47 蘇生の条件

 ルミスの声が聞こえる男。

 俺は、アンリを信じてみることにした。


「よ、よろしくアンリ。その、君が凄い人だってことは、もう分かったよ。それで、君の妹さんから聞いてるかもしれないけど……」


 俺は祈りを込めてアンリを見つめる。

 俺にとって一番重要なことの確認をしたいんだ。


「あぁ、シュマから聞いているよ。君の最愛の人……ルミスさんを生き返らせたいんだよね?」


「あぁ、その、可能かい? 復活の神薬を作ったのは君だと聞いたんだけど」


 返ってきた答えは、まるで神のお告げに聞こえた。


「あはは、勿論さ。ルミスさんを生き返らせることは可能だよ。そして僕は、君にとって一番いい形で、ルミスさんを復活させてあげようと思ってるんだ」


 低ランクの依頼を受けるような軽い口調で、アンリは俺の最大の願いを叶えてくれると言った。

 神は……神様はいたのかもしれない。


「だけどね、君の望むルミスさんを復活させるにあたって、条件が二つあるんだ」


 そうくるとは思っていた。

 人を蘇らせるんだ。タダでというわけにはいかないだろう。

 もしかしたら神様ではなく、悪魔のように俺の魂を差し出せと言ってくるのかもしれない。

 だけど、ルミスのためなら俺は何だってできる。

 俺は決意を固めて条件を聞く。


「まず一つ目だけど、僕の部下になってほしいんだよね。君は強いから役に立ちそうだし……まぁ、メルが君を部下にしろってうるさいのが本音だけどね。あはは、あの子の中二病に付き合うのも大変だよ」


 アンリの言葉に反応したのは、何と、彼が持っている本に施された目玉だった。

 ギョロギョロと動く目玉が喋ることに、俺はおとぎ話の中に入り込んだように感じた。


「中二病ではなくロマンです。マスターも好きでしょう? マスターを支える三つの光……そそられませんか? それに、バルタザールの強さは本物です。彼は実力だけなら、三光の中でも一番かもしれません」


 その言葉に、後ろからギリッと歯ぎしりのような音が聞こえる。


「ハイスコアランキングをマスターも見たでしょう? 実際に彼は3位につけている。三光の中では一番です。それこそが、マスターの好きなエビデンスですよ」


■■■■■■

3位  56,410pt 雷光のバルタザール

4位  55,216pt 神光のメルキオール

5位  51,410pt 閃光のカスパール

■■■■■■


 続く一つ目の言葉に、俺が掲示板の内容を思い出していると、後ろから反論が上がる。


「ちょっと待て! まるでわしが一番弱いようではないか! そも、4位なんて完全ないかさまじゃろうが!」


「事実を受け止めろダークエルフ。ご主人様。私にダンジョンに向かう許可をくれたら、すぐに3位の座を奪って見せます……わん。その時はご褒美が欲しいです……わん」


「ほざけよ、犬コロ風情が! 薬の使いすぎのようじゃな。おかしな妄想が見えておるぞ」


 俺の後ろで口論が始まった。

 正直話の内容についていけてない……

 少し寂しさを感じていると、アンリが呆れたように声をあげる。


「はいはい、二人共喧嘩は後でね。それで、どうだい? 君の願いが叶ったら、僕の部下になってくれるかい? 勿論部下になったとしても、君とルミスさんだけの時間を設けるし、なんなら事前に申請は必要だけど、休みをとってデートしてもいいんだよ?」


 ……最高かよ。

 貴族様に仕えることができるって、よく分からないけど俺にとってもいい条件じゃないのか?


「勿論! ルミスが生き返ったらアンリの部下になるよ! それで、もう一つの条件は?」


 どうか俺にできる範囲であってくれ。

 祈っていた俺に言い渡されたのは、拍子抜けするほどの簡単な条件だった。


「君たちのことを教えてくれないかな? 君が、ルミスさんのどこが好きなのか。ルミスさんが、君のどこが好きなのか。それを可能な限り、少しでも多くの情報が欲しいんだ」


 俺とルミスのことを伝える。

 俺達の愛を伝える。


 あまりにも簡単すぎる条件に安堵し、俺は神様との取引を交わすことにしたんだ。

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