26 受付嬢の証言

 お久しぶりです、先輩と飲むなんて何年ぶりでしょうか。今日は王都にご招待頂き、本当にありがとうございます。


 ……くすくす、冗談冗談。でも、あんたが先輩なのは事実じゃない。あぁ、ごめんってば。若い若い、十分あんたは若いって。歳は変わらないんだし、そんなに落ち込まないでよ。

 それにしても、王都っていいなぁ。ほんとオルゴンとは大違い。道は綺麗だし、食べ物は美味しいし、みんな着てる服は可愛いし。


 ……ちょっと、どういう意味よ。一応、オルゴンの組合では一番人気の受付嬢なのよ? 私だって綺麗な服を着たら、もっと可愛くなるわよ。


 ……はいはい、別にいいわよ。それであんたは? 王都では何番目なの?


 ……嘘……やっぱり都会は凄いなぁ……やっぱり私はオルゴンの受付嬢でいいかも。私はね、一番がいいの。


 ……確かにねぇ……やっぱり稼ぎが違うわよねぇ。こっちにいるのは一番上がBランクよ。あ、今はCランクか……それで? そう言うソフィアは良い人いたの?


 ……えぇ!? Aランク!? 凄いじゃない! 玉の輿よ、玉の輿! いいなぁ、やっぱり私も王都で働きたいかも。


 ……ぷっ、何よそれ。丸っきり相手にされてないじゃない。……はいはい、それじゃその人、そもそも女に興味が無いんじゃないの? もしかしたら男が好きとか。


 ……流石に違う? それじゃぁ、えぇっと、小さい子にしか興味がないとか。


 ……ぷっ、ぷぷぷっ、冗談よ。本気にしないでよ。あぁ、ほんとにあんたは面白いんだから。えぇ、応援してるわよ。でも王都って言ったら、やっぱりあの方でしょ、アフラシア王国最強の……


 ……そうそう……へぇ、意外……いい人なんだ。いやね、Sランク冒険者って、強いけど独特な人が多いじゃない?


 ……でしょ? だから私も、旦那にするならAランクの人がいいって思うのよ。でも、彼が優しい人なら、一回お近づきになりたいなぁ……それで? 他のSランク冒険者ってどんな人なの?


 ……へぇ……ふむふむ……


 ……本当? 凄いわね……




 …………ねぇ、最近よく聞くあの名前が出ないってことは、やっぱりあのパーティーは曰く付きなの?


 ……ほら、お貴族様の……そうそう……


 ……そうなの? いや、私はてっきり……だってまだ子供でしょ? それに、こっちに流れてくる噂は全部、とても信じられるものじゃないもの。大した実力もないのに、その権力で無理矢理Sランクに上がった面倒な貴族様なのだとばっかり──


 ──ちょ、ちょっと、どうしたの? ……や、止めてよ、みんな見てるわ……落ち着いてよ! 分かった、分かったから静かにしてよ!


 ……ど、どうしたのソフィア、ちょっと怖いわよ……?


 ……反省してる、反省してるわよ。


 ……えぇ? 何よそれ……わ、分かったら、頼むから落ち着いてよ。……えぇっと、私、クロエは、とんでもなく不敬な発言をしてしまいました。永遠に反省いたしますので、どうかお許しください。


 ……はぁ、これでいい? やっぱりお貴族様とのお付き合いは大変なのねぇ……あれ? あんた、そんなペンダントつけてたっけ? なんか少し気味が……


 ……はいはい、まぁ人の趣味には口出ししないけどさ。あら? その爪の模様は可愛いじゃない。……へぇ、王都ではそんなの流行ってるんだ。ねぇ、今からそのお店に連れていってよ。


 ……えぇ……なら早くその話を終わらせてよ。何が聞きたいの?


