第32話 廻里 桜花 (8)

 僕は廻里さんを見たが、廻里さんは、立ったまま顔を俯かせている。

   

 ふう・・やれやれ。   

   

「廻里さんとりあえず座ろうよ。」


と僕が言うと、廻里さんは、

   

「何しにきたの。私が悪かったのはもう分かってる。仕返し?」


と言ってきた。

   

 だから、

   

「仕返し?そんなわけないでしょ。僕をあんな嘘つき共と一緒にしないでよ。ほらこれ。学校のプリント。これを渡しに来たんだ。それと・・・学校ずっと休んでるからね。顔を見に、ね。」


 そう伝えると、廻里さんは自嘲しながら、

   

「そう。それでどう?友達だと思ってた人達に、利用されてた人間の間抜けな顔は。さぞ滑稽に映ってるのでしょ?嬉しい?」


 と言ってきた。


 これは重症だな・・・はぁ

    

 僕は、廻里さんなんかどうでもいいけど、それでもこんな状態になっている彼女を、これ以上見ていたくない気持ちになったんだ。

    

「ふぅん。なんだか知らないけど、ちょっと会っていなかった間に、随分とひねくれちゃったんだね。君らしくない。僕にはあれだけいつも注意してたのに。」

    

と言うと、彼女はここに来て、初めて僕の目を見た。

    

 その目は、完全に淀んでいて、道を見失っているようだった。


 彼女は、そのまま僕に、

    

「私らしいって何?別にひねくれてないし。もう、あなたに注意なんかしないからいいじゃない。私が間違ってたんでしょ。もうほっといてよ!」

    

と叫んだ。

    

 だから僕はこう言ったんだ。

    

「・・・廻里さんの家には道場があるんだよね?ちょっと僕と立ち会ってよ。」

    

 彼女は目を丸くしてから、訝しげな表情になり、

    

「何?まだ痛めつけたいわけ?言っとくけど私はあなたより強いわよ。痛い目にあうのはあなたの方。馬鹿馬鹿しい。」

    

と言った。

    

「まあ、口ではなんとでも言えるよね。怖いなら別にやらなくても「はぁ!?誰が怖いって!?そんなわけないでしょ!!」だよね。じゃあやろうよ。立会人は親父さんに頼もう。すみませーん!!」

    

 僕が大声をあげると、すみれさんがやってきた。


 僕が事情を説明すると、親父さんを連れてきてくれたので、再度説明すると、親父さんは、

    

「ふむ。なるほど。よいだろう。私が立会人になるとしよう。桜花もそれで良いな?」


と言った。

    

 廻里さんは、それを聞いてちょっと驚いた顔をした後、

    

「お父さん認めるの?私手を抜かないよ?怪我させちゃうかもしれないよ?」

    

と言ったが、親父さんは、

    

「いいからやりなさい。そして、よく自分と向き合いなさい。」

    

と言って、それきり何も言わなくなった。

  

 それを聞いて廻里さんは、


「・・・・わかった。やるわよ。ただし、さっき言った通り手加減はしないからね。後悔しなさい。」


と言って、背を向けて歩き出した。

     

 親父さんは僕を見て、


「よろしく頼む。手加減はいらない。案内しよう。」

    

と言って立ち上がった。

     

 さあ、やるか。

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