22 魔女2

 俺のお願いは、魔女ににべもなく断れた。

 とりあえず殺そうと、剣を鞘から出しているとヘドロが声を荒げる。


「ま、待ちなよバアル! タバサを殺しちまうと、神薬の在処が分かんなくなっちまうよぅ!」


 殺した後に探せば見つかりそうだが、ヘドロが少し必死なんで、俺も躊躇してしまう。


「タバサっ! さっさと神薬をよこせよぅ! じゃないとお前、まじで死んじまうぜぇ!?」


「はぁ? あんた何様? そこらの魔族に私が負けると思ってんの? 私を誰だと思ってんの?」


 魔女は余裕の表情だ。

 大柄な俺を見てもその態度ってことは、よっぽど自分の力に自信があるんだろう。


「お前こそ、この兄さんを誰だと思ってんだぁ!? バアルはな、あの”華麗なる翼”やオルゴン自警団を、一人で全滅させたんだぞ!?」


 ヘドロの言葉に、魔女は驚いたようだった。

 でも、魔女よりも俺のほうが驚いた。


『なんでだろ? バアル、あんなに頑張ったのに、メイケンさん達を殺したことバレてるよ?』


「なんでだ!? なんで俺がやったってバレてる!?」


『早く、バアル、早く殺さないと。首を落とさないと』


「そ、そうだ! とりあえず早く殺さないと!」


 まずい。これはまずい。

 俺がメイケン達を殺したことを、なぜかヘドロは知っている。

 つまり、俺は悪いことをしたってことだ。


 幸い、今ここにいるのは二人だけだ。

 今回は簡単に罪が晴れそうだと、剣を抜こうとしたらヘドロからストップがかかる。


「ちょちょ、ちょっと待てバアル! おいらはあんたのパーティーだ! だから、おいらが知ってても、バアルにはなんの不都合もないんだ! つまり、バアルはバレてない! バレてないから、おいらを殺す必要がないんだ!」


 うん? よく分かんないけどそうなのか?

 俺が必死に考えていると、魔女がぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。


「ヘドロ! あんた、よくもこんな気狂いを連れてきたわね! 悪魔召喚でもしたの!?」


「きひひ、タバサ、さっさと神薬を出さないと、お前さんもあれみたいに生首になっちまうぜぇ?」


「っ! そんな奴を利用しようとしても、いつかあんたが殺されるだけよ!」


「きひ、どうせおいらの人生なんて、糞みたいなもんだ。いつ死んでも問題ねぇ。だったら、太く短くだ。おぉっと心配すんなよぉ? おいらのは、太くて長いぜぇ?」


「この……気狂いどもがっ!」


 ……ヘドロと魔女の二人で会話が進んでいる。なんだか少し寂しい。

 だが俺は、一つだけどうしても確認したいことがあった。


「あの……タバサさん……」


 だから、俺は会話にはいり魔女に質問する。


「死者を生き返らせる薬って、本当にあるんですか? あまり、あなたが優れた魔法使いには見えないんですけど……」


 これは俺の純粋な疑問だった。

 だけど、魔女にとっては大きくプライドを傷つけられたようで、憤慨しているようだ。


「わ、私が優れた魔法使いに見えない……? こ、この、誰に向かって! 私はタバサ! 聖教会の序列9位よ! 私に、よくそんな口を聞けたわね!」


「ひひ、序列9位だろ? 知ってるぜぇ? 今の教会とは、タバサは無関係なんだろぉ? それにずっと引き籠って、体が壊れる寸前じゃないかぁ? とても強いようには見えないぜぇ」


 俺には良く分からないけど、ヘドロの言葉は、更に魔女を怒らせたようだった。

 魔女は俯いてぶつぶつと独り言を言っている。

 もしかして俺の同志かな?

 そんなことを考えていると、いきなり魔女が大声を上げた。


敵穿つ雷槍ライトニング・ジャベリン!」


 雷の魔法がヘドロを襲う。

 魔法の直撃を受けたヘドロは吹っ飛び、頭から血が出ていた。


「ば、バアル……少しは、守ってくれても……いいんじゃぁ……」


 ヘドロは俺に文句を言うが、そんな決まり事はなかったはずだ。

 俺が首を傾げていると、ヘドロが言葉を付け足す。


「おいら達……パーティーだろう……?」


 そうか、パーティーは助けないといけないのか。

 少しだけ罰が悪くなった俺は、ヘドロを励ますことにした。


「大丈夫だよヘドロ。俺は今まで色んなやつを殺してきた。だから分かる。その程度の傷じゃまだ死なない」


 安心させるために言葉だったが、ヘドロにはあまり響かなかったようだ。

 ヘドロのことはどうでもいいとして、俺は魔女に向き直る。


「凄い魔法ですね! 本当に魔法使いなんだ! 凄い! 凄い!」


 お世辞ではない、完全な本音だった。

 さっきまでは敵意丸出しの魔女だったが、急に照れて機嫌が良くなったようだ。


「そ、そう? そんな凄かった? ふ、ふふん! そうでしょ? 凄いでしょ?」


 こいつ、もしかしてチョロいのか?

 俺はこの流れに任せて、探りをいれてみることにする。


「そんなに凄い魔法使いなら、死者を復活させる薬を作ったって噂も、本当なんですか?」


 口が羽よりも軽くなった魔女は、軽快に答えてくれる。


「ふふん! 勿論よ! ほら、これを見なさい! これが”復活の神薬”よ!」


 魔女は懐から羊皮紙を取り出すと、それを掲げた。


「それが……”復活の神薬”……?」


 神薬というから、ポーションのような液状の見た目をしていると思っていた。

 しかし、魔女が掲げているのは、変な模様が描かれた紙切れだった。


「よく聞くといいわ! これはね、聖教会序列一位のウォフ様を復活させるために、私が開発したものよ! これさえあれば、死者は蘇るわ! 災いの大悪魔の技術を流用したことは癪だけど……それでも、背に腹は代えられないからね!」


 何を言っているかは分からないけど、とにかくあれだ。

 あの紙が、ルミスを復活させるものなんだ。


 俺は何の迷いもなく、魔女に向かって駆け出した。

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