31 地下1階層
「これが不思議なダンジョン……確かに普通のダンジョンとは違う、変な感じがするよぅ。なんというか、視線を感じるというか」
俺達はダンジョンの地下一階層に降りてきていた。
並んでいた時に前にいたパーティーの姿は、全く見えない。
入ったパーティー毎に内部構造が違うというのは本当なんだろう。
「視線って、あれじゃないか」
俺が指差したのは、鳥形の魔物だ。
ダンジョン内の至るところに留まっている。
「あぁ……まぁ、あれは気にしなくてよさそうだなぁ」
黒い羽に赤い目を持った鳥形の魔物は、アフラシアデビルという名前らしい。
見た目こそ不気味ではあるが、戦闘力はほとんどないFランクの魔物なんだとか。
「きひひ、でもあいつらは腐肉が好きだから、ルミスさんが食べられないように気を付けるんだよぅ」
その言葉を聞いた俺は、
瞬間、ダンジョンの中を轟音と共に雷が駆け抜けた。
ルミスを食べようとする不逞の輩を、塵も残さず消し去ることに成功したんだ。
「き、きひひ、本当にバアルは強いなぁ。これは冗談なしに、最深部を狙えるかもねぇ」
ヘドロはヨダレを垂らし、汚い顔を更に汚くしていた。
欲望に素直なヘドロのことだ。ダンジョンにあるお宝のことを想像しているんだろう。
まぁ、それは俺も同じか。
最深部には、間違いなく”復活の神薬”があるんだ。
どんな強敵が出てきても、必ず倒してみせる。
「狙えるかもね、じゃない。絶対に最深部に到達するんだ。今回の探索で一気に最深部まで行こう」
俺は決意を込めて言うが、ヘドロは”今回の探索”という部分に対しては気乗りがしないようだ。
「で、でもよぅバアル。あの受付嬢の言うことを信じて、おいら達、何も準備してないよぅ。お、おいら、そろそろ腹が減ってきたよぅ」
こいつ、さっきあれだけカエルの卵を食っておいて、もう腹が減ったのかよ。
少女の助言に従い、神薬を早く入手したい俺は、ヘドロの後ろ向きさに内心苛つく。
と、その時。このダンジョンに入って初めての宝箱を見つけた。
「おいヘドロ。見ろよ、お前が望んでるお宝だよ。ほら、お前にやるよ。俺は神薬以外に興味はないから」
少しでもヘドロを前向きにさせるため、宝で釣ることにする。
馬鹿なヘドロは、簡単に釣られたようだ。
「きひ、きひひ、いいのかよバアルぅ。よし、じゃぁこれはおいらのだ! ……は?」
意気揚々と宝箱を開けたヘドロの顔は、驚愕に染まっている。
なんでだろうと俺も箱の中を見れば、そこにあるのはパンだった。
「え? お宝……じゃなくて、食料?」
俺が驚いていると、ヘドロはそのパンをかじりだす。
おぉい、まじかよ。落ちてるものを拾って食うなって、爺ちゃんに教わらなかったのかよ。お前、そんなに腹が減ってたのかよ。ちょっと常識が足りないんじゃないのか。
俺が内心で引いていると、ヘドロが顔を輝かせて呟く。
「お、美味しい……これ、焼き立てだ」
”不思議なダンジョン”という名前が付けられたダンジョンだ。
とにかく不思議なことが起こるとは思っていたけど、これは少し度を超えているように思う。
ヘドロもそう思っているはずなのに、よっぽどパンが美味しいのか、一心不乱にかぶりついていた。
俺がそんなことを考えていると、また視線を感じた。
後ろを振り返ると、さっき屠ったはずのアフラシアデビルが数羽、こちらを見ていた。
「この……ルミスは俺のだ! 渡さん!」
『えへへ、なんだか照れるねぇそれ』
ルミスの幸せそうな声を聞きながら、再度
だけど、アフラシアデビルは何度殺しても、いつの間にかまた現れた。
視線を感じるたびに雷を放つが、きりがない。
一体、このダンジョンにこの鳥の魔物は何匹いるんだ……?
数千羽は殺したが再度姿を見せるアフラシアデビルを見て、本当に終わりがないと思い、俺は殺すことを諦めた。
だけど、ルミスを食べようもんなら絶対に殺し尽くしてやる。
俺の殺意が伝わったのか、アフラシアデビルが近くにくることはなかった。
「きひ、本当に不思議な……ってよりは、変なダンジョンだなぁ」
「あぁ、でも食料が落ちてるのは良かったね。ソフィアさんの言ってたことは本当だ。このダンジョンに入るのに、そういった準備は必要ないんだよ」
大して時間もかからず、次の階層への階段を見つけた。いいペースだ。
難関とされるダンジョンでも、大抵の階層は10ぐらいだ。
だけど、この”不思議なダンジョン”は、とんでもなく深く、最低でも20階層はあるとされている。
そのことをソフィアさんから教えてもらっていたヘドロは、階段を下りながら俺に帰還を進言する。
「な、なぁバアルぅ。今回は、一度帰らないかい? どんなに急いでも、何日も日を跨ぐだろぅ? やっぱり、色々と準備はいると思うんだぁ」
なんとも弱気なやつだ。
そんなんだから、お前はヘドロなんだよ。
俺がヘドロを前向きにする言葉を探していたが、先に2階層に辿り着く。
そこで、俺達は今度こそ言葉を失った。
目の前に映るのは、オルゴンで一番の宿屋が浮浪者の寝床に見える程の、ふかふかのベッドがある個室。
そこの個室には鍵が掛かっていて、入ることはできない。
うん? 扉に何か書いてある?
「い、一泊……金貨2枚……こ、ここに魔物は、絶対に入ってきません……だってさぁ……」
”不思議なダンジョン”
あまりにも不思議なそれは、俺に恐怖さえ抱かせたんだ。
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