52 テスト

「俺は嘘つきじゃない!!」


 俺はアンリを間合いに入れ、雷鉄剣スサノオを振り上げる。


「あはははは! ちょっとパニックになったらすぐに暴力で解決かい? 君は本当に子供だよ」


 子供の見た目のアンリに子供呼ばわりされるのは少し腹が立った。

 でも、それもこれで終わりだ。

 どんなに強い魔法使いでも、魔法を使えなかったらただの人。

 すでに距離がつめられた今、アンリはどうすることも出来ないだろう。

 じゃあなアンリ。ルミスのこと、ありがとうな。


 ──ガギィィィン!


 だけど、アンリの首は落とせなかった。

 とんでもなく硬い何かに阻まれたんだ。

 その正体はわからない。

 雷鉄剣スサノオとアンリの間に、見えない壁がある感じだ。

 こいつ、先に魔法を展開してたのか? 用心深いやつめ。


「ほらほら、どうしたの? それが全力? それが君の全部? あはは、そんなわけないよね? もっと、もっと本気になってよ」


「ぎぎぎぎぎ!」


 全力で力を込めるけど、透明な壁を打ち破ることはできない。

 俺の力でも駄目だなんて……こんなことは初めてだ。


「あはは、ほらほら、早くしないと、君のお仲間がまた死んじゃうよ?」


 アンリの目線を追えば、あちらの戦いはすでに決着がついていた。

 ヘドロとタバサの二人がかりでも全く手が出なかったのか、すでに二人は倒れている。

 二人の首を絞めているルミスの腕は、首と同じようにルミスの体から離れて動いていた。

 ……ルミス、首だけじゃなくて手も外せるんだ。便利そうだな。


「良かった! ルミスは無事かっ!」


「うん? あぁ、そっち? あはは、君は面白いね。ルミス、その二人の相手は程々にね」


 ルミスが無事なら、後はアンリを殺したらいいだけだ。

 俺は戦いに集中してアンリを見据える。


「あはは、じゃぁ君の力をテストさせてもらおうかな。あんまりにも弱すぎるようだったら、部下にはしないからね」


 アンリの言葉に答えたのは、不気味な本に施された一つ目だ。


「承知いたしました。しかし、弱いといっても基準が必要です。マスターを基準にしては、それこそ全ての冒険者が弱くなってしまうのでは?」


「そんなことはないさ。でも、メルの言わんとするところは分かるかもね……よし、じゃぁバアルの相手は500番台シリーズに任せてみようか。召喚魔法サモン!」


 アンリの魔法により、すぐ近くに黒い渦が発生する。

 何か負のオーラを感じた俺は、急いで距離をとった。

 黒い渦から出てきたのは、3人の人間だ。


「”510ゴトー”、”524コニシ”、”551ニクマン”、目の前の大男を殺せ。それができたら、ご褒美を上げるよ。僕に出来ることなら何でも叶えてあげるから、頑張るんだよ」


 そいつらは、なんというか、とても歪な奴らだった。

 なんだか雰囲気が誰かに似ている……そうだ、不思議なダンジョンの店長に似ているんだ。


 ”510ゴトー”は、全身を金ぴかの装飾品で飾られている。

 飾られているといっては語弊があるかもしれない。

 服は着ておらず、全身にピアスのように宝石を埋め込まれているから、見ていてとても痛々しい姿だった。


 ”524コニシ”は、何か病気のように見えた。

 目の下には大きなクマが見えて、頬が痩せこけている。

 何が我慢できないのか、地団駄を踏んだり叫んだりと落ち着きがない。


 ”551ニクマン”は、とにかく太っていた。

 今から戦いが始まるというのに、それでもずっと食べ物を口に運んでいる。

 何かに強いられているのか、「苦しい苦しい」と言いながらも食べ続けている姿は、なんだか不気味に見えた。


「な、なんだこいつら……気持ち悪い」


 俺の呟きに、アンリは得意気に返してくる。


「あはは、君がそれを言うのかい? 人工的に大罪人を生み出せないかと思ってね、こいつらはその実験体なんだ。安心して? 一応、それなりには強いはずだからさ」


 ご褒美が余程ほしいのか、歪な3人は勢いよく襲い掛かってくる。

 その攻撃は速く、重い。

 それぞれが店長並みの強さかもしれない。

 だけど、それじゃぁ俺の相手にはならない。


「っらぁ!」


 俺は雷鉄剣スサノオで斬り伏せる。

 息の根を止めたつもりだけど、3人共虫の息とはいえまだ生きていた。

 随分としぶとい奴らだ。


「あはは、凄い凄い! 500番台がまるで相手になってないじゃないか!」


 当たり前だ。俺は強くなった。

 不思議なダンジョンで幾度となく死闘を繰り広げてきたんだ。

 元々は戦闘の素人だったけど、膨大な経験値によって、嫌でも成長したんだ。

 力、スピード、そこに技術が加わった俺の強さは、まさに悪神に相応しいものだろう。


「よしよし、じゃぁもう少し強い子にしようか。召喚魔法サモン!」


 アンリが本を捲る中、500番台と呼ばれた男たちは黒い渦の中に消えていく。

 代わりに渦から出てきたのは、眼帯を付けた黒髪の少女だった。

 その少女の口周りは、大量の血に濡れている。


 さっきまでの奴らとは、格が違うと感じた俺は身構える。

 現れた少女は周りを見渡してから、お腹に手を当てて俯く。


「ご飯…………途中だったのに」


 凄く落ち込んだ様子の少女に対して、アンリは苦笑いを浮かべていた。

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