閑話 シエイラ・テロア(2) sideシエイラ


 その男性は、黒髪で温和な顔つきをした方でした。


 私の知っている衛士達やお父様と違い、あまり体躯が大きくは無く、とても頼りない男性に見えました。


 その男性は、御者をしていたのですが、こともあろうにグレイス様に全く敬意の籠もっていない話し方と態度をしたのです。


 私は頭に来ました。


 憧れのグレイス様に対し、友人とでも話すような態度で接するなど言語道断!私はその者を叱責しました。


 すると、慌てた様子でグレイス様とリディア様がその者を擁護しはじめました。


 何故でしょう?貴族でもない御者に雇用者がそこまで気を使う必要はないと思うのですが・・・


 その男性について最初にお聞きした時、率直に言って嘘だと思いました。


 王国の五剣姫に数えられるグレイス様よりも強いなどと、冗談にも程がある!


 ・・・そう思っていたのですが・・・リディア様とグレイス様に怒気を込めて諌められた時、私は自分の失敗を悟りました。


 その男性は、リディア様方の命の恩人であるとは・・・それにそれだけの実力がある方に対し無礼を取った、いくら伯爵家の娘とはいえ処罰される対象となるでしょう。


 全ては見る目の無かった私が悪いのです。


 そう思っていると、


「リディア、グレイスそこまで。別に僕は気にしていないからいいよ。それに二人のことを考えて注意しようとしてくれたようだしね。これ以上は可愛想だよ。」


 その男性はにっこり笑って、リディア様とグレイス様の怒りを沈めてくれました。

 

 ・・・失礼な態度を取ったのは私なのに。

 

 それに私がリディア様とグレイス様の世間からの体面を考慮し、今後を考え叱責したのに気づいてくれていたようでした。


 男性は笑顔のまま、


「お初にお目にかかります。リョウマと申します。二人の護衛に雇われました。よろしくおねがいします。」


と、頭を下げてこられました。


 実力のある冒険者の中には、相手が貴族であっても、傲慢さや礼節が欠けているとよく耳にしていた私は、謙虚に応対するこの男性に驚いてしました。


 しかし、それと同時に、この方はとても誠実で優しい方なんだと思いました。

 今思えば、この時からすでにリョウマ様が気になっていたのかもしれません。


 私も挨拶を返し、名前で呼んでほしいとお願いしました・・・残念ながら呼び捨てにはしていただけませんでしたが。


 移動中お様子を見ると、リディア様とグレイス様とリョウマ様はとても仲の良い関係でした。


 ・・・凄く羨ましい。


 私も仲良くしてほしい・・・ 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る