三章 不思議なダンジョン

27 王都

「これが王都……」


 俺達は、王都マーズダリアへやってきた。

 クロエさんから、死者を生き返らせたいのなら王都に行くべきだと聞いたんだ。

 なんでも、王都で実際に死者が生き返ったって情報を掴んだとか。

 そんな貴重な情報を教えてくれるなんて……クロエさん、本当にいい人だ。


『凄いね! 賑やかだね! お家、たっかーい!』


 コリン村からオルゴンの町に出てきた時は、正直感じるものはあまり無かった。

 だけど、王都は流石に違う。


『凄いね! 人が多いね! 皆着ている服がすっごく素敵! 私も生き返ったら着てみたいなぁ! あの大きな壁はなに!? 中に何があるんだろ!』


 都会。とんでもなく都会だ。ルミスがはしゃぐのも無理はない。

 話には聞いていたけど、いざ王都に着いて目にすると、悪神である俺が圧倒されていた。

 俺達の場違い感が凄い。

 いや、ここにルミスを復活させる何かがあるんだ。

 ここが、俺達の物語の舞台なんだ。


 俺は気を取り直し、ルミスに告げる。


「さぁ、観光はまた今度にしようか。まずは冒険者組合に行こう。情報を集めないと」


「ちょ、ちょっと待ってくれよぅ!」


 組合を探そうとした俺に待ったがかかる。

 後ろを見れば、大きく息を切らし、肩を上下に揺らしているヘドロがいた。

 ヘドロは同志タバサの首を、袋の中に完全に隠している。

 どんだけ独占欲高いんだよ。こいつ、ここまでいくとちょっと異常だな。


「どうしたんだよヘドロ。お前だって、早くタバサを生き返らせたいだろ?」


「ば、バアル、ちょっと、ちょっとだけでいいんだ、休憩しよう。も、もぅおいら無理だよぅ。腹が減って、死にそうだよぅ」


 俺達は休みなしでオルゴンから歩いてきた。

 人間のヘドロには睡眠はどうしても必要なので、夜は俺が背負ってきた。

 それでもヘドロが疲れたってことは、元々抱えているルミスを重視しすぎて、少しヘドロの扱いが雑になっちゃったのかな……仕方ないか。


「そうだね、俺のペースにつき合わせちゃってごめん。俺も、久々に何か食べようかな」


『ねぇねぇ! みんなが持ってるあれ、なにかな!?』


 ルミスの声につられて周りを見れば、変わった飲み物を手にしている人間が目についた。

 ルミスはみんなと言っているが、飲み物を持っている人の大半は女性だ。


『ねぇねぇ、私、あれ飲んでみたいなぁ……あそこのお店で売ってるみたいだけど、凄く混んでるね……また今度にする?』


 ルミスも女の子だ。都会のオシャレな女の子の真似をしてみたいのだろう。

 俺がお店を眺めていると、ヘドロから声がかかる。


「きひ、おいら、あの店で食べ物を買ってくるよぅ。あの飲み物……アシッドケロッグの卵みたいなのが入ってるのも、一応一緒にねぇ。だからバアルは、なるべく目立たないように、この辺で大人しく待っててほしいなぁ」


 そういって、ヘドロはルミスが欲しいと言っていた飲み物を買いに行った。

 何も言わずにルミスの好みが分かるなんて……ヘドロ、成長したなぁ。


 俺は道端のベンチに腰掛ける。

 流石王都、どこもかしこも人だらけだ。

 純粋な人間だけじゃない。

 エルフやドワーフ、稀にだが獣人族や魔族との混じりものまで。

 純粋な人間しかいなかったコリン村やオルゴンに比べて、随分と多様性に満ちている。


 それなのに、俺はみんなから距離を置かれていた。

 楽しく話しながら歩いてきたカップルも、俺を見ると静かになり道の隅を歩き出す。


「なんでだよ……体が大きいからか? 髪が黒いからか? 肌が青いからか?」


「うふふ、お兄さんが左手に抱えているものが問題じゃないかしら?」


 俺の呟きに答えたのは、ルミスとは違う女性の声だった。

 声の主に振り返った俺は、心臓が跳ねたのを感じる。


 年は12……13ぐらいだろうか。いつの間にか、近くに小柄な少女が立っていた。

 どこかいいとこの娘さんなのか、着ている服はとても煌びやかだ。

 だけど、どうしても顔に一番注目してしまう。

 非常に顔が整っているということもあるけど、雪のように白い肌と、それよりも更に白い髪の毛のせいだ。

 色を感じさせないほどの白さは、どこか浮世離れした印象を俺に与えた。

 

 幼くてもこれほどの美形だ。将来はもの凄い美人になるだろう。

 だけど、なぜかこの世の者とは思えない、なにか異質なものを強く感じた。


「ごきげんよう、お兄さん」


 なぜか分からないが、心がざわつき落ち着かない。

 なんだ? なんで俺は緊張している?

 綺麗、だからか? 確かに綺麗だ。でも俺にはルミスがいる。

 いや、考えるのは後だ。とりあえず挨拶を返さないと失礼だ。


「こんにちは、綺麗なお嬢さん」


 俺が挨拶を返すと、白い少女は微笑み、くるくるとステップを踏みながら俺の隣に腰掛けた。


「うふふ、お兄さん。あなた、どうして左手に首を抱えているの? 大切な人なの? それがあなたの神様なの? それなら大変。保存用の魔法をかけていないのは、とても可哀そうだわ」


 言われて俺は、ルミスが汚れていることに気づいた。


「そんな魔法あるんだ。俺は魔法なんて使えないから……ルミス、ごめんよ」


『ううん、いいのバアル。私、魔法なんかなくても、このままで幸せよ』


「ふふ、嬉しいよルミス。ありがとう、俺も幸せだよ」


 俺がルミスと会話していると、白髪の少女は驚いた顔でこちらを見ていた。

 あぁ、またやっちまった。距離、とられるかなぁ……


「うふふ、その子、ルミスさんっていうの? あなたの、とても大切な人なのね?」


 驚いた。

 どうやらこの子は、独り言をいう俺を気持ち悪く思わないようだ。

 それどころか、歩み寄ろうとさえしてくれる。

 この子とは気が合いそうだ。流石王都。来てよかった。


「あぁ、ルミスは俺の婚約者フィアンセなんだ。結婚する予定だったんだよ……だけど、結婚式の日に死んでしまって……だから、俺はこの子を生き返らせるんだ。そのために王都に来たんだよ」


『ありがとう、バアル。無理しないでね。私はあなたが少し心配。でも、生き返らせてくれると嬉しいな。バアルと手をつないで歩きたいな』


「あぁ、待っててくれルミス。必ずお前を生き返らせる方法を見つけてやる!」


 俺とルミスが話していると、少女から声がかかる。


「うふふ、あなた、運がいいわね。すっごくいいわ。私、人を生き返らせる方法を知っているの」


 それは、またしても俺の心臓を跳ねさせた。

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