終章 はっぴーえんど
43 Aランク
「え……俺がAランクですか?」
あれから俺達は一日だけ休み、冒険者組合に来ていた。
受付嬢のソフィアさんは、笑顔で説明してくれる。
「はい。不思議なダンジョンでの功績を評価されましたので、バルタザール様のランクを上げることが可能です」
……う、嬉しい。
嬉しいけど、大丈夫なのかな。
Bランクに上がるのはかなり時間がかかったのに、もうAランクに上がれるなんて。
少し心配になったから、聞いてみることにした。
「あ、あの……俺がAランクって、何かの間違いじゃないんですか? 高ランクは試験があるって聞いてたんですけど……俺、王都に来てから依頼も座学も、何もしていませんよ?」
俺はソフィアさんに聞いたはずなのに、後ろから声がかかる。
「ば、バアルぅ、何言ってんだよぅ! AランクだぜAランク! 何かと間違いだとしても、大人しく上がっとくべきだよぅ!」
「ヘドロの言う通りよ。あんたって馬鹿? 一回上がってしまえば、滅多なことではランクは下がらないんだから、余計なことを考えるのは止めなさいな」
ヘドロとタバサは揃って俺に助言してくる。
この二人……やっぱり仲が良いのか?
助言を聞いても、真面目な俺は少し気が引けていた。
そんな中、ソフィアが言葉を重ねる。
「ハイスコアランキングの”雷光のバルタザール”様と同一人物なのは確認がとれましたから、何も間違いはありませんよ。バルタザール様は、"閃光"の二つ名を持つSランク冒険者よりも高ポイントを獲得されています。それでランクが上がらない方がおかしいですよ」
俺はハイスコアランキングで3位になったが、そのすぐ下に相当有名な冒険者がいたようだ。
伝説とまで言われるダークエルフらしく、ポイント上ではそいつよりも強い俺は、一目を置かれるようになったらしい。
「とは言っても、俺がそいつと戦ったわけじゃないしな……そういえば、”閃光”は5位だっけ。4位の”神光”って、どんな人なんだろ」
ふと出た疑問に、俺のパーティーメンバーは目を泳がせる。
「お、おいらは田舎もんだからなぁ……」
「わ、私も、ずっと地下に引き籠ってたから……」
なんとも頼りないパーティーメンバーだ。
ヘドロって、情報を持ってくる役割じゃなかったっけか。
俺は呆れていたが、ソフィアさんがフォローを入れてくれる。
「実は、”神光”がどんな人なのかは、全くの不明なんですよ。どんな戦い方なのか、男なのか、女なのか、誰も見たことがないんです……ですが、あの掲示板に名前があるということは、確実に存在しているということです。冒険者登録もされていないので、勿論私も分かりませんが……」
冒険者登録をしていない強者か……前に見た奴隷執事のように、強い奴はまだまだ沢山いるんだろうな。
とにかく、あの掲示板で俺が三位になったことは、かなりのインパクトを与えているようだ。
見知らぬ冒険者から挨拶をされたりするほどには、俺も名が売れていた。
ふふ、有名になるって、結構気持ちいいもんだな。
”雷光”って二つ名を勝手にダンジョンマスターにつけられたのは納得できないけど。
『バアルは、どんな二つ名が良かったの?』
「そうだな……”愛と力の戦士”……いや、”深淵に潜む愛の探究者”……どうだ?」
『うーん……私は”雷光”のほうが好きかなぁ』
おぉい、まじかよ。
やっぱり、男と女の価値観は少し違うんだな。
でもまぁ、ルミスが好きな二つ名で良かったよ。
「そういえば、タバサはなんでそんな恰好してるんだ? 俺と一緒に有名になろうよ」
俺は、フードを目深にかぶっている同志タバサに目を向ける。
せっかく俺達のパーティーが勢いづいてきたのに、そんなんじゃぁ有名になれないだろ? ちやほやされないだろ?
「っさい! 私のことはほっといてよ」
……ずっと地下に引き籠っているような女だ。
注目を集めるのは好きじゃないのかな。
「きひひ、タバサにも色々あるんだよぅ。分かってやれよバアル」
そう言うヘドロは、タバサの肩に手を置いている。
タバサは黙ってそれを受け入れていた。
「ヘドロ、幸せそうだね」
ヘドロは笑いながら頷く。
その右手には、指輪が3つ着いている。
赤、緑、白。鮮やかな宝石がついた指輪は、不思議なダンジョンから持ち帰ったものだ。
それは、ヘドロとタバサの力関係を逆転させるほど強力な物だった。
「あぁ、おいら、幸せだよぅ。これも、ぜぇんぶバアルのおかげさ。本当に感謝してるよぅ」
ヘドロは力を手に入れて、幸せを掴んだんだ。
ゴミのような人生を送っていたゴミのようなヘドロに、そのきっかけを与えたのは確かに俺だ。
感謝を伝えられた俺は、少し照れくさいものを感じていた。
「ウォフ様が生き返るまでの我慢……頑張れ私……覚えておきなさい気狂い共……」
タバサが何か呟いているけど聞き取れない。
聞き直そうとしたけど、先にソフィアから声がかかる。
「こちらがAランクの証になります。バルタザール様、お受け取りください。それで、本日はどちらの依頼を受けますか?」
俺は金色のプレートを受け取りながら、要件を告げる。
「実は、今日は依頼を受けるんじゃなくて、依頼をしたいんです」
俺は、以前王都で会った、白い髪の少女の特徴をソフィアに伝えた。
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