48 愛の物語
「それでな、ルミスは村の中でも一番の美人だったんだ。村の男達が、みんなルミスに告白しては振られてたんだよ。俺は、そんなルミスに選ばれた、たった一人の男なんだ」
俺は鼻息を荒くして、ルミスがいかに魅力的なのかを力説していた。
「あはは、今は生首だけど、元が綺麗なのは分かるよ。凄いねバアル、男として羨ましいよ」
「だろ!? ルミスは体も凄いんだぜ!? 胸もすっごく大きくてさ、昨日いたダークエルフの女といい勝負かもな」
アンリは笑顔で頷いている。
俺が喋る度に、不気味な本のページが捲れ、勝手に文字が書き起こされていく。
どんな魔法かよく分からないけど、俺の愛の物語を紡いでいるんだろう。
完成したら俺も欲しいな。売ってくれないかな。
「でもな、ルミスは怒るとすっごく恐いんだぜ? 本気で怒ると、俺よりも強いんだ」
「へぇ、バアルより強いってことは、相当だね」
『や、止めてよバアル! 変なこと言わないでよ! あ、アンリさん!? 真に受けないで下さいね!?』
「あはは、まぁまぁ。ルミスはバアルと結婚するんでしょ? その先も考えてみなよ。母になるなら、強くないと」
『は、母だなんて……は、恥ずかしいよぅ』
幸せだ。
凄く、幸せな時間だ。
ルミスを交えて複数人で会話するなんて初めてだ。
アンリは俺の言葉にもルミスの言葉にも、嫉妬することなく笑ってくれる。
あぁ、なんて良いやつだ。
これはまさしく──
「友達……なぁアンリ、俺と友達になってくれないか?」
貴族様相手に友達になってほしいなんて、普通なら馬鹿もいいとこだ。
だけど、心優しいアンリは、顔色一つ変えないで答えてくれる。
「あはは、何言ってるのさバアル。僕はもう、君のことを友達だと思ってるよ? 勿論、ルミスのこともね」
神様だ。
神様はいたんだ。
俺は嬉しくて、またルミスとの思い出を語りだす。
「お主ら、まだやっておったのか……」
昨日いたダークエルフがアンリの部屋にやってくる。
言われて、俺達は徹夜で話していたことに気付き慌てた。
「ご、ごめんよアンリ! 大分長くなっちゃって!」
俺はルミスのことを話すのは幸せだから、いくらでも大丈夫だ。
でも、アンリはどうだろうか。
「あはは、大丈夫だよバアル。もっと、もっと君たちのことを教えてよ」
これだけ俺達ののろけ話を聞いても、アンリは少しも嫉妬を感じさせることのない笑顔だった。
「そうだね……次はルミスに聞こうかな。もし生き返ったら、最初にバアルに伝えたいことって何かな?」
『え、えぇっと……伝えたいことが多過ぎて選べないよ……でも、実際生き返ると、嬉しくて何も言えないかも』
「ふふ、ルミスはそん時、絶対泣いてるだろうな!」
『ば、バアルだって泣くくせに!』
俺達の会話を聞いているダークエルフは、あまりにも幸せそうな俺達を見てげんなりしている。
「はぁ……ここまで茶番が過ぎると、いっそ清々しいの」
嫉妬にかられたのか、小言まで溢していた。
「キャス、邪魔するんなら出てった出てった。これは必要なこと……いや、僕の趣味に近いのかな。とにかく、大事なことなんだから」
「ふむ……そうさせてもらおう。お主らを見ていると、わしまで気が触れてしまいそうじゃからな」
アンリはダークエルフを追い出すと、俺達に向き直って笑顔を浮かべる。
「あはは、ごめんね、気にしないでよ。それじゃ次は、バアルに聞こうかな。ルミスがお願いしてきたら、バアルはどこまで叶えてあげられる? 仲間を殺せる? 家族を殺せる? 自分の魂を捧げられる?」
「ふふ、ルミスのためなら、出来ないことなんてないよ。仲間の首なんていくらでも切り落としてやる。家族は……爺ちゃんは殺したからもういないか。そして……俺の魂はもう捧げているよ」
魂を捧げる。
それはプロポーズにも聞こえるだろう。
『えへ、えへへ、バアルったら……』
過去にプロポーズはしたから、これは二度目だ。
だけど、ルミスは本当に嬉しそうにしてくれる。
ルミスが嬉しい分、俺も嬉しい。
「あはは、君たちの愛は本物だね。羨ましいよ、あぁ、羨ましい。それじゃあルミスは? バアルのために、どこまでできる? あぁ、その前にバアル、君の剣をちょっと貸してくれないかな? そっちもついでに調べたくてね」
ルミスが俺への愛を語ってくれる。
それが早く聞きたくて、待ち遠しくて、俺は二刀の魔剣をアンリに渡す。
「あはは、ありがとうね。解析が楽しみだ……おっと、それじゃぁルミスの話を聞こうかな」
これは、俺が主人公で、ルミスがヒロインの物語。
ハッピーエンドで終わる美しい物語を、俺達はアンリへ語った。
神様のように心優しいアンリは、ずっと笑顔で聞いてくれたんだ。
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