が、簡単にランクが上がると思われるのは癪だ。それに相手は15,16歳位の若造。現実を見せてやりたい。」


 ギルマスは嫌らしい笑みを見せてそう言う。

 ・・・こりゃ私怨が入ってるなぁ。


「生意気そうなのかい?」


 俺がそう言うと、ギルマスは忌々しそうに、


「・・・本人はそうでもない。しかし、メイビスの小娘が噛み付いてきた。あまつさえ試験官に勝ったらCランクでスタートさせるよう脅してきた。断じて認められん!どれだけ面倒くさい手続きが待っていると思っているのだ!Dランクの申請でもかなり手間がかかるというのに・・・新人は素直にFランクからスタートすれば良いのだ!」


 ダンッと机を叩きながらそう言う。


 なるほど・・・・それが原因か。

 ただの逆恨みじゃないか・・・

 

 まあ、仕事は仕事、ちゃんとやりますかね。


 

 ギルマスと職員のねーちゃん二人、仲間達と訓練場に降りると、娘っ子三人と、小僧が一人いた。


 ん?こいつさっきの奴じゃないか?


 新人からギルマスに目をつけられて・・・かわいそうに。


 まあ、それも人生か。


 一応挨拶をする。


 俺の名前でビビっちまわねえかな・・・


「よろしくお願いします。」


 ・・・ほう、まったくビビらねぇな。


 もしかしたら結構やるのかね。


 開始位置に移動すると、仲間の一人が、


「本当に小僧じゃねえか。潰しちまうんじゃねえか?」


と言ってきた。


 しかし、ギルマスは、笑みを浮かべて、小僧の方を見ながら、


「なんなら本当に潰してしまってもこの際構わない。メイビスの小娘達には、あまりにも弱すぎたとでも言っておいてやる。」


と言った。


 酷え奴だな全く・・・まあ仕方がない。

 なるべく手加減してやろう。


 ギルマスの合図で、小僧が歩いてくる。


 俺は大剣を模した木剣を持って、小僧の方に向き直る。


 っち、得物すら抜いてねえじゃねえか。

 こりゃ駄目だな。


 俺も小僧の方に歩いていき、初撃で決着をつけるべく大剣を振りかぶる。


 そして目を見開いた。


 小僧が目の前にいる!?

 まだ、間合いはあったはずなのに!?


「隙だらけですよ。」


 そう小僧が言った瞬間俺は腹に衝撃をくらってふっ飛ばされた。

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