50 取扱

「バアルぅ、どこ行ってたんだよぅ。一週間もいなくなるから、心配してたんだぜぇ?」


 宿に帰ってきた俺を、ヘドロとタバサは温かく迎えてくれた。


「っそいわよ! あんたが帰ってこないから、ずっとこの宿で糞ストーカー野郎と二人きりだったのよ? 本当に最悪だわ。それで? その背中に抱えているのは何?」


 ……温かく、ではないかもしれないけど。

 俺は何も答えず、アンリから貰ったばかりの棺桶を床に下ろす。


「……は? 棺桶?」


 タバサは驚愕している。

 ふふ、だけど、驚くのはまだ早い。


「実は、神様に会ってきたんだ。それで、ルミスを生き返らせてもらったんだよ」


 俺は二人を驚かせようと、ルミスを棺桶の中に入れて運んだんだ。


「ルミス、恥ずかしがらずに出ておいで」


 俺が言葉をかけると、棺桶の蓋が開き、この世で一番美しい女性ルミスが出てくる。


「その……ヘドロさん、タバサさん、初めまして……になるのかな? ルミスです、よろしくね」


 生きて話すルミスを見て、二人は口をパクパクと動かしている。

 ふふ、驚かしがいのある奴らだな。

 でも、驚いて声が出ないのは分かるけど、このままじゃルミスに失礼だ。


「おい、二人とも。ルミスが挨拶してるけど……もしかして、まだ声が聞こえないのか?」


 二人は慌てて挨拶を返しだす。


「え、えぇっとぉ、初めまして、ヘドロだよぅ」

「は、初めまして。タバサといいます」


 その後、二人はヒソヒソと内緒話を始めた。

 やっぱりこいつら、仲がいいな。


「あの……ルミスさん? あなた、特に異常はないの? 何か気持ちが高ぶったりしてない?」


 タバサがルミスを心配してくれている。

 気付かなかったけど、タバサは優しい子なんだな。同性限定なのかもしれないけど。


「今どんな感じ? 何か思うところはない? 私たちとか……バアルとかに」


「えへへ、幸せしか感じないや。バアルは勿論、タバサさん達も好きだよ」


 その言葉に、俺は嫉妬の渦に飲み込まれそうになる。


「ば、バアル!? 顔が怖いよ!? バアルの方が全然好きだよ!? バアルは別格だよ!?」


 ふふ、別格か、ふふふ。

 俺は満足だけど、タバサは何か不満があるのか首を傾げている。


「あ、あのさぁ、この子って本当にルミスさん? 顔は確かに同じだけどよぅ」


 何が気に食わないのか、ヘドロまで質問してきた。


「エロくなりすぎじゃないかぁ? ルミスさんの胸って、こんなにでかかったっけぇ?」


 変なことを指摘されたルミスは、顔を赤く染めて胸を隠す。

 あぁ、その仕草も可愛いなぁちきしょう!


「ヘドロ、あんたサイテー」

「ヘドロさん……ひどいです」

「ヘドロ、いくらなんでも下品だぞ」


 周りの全てを敵に回したヘドロは、ぐぅと空気が抜けたような音を出して肩を沈ませる。

 それ以上の言及は諦めたようだ。


「はぁ、男って奴は本当に……それで? バアルはどうして棺桶なんて担いできたのよ。折角生き返ったその子を棺桶に入れるなんて、冗談にしても笑えないわよ?」


 タバサは、今度は俺に質問してくる。


「ふふ、これをただの棺桶と思うなよ? 神様に作ってもらった特注品だぜ? これはすっごく丈夫でね……俺が全力で殴ってもびくともしないんだ。だから、安心してルミスの体を格納できるんだよ」


 俺は得意気に話すが、二人は納得できないようだ。


「い、いや、だから、なんでルミスさんを棺桶に入れちゃうのよ!?」

「そ、そうだよぅ。折角生き返ったんだぜぇ? 隣を一緒に歩いたらいいじゃないかよぅ」


 全く……こいつら、何も分かってないな。


「ふふ、神様は俺のことを凄く理解してくれてるからな……ほら」


 そう言いながら、俺はルミスの首を


 その光景を見て、ヘドロとタバサは絶句する。

 俺はルミスの首を左手に抱えながら、説明を始めた。


「いや、やっぱりこれが一番落ち着くからな。ただ、首のない体が歩くのは不気味だから、この間は棺桶に体を入れたらいいってアイディアなんだよ」


「えへへ、アンリさんって頭いいよね」


 あまりにも画期的なアイディアだったのか、ヘドロ達は強く衝撃を受けたようだ。

 二人は首のないルミスの体に近寄り、ジロジロと見ている。


「な、なにこれ……人間じゃないの?」

「き、機械……? 機械仕掛けなのかぁ?」


 おいヘドロ、お前、ここぞとばかりにルミスの胸を覗き込んでないか?

 全く、仕方のないエロ野郎だ。


「おいおい、ヘドロ。それを言うなら色仕掛けだろ?」


 俺は呆れて指摘するけど、ヘドロからの反応はない。


「ね、ねぇバアル……私、そろそろ……」


「ん? あぁ、もうそんな時間が経ってたか。おい二人共、ちょっと離れてくれよ」


 俺はヘドロ達に距離をとってもらい、ルミスの首を体に戻す。

 すると、ルミスはスカートを自分でたくし上げ、俺に向かってお尻を突き出してきた。


「ちょ、ちょっとあんた達!? こんな昼間から何する気よ!?」


 俺はタバサの声を無視して──


「いくらなんでも最低……え?」


 ──ルミスのお尻に雷鉄剣スサノオを突き刺した。


「っ! あぁっ! んんっ……はぁん」


 ルミスは気持ちよさそうに体をくねらせている。

 タバサは何が起こっているのか、全く理解できてないようだ。


「くぅっ……あっあっ……んっ!」


 こういうことが大好きなヘドロも、なぜか青い顔をしている。

 流石に人の女では興奮しないんだろうか。


「いくぞルミス。雷鉄剣スサノオ!」


 俺は、力を込め電流をルミスに流し込む。


「だめっんっ! くふぅぅぅ! んっ、ふぅぅぅうっぅう!!」


 ルミスはぶるっと全身を震わせたかと思えば、力なく倒れこんだ。

 俺は雷鉄剣スサノオを鞘に収めながら、二人に説明する。


「ふふ、実はね、ルミスは定期的に充電が必要なんだ。そこで、雷鉄剣スサノオの力を有効活用したんだよ……いやぁ、神様は本当に頭がいいよな」


 ヘドロ達は何も反応を示さないから、ルミスの艶っぽい吐息がよく聞こえてくる。


「そうだ、神様が二人を連れてきてもいいって言ってたんだ。どうする? 行く? タバサも、生き返らせたい大切な人がいるんだろ?」


 俺の提案を聞いたタバサは、棺桶をじっと見つめ出した。

 どうやら、棺桶に小さく描かれている一つ目の紋章が気になっているようだ。

 なぜだか、タバサの額から汗が流れている。興奮しちゃったのかな?


「ねぇ、バアル。あんた、私の仲間よね? 何かあったら、私のために戦ってくれる?」


 紋章を触るタバサの指は震えていた。

 よく分からないけど、雰囲気的にここで断るのは男が廃るってもんだ。


「あぁ、任せろよ同志タバサ。俺はお前のためにも戦ってやるよ」


「……ありがとう。約束よ、約束」


 そして、俺達は4人で、神様の屋敷に向かうことにしたんだ。

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