49 復活のルミス

 うるさいくらいに、心臓の鼓動が激しく響く。

 それも仕方ないことだろう。

 地下室での悪夢から、俺がずっと願ってきたことが、遂に叶うんだ。


 俺は今、アンリの部屋でただその瞬間を待っている。

 この場にはシュマやダークエルフ、メイドや獣人族の女など、多くの人が立ち会っていた。

 みんな、生きているルミスを見たいんだろう。


 いつも抱えていた生首ルミスをアンリに渡してるから、なんとも落ち着かない。

 ダークエルフが鬱陶しそうに見てくるけど、体の震えをおさえることができないでいた。


「あはは、お待たせみんな」


 そして、ついにその時がやってきた。

 部屋にある地下室から、アンリが上がってきたんだ。


「バアルもお待たせ。よく我慢できたね」


 あぁ、俺は本当によく待った。

 どうしても生き返らせるのに必要らしいから仕方ないけど、ルミスのいない夜は本当に不安だったんだ。


 ルミスを抱きしめることができない。

 ルミスと話すことができない。

 それは地獄のような時間だった。


「あ、アンリ……ルミスは?」


 だけどそんな時間は、もう必要ないんだ。

 俺の問いかけに、アンリは笑顔で答えてくれる。


「あはは、心配ないよ。成功さ。君のルミスは生き返ったよ」


「ほん……とう……に?」


「あはは、本当さ。ほら、おいでよルミス。何を恥ずかしがってるんだい? 君の大好きな、バアルがいるよ?」


 こつこつと、階段を上がってくる足音が聞こえる。

 その音はどこか自信なさげで、今すぐに近づいて手を引いてやりたくなる。

 だけど、足は動かない。

 破裂しそうなほどの心臓を戒めるのに必死で、俺はただその光景を見守っていた。


「バアル……久しぶり……ってのも変かな?」


 階段を上がってきたのは、青い髪の美しい最愛の人。

 紛れもなく、ルミスだった。


「ぅ……うぅ! ルミ……うぅ!!」


 ありがとう。

 ありがとう神様。

 本当にありがとう。


 五体満足で歩いているルミスを見て、俺は嗚咽がおさえられなくなる。

 今すぐ愛してると叫びたいのに。

 今すぐもう離さないと抱きしめたいのに。

 俺はただ、この奇跡に体を震わせていた。


「ぐす……バアル……ぐす……」


 俺が泣いている姿を見て、ルミスもまた涙を流している。


「ぅう……ルミスの……泣き虫……」


「バアルだって……ぐす……」


 お互い、何かを伝えたい顔をしているのに、泣くばかりで何も言えない。

 別にいい。

 伝えたいことなんて伝わってる。

 ルミスの気持ちも、俺には十分伝わってくる。

 俺達は、もう言葉を必要としていないんだ。


 俺は震える足に鞭を打ち、なんとかルミスに近寄る。

 そして、強くルミスを抱きしめた。


「うぅ……良かった……本当に良かった」


 ルミスもまた、俺を強く抱きしめてくる。


「ぐす……バアル……ぐす……」


 幸せだ。

 かつてない幸福感に包まれる。

 そして俺は愛を包む。

 一生守るんだ。

 俺はもう、ルミスを絶対に失わない。


 ──ぱちぱちぱち


 俺とルミスが愛を育んでいると、拍手の音が響いてくる。


「あはは、おめでとう」


 どうやらアンリが祝福してくれているようだ。


「喜んでもらえて本当に良かったよ。いやぁ、僕も頑張ったかいがあったってもんだ。ほら、みんなも祝福してあげなよ」


 俺達は、拍手の嵐に包まれた。

 それはまるで、地下室でできなかった結婚式のようだった。


 あぁ、これこそが俺の求めていたハッピーエンドだ。

 いや、ハッピーだけど、エンドではない。

 俺が主人公で、ルミスがヒロインの愛の物語は、まだまだ続くんだ。

 俺達の幸せは、ずっと、ずっと、続いていくんだ。


 大半の奴らは、幸せ過ぎる俺達に嫉妬しているのか、ぎごちない笑顔を浮かべている。

 でも、アンリと妹のシュマだけは、心から祝福してくれているようだった。

 本当にこの二人は、神様と天使なのかもしれない。


「ありがとうアンリ。なんて感謝をしたらいいか……」


「あはは、そんなのいいよ。僕も楽しい実験ができたからね」


 実験?

 何のことかと少しだけ疑問に思ったが、次のアンリの提案を聞いた俺は、そんなどうでもいいことは考えないことにした。


「そうだ、君の仲間にもルミスを見せてあげたら? どんな反応をしてたか、是非教えてほしいな」

 

 それはいい考えだ。

 ヘドロのやつ、きっと驚くぞ。

 ルミスがあまりにも可愛いから、気絶するんじゃないのか?

 ヘドロがルミスを意識し過ぎて、タバサとの仲が悪くなったら可哀そうだな。

 ふふ、まぁ、それはそれで面白いかもな。


 タバサはどんな反応だろうな。

 誰だっけな。名前は忘れたけど、タバサも誰か生き返らせたいって言ってたもんな。

 実際にルミスが生き返ったことを知ったら、あいつも喜ぶんじゃないのかな。


 あぁ、早く二人に見せてやりたくなってきたな。


「よし、じゃぁ今から行ってくるよ!」


「あはは、行動が早いね。悪いけど、ちょっとだけ待ってくれないかな。ルミスの取扱説明をさせてよ」


 そう言いながら、アンリはメイドたちに何か指示を出す。

 そして、棺桶が運ばれてきたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る