24 愛欲

「きゃぁぁぁぁああ!?」


 足を踏み潰された同志タバサは、金切り声をあげる。


「な、なにすんのよぉぉぉ! 話が違うわよぉ!!」


 足を引きずり、俺から距離を取ろうとするが、この狭い地下室だ。逃げられるわけがない。


「ウォフってやつは、可能なら生き返らせるよ。でも同志タバサ、君は嘘をついた。君が持ってた神薬は嘘だった。嘘つきは許せない」


 俺は思い切り、タバサの服を剥ぐ。


「きゃぁぁぁぁ! 止めてぇぇぇぇ!!」


「き、きひひ、そうこなくちゃ! いいぜぇバアル! ここはひとつ、楽しもうぜぇ!?」


「へ、ヘドロ、あんたまでっ! このストーカー野郎! 地獄へ落ちろ!」


「きひ! 喚け喚け! ストーカー野郎大いに結構! おいらはお前みたいな負けん気の強い女を、ボロボロに犯し尽くすのが最高の楽しみなんだよぅ!」


 良かった。ヘドロも楽しそうだ。

 やっぱりこれは、みんな楽しいことなんだな。


 俺がヘドロを見ていると、ヘドロは親指を立てながら笑う。


「きひ、バアル、まずはバアルからでいいよぉ。おいらはその後、楽しむとするからよぅ」


「いいの? ヘドロは同志タバサと、少なからず因縁がありそうだけど」


「きひ、いいってことよぅ。こういうのは、強い奴が先って決まってるんだ」


 ヘドロはタバサを組み伏せ、タバサの尻をこちらに向けてくる。


「ヘドロ、俺、正直お前のこと、気持ち悪いと思ってた」


「きひひ、そんなの慣れてるよ。おいらは気にしてないぜぇ、バアル」


「だけど、今は凄い、仲間って感じがする。友達だ。俺達、いいパーティーになれるかもな」


「きひ、そいつは嬉しいぜぇ。下の趣味が合う仲間は貴重だからなぁ。おいら達、いいパーティーになれると思うよぅ」


 俺とヘドロが話し込んでいる間、同志タバサは抵抗し続けていた。

 だけど、魔法を使えない魔法使いはただの人。足を潰されたタバサは、それ以下だ。

 ゼロ距離となり詠唱の時間が全く確保できないタバサは、抵抗虚しく、ヘドロの拘束から抜け出せないでいた。


「や、止めなさい糞外道共! 神様が、スプンタ様が見てるんだから! あんた達、本当に地獄へ落ちるんだから!」


 同志タバサは、何か救いを求めるかのように、部屋の十字架を見つめていた。

 俺はその十字架を、根本からへし折り肩に担ぐ。

 自分の信じるものを折られたタバサの目からは、涙があふれ出ている。


「ひひ、いいぜぇバアル! 流石だぜぇ! さぁ、そろそろタバサに突っ込むとしようぜぇ!」


「止めて止めて止めて! スプンタ様ぁぁぁ!! 助けてぇぇぇ!!」


 ふふ、いいな、楽しいな。

 俺は、手に持った十字架を、同志タバサの尻の穴に思いっきり突き刺した。


「がびゅぃ!?」


 同志タバサは一瞬変な声を上げたが、それからはもう静かになった。

 あ、ちょっと力を入れ過ぎたか。

 尻に突き刺した十字架は、タバサの口から出てきて地面に突き刺さっている。

 それはさながら墓標のようで、神様を信じていたタバサのことだ。幸せな死に方だったんじゃないだろうか。


「た、タバサ……? ぇ?」


 ヘドロは狼狽していた。

 それもそうだ。俺はヘドロに謝罪をする。


「ご、ごめんヘドロ。つい、力が入っちゃって、一回で終わっちゃった」


 俺はヘドロの楽しみを奪ってしまった。

 ヘドロは余程楽しみにしていたのか、涙まで流している。


「う、嘘だろう、タバサぁ……まじかよぉ」


 ……どうしよう、罪悪感が凄い。

 そ、そりゃそうだよな。普通、こういうのって代わりばんこにするよな。コリン村の奴らもそうしてたし……それが、俺の一回で終わっちゃったんだ。そりゃぁ辛いよな。


 俺がヘドロにかける言葉を探していると、ヘドロは泣きながら訴える。


「バアルぅ、おいら、タバサのこと、少しだけ、少しだけだけど、好き、だったんだぜぇ」


 おぉい、まじかよ。あれが好きな子への言動かよ。

 ヘドロ、お前、言っちゃ悪いけど狂ってるよ。

 そりゃ俺も昔、ルミスに悪口を言ったりする時もあったよ。

 だけど、それは本当にずっと昔の話だ。子供の頃の話だぜ?

 大人になったら、そんなの嫌われるだけって分かるだろ?

 子供かよ、大きい子供かよ。

 いや、ヘドロは小さいか。小さい子供かよ。普通じゃねえか。

 いやいや、ヘドロ、お前、見た目で勝手に40歳ぐらいだと思ってたけど、実はかなり年下なのか? 実は子供か?


 俺が混乱していると、ルミスからフォローが入る。


『ね、ねぇバアル。ヘドロさん、可哀そう。なんとかならないかな?』


 おぉい、まじかよルミス。お前、本当に天使かよ。

 こんなに気持ち悪い拗らせ男が可哀そうとか、お前はどこまで優しいんだよ。

 いいよ、ルミスが望むなら、俺がなんとかするよ。

 俺が、ヘドロをなんとかしてやるよ。


 俺は地面に突き刺さった十字架ごと、タバサの首を断ち切った。

 そして、タバサの首をヘドロに渡す。


「ほらよヘドロ、好きなんだったら、大事にしろよ。同志タバサも言っていただろ。首があるから、お前は幸せだ」


 ヘドロは大人しく首を受け取る。

 だけど、その顔はまだ少し寂しそうだ。


「ヘドロ、これは俺達の友情の証だ。お前も、もし同志タバサへの愛が本物だったら、魂の声が聞こえてくるかもしれない。実は、俺はルミスから魂の声が聞こえてるんだ。信じてくれ」


「い、いや、流石にそれは……魂の声って言われても……それにバアルのは──」


「──信じろ! ヘドロ!! タバサの声は聞こえてくる! わけわかんないかもしれないけど、信じてくれよ!」


「あ、あぁ……分かったよバアル……」


 俺が殺気を含ませながら大声を出したことにより、ヘドロは無理やり納得したようだった。

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