41 神薬の効果
「きひひ、すげぇ、すげぇよぅ!」
同志タバサの生首から体が生えていく様子を見て、ヘドロは興奮していた。
それもそうだ。
俺だって、ヘドロが生き返った時は衝撃を受けた。
それほど有り得ない光景なんだ。
だけど、今の俺はそれどころじゃない。
どうか、ルミスが無事に生き返りますように。
それだけを願っている俺は、まずはタバサを見守っていた。
ここでタバサが無事に生き返らないと、最後に生き返るルミスの希望は薄いだろう。
頼むよ神様。
俺の失敗でルミスになんかあったら、一生ルミスに顔向けできねぇよ。
俺達が見守るなか、タバサの体は完全に復活し、その目を開ける。
そして、俺とヘドロを見るも、あまり反応はない。
……少し様子が変か? やっぱり複数蘇生は駄目なのか?
俺が心配していると、ついにタバサが声をあげる。
「きゃあぁぁあああああ!!?」
いきなりタバサは叫びだしたんだ。
生き返ったばかりで本調子じゃないのか、立ち上がることはできないようだ。
それでも、なんとか両腕を使って俺とヘドロから距離をとろうとしている。
「き、きひひ、どうしたんだよぅタバサ。折角生き返ったんだ。楽しくやっていこうぜぇ?」
「あぁぁぁぁ!!? 口を閉じろこの外道共! わ、私に近寄るなぁぁ!!」
同志タバサは、ひどく興奮してパニックになっているようだった。
ヘドロが手を伸ばすけど、それを必死に振りほどいている。
ヘドロの言葉に一切耳を貸さずに、ただ涙を流して暴れるだけだ。
…………まずい。やっぱり同時の復活は問題があったか?
外見上は問題なく蘇生したように見えるけど、その精神はお世辞にも正常とは思えなかった。
俺は
二番目に生き返った同志タバサがあんな状態なんだ……
最後に生き返るルミスは……果たして正常な精神を保っているんだろうか……
”お母さんを生き返らせることに成功しました。でも、それはせいぜんのお母さんとはとても言えず、まるで化け物のようだったのです。おしまい”
ふと、昔聞いたおとぎ話を思い出した。
嫌だ……止めてくれ。
俺はそんなんじゃなくて、ハッピーエンドがいいんだ。
神様お願いします。俺、一生懸命頑張ったでしょう?
どうか、どうか俺のルミスをお願いします。
どうか、ルミスの精神まで癒してやってください。
俺が祈っていると、ついにルミスの首から体が生えてくる。
同志タバサはそれを見て絶句している。
ヘドロも気になったのか、裸のタバサよりもルミスに注目していた。
俺達三人が見守る中、外見上ルミスは完治した。
ヘドロがいるのに小振りな胸をさらけ出してるけど、今はどうでもいい。それどころじゃないんだ。
「す、凄い……まさか……これが復活の神薬……私では到達できなかった領域……」
「き、きひひ、腐ってて分からなかったけど、本当に綺麗な女の子だったんだなぁ……」
タバサとヘドロの言葉を無視して、俺はルミスを見つめ続ける。
そして、遂にルミスが口を開けた。
「Λ%Ю@@$⁉ 〓#※∇ЮЮ──!!」
俺のせいだ。
俺が馬鹿だから。
折角ここまで来たのに、最後の最後でへまをするから。
もしかしたら、ダンジョン探索に時間をかけ過ぎたことも原因かもしれない。
とにかく、これは俺のせいだ。
「%※ΛΛ!※ЮЮ! Π〓〓△ΞЮЮ、〓#※∇ЮЮ!!」
ルミスの声は、とても人間のものとは思えなかった。
目から血の涙を流し、酷く苦しそうに叫んでいる。
なにか訴えているようにも見えるし、慟哭のようにも感じられた。
だけど、その言葉は俺には全く理解できないものだった。
もしかしたら、何も意味がない、文字通り壊れただけなのかもしれない。
辛い。
ひどいよ神様。
俺のせいだと分かっているのに、それでも俺は神様に文句を言う。
滝のように涙が流れてくる。
いや、ルミスが流しているのは血の涙なんだ。
彼女の方がもっと辛いんだろう。
このままじゃ、ルミスが苦痛を感じるだけだ。
これだと首だけの時の方が幸せそうに思える。
俺が化け物みたいになってしまったルミスを見てると、ルミスが俺を指さしてくる。
”バアルなんか、大っ嫌い”
ついさっき何度も見た悪夢が、急に頭の中に蘇ってくる。
「うぅ……ごめん、ごめんよルミス。本当にごめん」
これは二度目だ。
その事実に、俺の心は打ちのめされる。
あの化け物の尻尾を食らった時よりも、俺の胸は深く抉られた。
俺は、ルミスの首を斬り落とした。
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