 ………………あぁ、それ……まぁそうだよね。わざわざ本部のあんたが私を呼び出すんだもの。そんなことだとは思ってたわよ。それで? あの男の何が聞きたいの? あの男を冒険者登録したのは私だから、ある程度のことは答えられるけど。


 ……そう、私なのよ。もう最悪よほんと。あいつが来た時、その見た目も勿論ひどかったけど、一番ひどいのは臭いだったわ。ほんと鼻が曲がるかと思った。でも一応受付嬢って立場だから、鼻をつまむこともできないじゃない? ……えぇっと、なんていうのかな、何かが腐った臭い? よく分からないけど、とにかく生理的に受け付けなかったわね……あぁ、そういえば後で他の冒険者の人が、”死の臭い”って言っていたわ。血……とか、臓物……とか? 私にはよく分からないけど、とにかく臭くて、その日はなんにも食べられなかったのを覚えているわ。


 ……そうね、一言でいうと、完全にぶっ壊れた男ね。……だってそうでしょ? 生首をずっと抱いているのよ? ずっと一人で喋ってるのよ? どんな理由があっても、まともじゃないわよ。


 ……多分、女性の首だったわ。本物……だと思う……あいつは、あの生首が生きてると思ってるのよ。町中で生首の口にご飯を突っ込んでるのを、他の人が見たって言ってたわ。それどころか、あの腐った生首とキスもしてたんだって……唇なんてもうぐちゃぐちゃなのによくやるわよ……。あいつの人形遊びに付き合ってると、こっちまで頭がおかしくなるわ……


 ……そうね……私が感じただけだから、あまり気にしないでほしいけど、あの生首、本当に死んでるのかなって。……気持ち悪くなるから、あんまり思い出したくないけど、あいつを見てると、本当にあの生首が話してるように思えてきて……


 ……笑わないでよ、本当にこっちまで頭がおかしくなりそうなのよ。あの男がぶつぶつ一人で話してて……本当に忘れたいんだから、あまり思い出させないで。お願い……


 ……勿論、自警団には連絡したわよ。経緯は分からないけど、あの女性の死に深く関わっているはずだもの。でも、あいつを詰問しにいった人たちは戻ってこなかった……彼らだけじゃないわ。あいつと一緒に依頼を受けた人達も……


 ……えぇ、間違いなくそうよ。だって、あいつ、独り言で言ってたの。ぶつぶつと喋ってた……完全に自供してたわよ……


 ……そ、そんなことしたら、今度は私が殺されるじゃない!!


 ……する、間違いなくすると思うわ! 実際私は何回か殺されかけてるのよ!? 多分あいつ、相当人を殺してるわよ……。


 ……体格は2メートルぐらい……えぇ、大きいのよ、とんでもなく。それで、威圧感っていうのかな。戦いなんてしたことのない私でも、ビリビリときたわ。さっき私が言った、戻ってこなかった冒険者って、Bランクの人達なのよ。あいつは、Bランクパーティーを皆殺しにできるのよ……元聖教会の関係者かも。異端者タバサのことを同志って呼んでたの……


 ……いやいや、オルゴンで一番強い冒険者がBランクだったのよ? 自警団も全滅だし、もうあの町では完全に諦めてるって。触らぬ神に祟りなしってことよ。……いやいや、本部に何度も応援要請してるわよ。どうせ本部様はお忙しくて検討もしてないんでしょ。


 ……確か、コリン村って言ってたっけ……そう、あのカルト集団よ。みんな言ってたわ。あの怪しげな村人たちが、ついに悪魔を召喚したって。あいつがオルゴンに来たあたりから、コリン村と連絡がとれなくなったの。もしかしたら、コリン村は悪魔に滅ぼされたんじゃないの……?


 ……えぇっと、あいつは生首の女性を生き返らせたいらしいわ。……ねぇ、そんなの無理なのにね。……え? 嘘でしょ? ……ホント? へぇ、そんな噂があるんだ。よし、じゃぁあいつにその情報を教えてあげようかな。……そりゃ当然でしょ。だって、一刻も早くあいつにはオルゴンからいなくなってほしいんだもの。


 それじゃ、後は王都の冒険者組合であいつの世話をお願いしますね、ソフィア先輩。



★★後書き★★

以上で、二章完結となります。

お読みいただき、本当にありがとうございました。

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引き続き、王都に旅立ったバアルとルミスを見守っていただけましたら幸いです。

★★★★★★

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