40 光

「ひひ……ひひ……」


 こんな魔法、ずるいだろ。

 相手に近づくこともできないじゃないか。

 そりゃあもう、諦めるのも無理はないよ。


「ひひ……ぜつぼう、ぜつぼう」


 あぁ、絶望だ。その通りだ。

 俺はもう、諦めた。


「ひひ……終わり? 終わり? 楽しい愉しい……ぼーなす、たいむ」


 鞘に剣を収めた俺を見て、化け物が笑っている。


 あぁ? こいつ、何か勘違いしてないか?


 俺は雷鉄剣スサノオを鞘に納めると、もう一つの剣を抜く。


「光鉄剣……光の名を持ってるのに漆黒の見た目をしてるなんて、本当にふざけた剣だ」


 雷鉄剣スサノオで勝つことは、確かに諦めた。

 でも、俺は復活の神薬を諦めない。

 ルミスを生き返らせることを、諦めるわけにはいかない。諦められるわけがない。

 だから、気に食わないけど、こいつの力を使うとしよう。


「そろそろ起きやがれ糞野郎……呪い尽くせぇぇ! 光鉄剣イザナミぃぃぃ!!」


 光鉄剣イザナミは、とにかくよく斬れる。

 こいつに斬れない物なんてない。

 そう、魔法ですら斬ることができる。


「おらぁ! 噛ませ犬の分際でぇ!」


 俺は、紫の光を、漆黒を纏った剣で斬り裂きながら駆ける。


「ひひぃ!? 危険! 危険!」


 化け物がひどく慌てている。

 さっきまでは紫色の魔法に手も足も出なかったけど、今は違う。

 全ては無理だが、それでも要所を押さえて魔法を斬っていく。

 一部は被弾してしまうが、それでも俺の歩は進む。

 当然、化け物との距離は詰まっていく。


「俺の、俺達のハッピーエンドのために、死にやがれぇぇぇ!!」


 力では俺が上だ。

 スピードでも俺が上だ。

 魔法ではお前が上かもしれない。

 でも、俺の呪い想いははるかに上だ。


「ひゃあぁああぁぁああ!!?」


 どうすることもできなくなった化け物は、そのまま光鉄剣イザナミの一撃を受けるしかなかった。

 光鉄剣イザナミに斬れないものはない。

 必然、化け物の抵抗はなにも意味をなさず、左右に真っ二つになった。

 これでもう、あの気持ち悪い顔を見ないですむ。

 これでもう、あの気持ち悪い笑い声を聞かなくてすむ。


 そしてついに、俺の願い叶う。

 俺は、勝ったんだ。





 俺は光鉄剣イザナミを鞘に収め、奥の台座に向かう。

 さっきまで、死ぬ気で戦っていたためか、それとも、これから俺の悲願が叶うためか、心臓が鐘のように鳴り続ける。


「ルミス……つ、使うよ」


 緊張のため、うまく喋ることができない。

 ルミスからの返答はない。ルミスもまた、緊張しているんだろう。


 俺は復活の神薬を手に取った。

 神薬はスクロールと呼ばれる紙切れだ。

 模倣品を使った経験から、これの使い方は分かっている。 


「こい! 生き返れぇぇぇえ!!」


 俺が少しだけ魔力を込めると、その紙は強く光り出した。


「き、きた! きたぞルミス!」


 それに伴い、ルミスの首もまた光り輝く。

 だけど、ここで俺が予期していなかったことが起こる。


「なっ!?」


 俺の視界の下から、同じく強い光を感じる。

 見れば、ヘドロとタバサの首も輝いていた。

 この二人の首を持っていたことを忘れてたんだ。


「ま、まずい! と、止まれ、止まれぇぇぇ!!」


 死者を生き返らせる。

 それは、通常ではありえないことだ。

 それを可能にした復活の神薬は素晴らしいけど、その効力にも流石に限界はあると思ったんだ。


「止めろぉぉ! 俺は、ルミスだけでいいんだぁぁぁぁ!!」


 いかに復活の神薬といえども、生き返らせることができるのは、一人がいいとこじゃないだろうか。

 それが、今は三人が対象となってしまっている。

 何かよくないことが起こってしまうのでは。

 満足に生き返らせることができないのでは。

 俺はそれが怖くて、叫ぶ。


「ルミスだけで、ルミスだけでお願いしますぅぅ! 他のやつらなんて、どうでもいいんだぁぁぁ!!」


 俺の叫びとは裏腹に、他の二人にも変化が現れる。

 まずはヘドロだった。


 ヘドロの生首からは、体が生えてきている。

 それは現実ではあり得ないような光景だが、それを見て復活の薬が本物なんだと実感した。

 ただ、服までは元通りとはいかないようで、裸のヘドロを見ることになったのは最悪だ。


「あ、あれ? おいら……一体」


 ヘドロが喋っている。

 復活に成功したんだ。

 やっぱり、この神薬は本物だ!


「そ、そうだ! 指輪は!? バアルぅ、おいらの指輪、どこいったんだよぅ!?」


 場違いな質問をされるけど、俺はそれどころじゃない。

 ヘドロを無視して、事の成り行きを見守る。


 尋常じゃない光の輝きに、ヘドロは異常事態なんだと気づいたのか、俺と同じ方向に視線を向ける。


「ば、ばかな……っ!? ま、まさかバアル、復活の神薬をっ!? ほ、本当なのかよぅ!? 死者が生き返るなんて、本当にあるのかよぅ!!?」


 同志タバサの首からも、体が生えてきた。

 これは……死んだ順番が関係してるのか?

 死んだのが遅いほうが優先されるなら、ルミスが一番危ない。


「きひひ! すげぇ、すげぇやこれ! タバサが生き返ろうとしてる! 復活の薬は、本当にあったんだぁ!!」


 ヘドロは喜びの声を上げているけど、俺は不安で押しつぶされそうになっていた。

 どうか、ルミスが無事生き返りますように。

 そう願いながら、二番目に生き返ろうとしているタバサの様子を見つめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る