第33話 廻里 桜花 (9)

 道場は中々の広さだった。

   

 全面板張りの道場だ。

   

 少し、体操をしながら待っていると、道着に着替えた親父さんと廻里さんが来た。

  

 親父さんは僕に、

   

「道着を貸そうか。」

   

と言ってきたけど、僕は、


「上着を脱げばそれで大丈夫です。」


と伝えた。

   

 人の道着ってなんか嫌だしね。

   

 それを聞いて、廻里さんは舐められていると感じたのか、

   

「服が破れても文句言わないでよ。」

   

と睨んできた。

   

 おー怖い。

   

 親父さんは、僕に道具はどうする?と聞いて来たので、

   

「僕はいりませんが、廻里さんには防具と竹刀・・・木刀どちらでもいいので使わせて下さい。」

   

と言うと、廻里さんは、

   

「はぁ!?あんた舐めてるの!?あんたが防具つけないなら、私がつけるわけ無いでしょ?それに私が竹刀であんたが木刀で丁度いいくらいだし!!」

   

と怒鳴りつけてきた。


 あー頭に血が登ってるなあ・・・

   

「なに言ってるの?僕の流派は無手が基本。下手に武器持ったら逆に危ないよ。無しでいい。勿論防具もね。それに・・・君に言い訳させないためにやるんだから本気でやるときの物を使ってね。」

   

と伝えた。


 彼女は、

    

「・・・わかったもういい。私はなんと言われようと竹刀を使う。あんたを殺したくないからね。防具もつけない。お父さんいいでしょ。こいつがこう言っているんだから。」

   

と親父さんを見て言う。


 親父さんはため息をついた後、一歩下がり右手をあげながら、

   

「それでは、これより立ち会いを始める。あくまでも力量比べと思いなさい。殺し合いではないことを自覚し・・・・・はじめ!!」

  

 右手を振り下ろした。

   

 廻里さんはその合図の後、

   

「きええええええぇぇぇ!!」

  

と叫びながら、一直線に突っ込んでくる。

  

 そのまま腕を上げまっすぐ振り下ろしてくる。

 

 面打ちだ。

 

 僕は半身になって躱し、そのまま左手を掌底にして突き出す。

   

 彼女の顎を撃ち抜くと彼女は膝をついた。

  

「一本!!」

  

 親父さんがコールする。

  

 廻里さんは呆然としている。


 親父さんが、

   

「どうした桜花!!もう終わりか!!」

  

と焚きつける。

   

 廻里さんは立ち上がり、

   

「今のはまぐれよ!!もう一本!!」

  

 と言ってきた。


 勿論僕の返事は、

   

「いいよ。いくらでも付き合う。」

  

だった。

  

 立ち上がった彼女は、また開始線につく。


 そして、合図の後突っ込んでくる。

   

 僕は何度も迎撃した。


 ・・・どれくらいたっただろうか。


 30分?

 一時間?

 それとも二時間くらい?

   

 外はすっかり暗くなっている。

   

 前を見ると、ボロボロの廻里さんがいる。


 顔を腫らし汗だく。

 おそらく道着の下も打撲だらけだろう。


 まあ汗だくは僕もなんだけど。

   

 彼女は、悔しそうに顔を歪めながら、

   

「なんで!?なんで勝てない!?当たらない!!どうして!?」

   

 と言っている。

   

 うん。

 だいぶ顔が上がってきた。

 もう俯いてはいないな。

   

 もうひと押しかな・・・・親父さんは無言だ。


 言う気はないか。仕方がないなぁ・・・

   

「今のままならずっと同じだよ。廻里さんよく思い出して。君はなんのために強くあろうとしたの?僕を痛めつけるため?自分が強いことを証明するため?違うんじゃないの?少し立ち会っただけの僕にでもわかる。君の強さはそんなつまらないものじゃない。僕が、君に今まで怒られてきた時、文句を言ったことがあった?面倒くさそうにはしたかもしれないけど、君に文句を言ったことはないはずだ。よく思い出して。お父さんにこれを始める前に、なんと言われたのかを」

   

 僕がそういうと、今日初めてしっかりと廻里さんと目があった。

   

    

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