42 続く物語
「ば、バアルぅ……その、なんて言ったらいいか……」
事の成り行きを見守っていたヘドロとタバサは、ルミスの首を斬り落とした俺に恐る恐る話しかけてくる。
「ちょ、ちょっと……今の、復活の神薬でしょ? あんた、手に入れたんだ……でもその女の子……」
俺は泣きながらルミスの首を抱きかかえる。
そして、そのまま二人に事の顛末を伝える。
「復活の神薬を使った時、三人の死体が対象になっちゃったんだ……それで、最初のヘドロは完全に生き返った。二番目のタバサはなんとか生き返った。そして……最後のルミスは……うまくいかなかった……お前たち二人を生き返らせたから、ルミスはうまく生き返らなかったんだ……お前たちのせいだ」
完全に俺のミスだけど、少しぐらい恨み言を吐いてもいいじゃないか。
正直俺は二人には罪はなく、俺のせいだと思ってるよ。
”お前たちのせいだ”
だけどその言葉を、二人は本気にしたようだ。
ヘドロとタバサは、あんなに仲が悪かったのに、今では手を握ってこちらを見ている。
顔が青い。体が震えている。
化け物を見る目で、俺を見ている。
あぁ、俺は何をやってるんだろう。
俺はこれまで、何をやってきたんだろう。
敵はいなくなったのに、俺を絶望が襲う。
希望なんてない。ルミスは化け物になってしまって……ここで二人を殺すと、俺もまた化け物になってしまうんだろうか……
俺の心は砂漠のように渇いている。
おとぎ話なら、ここでランプの魔人が助けてくれる。
だけど、これはおとぎ話なんかじゃない。現実だ。
現実はいつだって非情で、残酷で、俺を苦しめる。
「うぅ……うぅぅ……ごめん、ごめん……ルミス……本当にごめん……」
その時、俺に救いがもたらされた。
『大丈夫だよバアル。泣かないで』
ルミスの魂の声だ。
「ルミス……あぁ、ルミス。俺は、お前を二度も殺したんだぞ……それでも、それでも俺を、許してくれるのか……?」
俺の懺悔に、ルミスは温かく答えてくれる。
『勿論だよバアル。私がバアルを嫌いになることは無いって言ったでしょ? 私はいつまでも、バアルのことを愛してるよ』
その言葉は、俺の渇きを潤してくれる。
オアシスなんてもんじゃない。津波のような勢いで、心が一気に満たされていく。
心の中の砂漠は、完全に無くなったんだ。
「ありがとう、ありがとうルミス……」
俺はルミスに感謝を伝えてから、ヘドロたちの方を向く。
さっきは少し、意地悪なことを言ってしまったからな。
「ルミスが、俺を許してくれるって……良かった……最悪は免れた。バッドエンドじゃない。物語は、続くんだよ!」
ヘドロとタバサは、ぎごちない笑顔を浮かべ、首を上下に強く振っていた。
ふふ、こいつら、実は相性がいいんじゃないのかな。
俺がそんなことを思っていると、ふと後ろから魔力を感じる。
「ひひ……ひひ……」
何事かと見れば、このダンジョンの主である化け物が、今にも魔法を打とうとしていた。
「こ、こいつ生きて!? ま、まずい! 間に合わ──」
俺達四人は、その魔法を無防備で受けてしまう。
「ひひ……<
そこで、”不思議なダンジョン”の探索は終了したんだ。
◇
「いててて……あれぇ? ここは……」
ヘドロの声を聞きながら目を開ければ、久々に日の光を感じる。
どうやら、地上に戻ってきたようだ。
化け物の魔法は攻撃用ではなく、俺達をダンジョンの外に出すためのものだったのか。
ふん、真正面から戦っても俺には勝てないと思ったようだな。
俺は周りを見渡す。
冒険者と思われる者達の長蛇の列。
複数ある無人の受付。
俺達がいるのは、不思議なダンジョンの入り口に近いところだ。
「ったくよぉ! 今回もお宝はでなかったぜ!」
「だなぁ……金貨2枚が……勿体ねぇ」
隣で大声を上げている冒険者を見れば、どうやら帰還のペンダントを使ったようだった。
そうか、ダンジョンからの帰還者はここに来るのか。
大柄で目立つ俺がいること。
ヘドロとタバサが裸なこと。
それらの理由から、俺達は周りから注目を集めている。
しかし、大きなどよめきが起こったと思えば、皆が俺達を視線から外す。
掲示板に注目しだしたんだ。
「ま、まじかよ……」
「上位が変わるなんて、掲示板ができて以来じゃないか……?」
「Sランクよりも上ってことか……?」
文字が読めない俺には、何があったのか分からない。
「なんだ? おいヘドロ、何があったんだ?」
服の代わりに布切れを投げつけながら聞いてみる。
「ば、バアルぅ! 凄い! 凄いことだよぅ!」
ヘドロの話では、不思議なダンジョンのハイスコアランキングに変動があったらしい。
順位の変動自体はよくあることだけど、上位が動くのは珍しいため、関心を集めているようだ。
今回の探索では、ルミスの復活は失敗に終わった。
でも、物語はまだ終わりじゃない。
俺は掲示板を見ながら、何かが始まることを予感していた。
◆不思議なダンジョン ハイスコアランキング
1位 651,860pt 死ノ神
2位 114,106pt 狂姫のアエーシュマ
3位 56,410pt 雷光のバルタザール
4位 55,216pt 神光のメルキオール
5位 51,410pt 閃光のカスパール
★★後書き★★
以上で第三章が完結となります。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
次が終章になりますが、バアル(バルタザール)を最後まで見守っていただけましたら嬉しいです。(フォローも★も嬉しいのですよ)
★★★★★★★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます