20 休日

 カーテンは閉めているが安物のためか、日の光が部屋に入り込み朝を告げる。

 小さな鳥と思われる、可愛い鳴き声が遠くから聞こえてくる。

 うっすらと目を開ければ生首最愛の人と目が合う。


「おはよう、ルミス」


『おはよう、バアル』


 …………そうか、これが幸せか。

 寝て、起きて、それだけで死ぬほどの幸福感に満たされる。


『えへへ……なにそれ、死んでるのは私のほうだよう』


 俺達は、同じベッドで寝ることにした。

 というのも、ベッドが一つしか用意されていなかったんだ。

 俺は心の中で店主に称賛を送り、仕方ないからとルミスと一緒に寝ることにした。


 それは、とんでもなく甘い夜だった。

 お互いの好きなところを言い合った。

 お互いの気持ちを確認しあった。

 あまりにもキリがないので、お互いの嫌なところを言い合うことにした。

 それだと、何一つ出てこなかったため、可笑しくて笑ってしまった。

 何をしたら嫌かと聞けば、何をしても好きだと言ってくれた。


 そこから、言葉はいらなかった。

 俺達は一晩中キスをした。

 ルミスの唇は柔らかかった。

 地下室で一度だけしたことがあるけど、その時よりも、何倍も、何十倍も、ルミスの唇は柔らかかった。気持ち良かった。嬉しかった。

 その時間は永遠にも感じられたけど、今となっては一瞬のようにも感じられる。


『バアル、今日は何する?』


 幸せに浸っていると、ルミスから声がかかる。


「デート、しようか」


 せっかくの休日だ。

 オルゴンの町を満喫するとしよう。


 ◇


『んーふー(美味しい)!』


 満喫と行っても、オルゴンはそこまで栄えているわけではない。

 なので、俺達が楽しめるのは、その辺の屋台で買ったものを食べ歩くぐらいのことだった。


『すっごく美味しいよ! こんなの初めて!』


 正直、味だけなら爺ちゃんの飯のほうが旨いかもしれない。

 でも、買った料理には全て、極上のスパイスがかかっている。


『えへへ、ほら、バアル、早く早くぅ。あーん』


 愛である。


 以前は、俺がルミスから食べさせてもらっていた。

 今は逆で、俺がルミスの口に料理を運ぶ。


 どう考えてもカップルで、どう考えても幸せです。本当にありがとうございました。

 嬉しくて笑っている俺を、ルミスが見上げてくる。

 ルミスの口には、肉が刺さった串が咥えられていた。


 こ……これは……まさか……


 ルミスが期待している目で俺を見ている。

 こ、こんな街中で……? えぇい、ままよ!


 ルミスの期待に応えるため、俺は反対側から串を咥える。

 串ごと肉を食べて、必然ルミスの唇に近づいていく。

 そうして、俺たちは人前だというのにキスをすることになった。

 当然、周りからの視線を強く感じる。


 ごめんみんな、でも幸せなんだ、許してくれ!


 名残惜しいが唇を離し、次に何をするか考える。

 流石にもう食べられないからな。


「よぉ兄さん。今、いいかい?」


 そんな俺達に声がかかる。

 見れば、いつの間にか目の前に、背の低い小汚い恰好の男が立っていた。


 なんだこいつ? 俺達はデート中なのに。

 見て分かんないのかな? 殺した方がいいのかな。


『バアル、流石にこんなとこで殺すと、後始末が面倒じゃない?』


「確かに……殺すにしても、もっと人目のつかない場所だね」


 俺の呟きに、その男は少し狼狽する。

 その男の顔は、その恰好よりも更に汚いものだった。醜いといってもいいだろう。


「きひひ、あ、あんた、噂通りなんだなぁ……だったら、その力も、噂通りと思っていいのかいぃ?」


 目で分かる。

 俺の事を、とんでもなく気持ち悪いやつと思ってるやつの目だ。

 でも、俺もこいつのことを気持ち悪いと思ってるから、お互い様か。


「よく分からないけど、俺は強いよ」


「きひ、兄さん、自信家だなぁ。ど、どれぐらい強いんだい?」


「少なくとも、Bランク冒険者には負けないな」


『自警団が束になっても、余裕だったね!』


「ふふ、そうだねルミス。百人同時に来ても、俺の雷で一発だ」


 俺の答えに、その男は少し驚いたようだったが、その後すぐに笑みを作る。


「き、きひ……きひひ。だったら兄さん、おいらと手を組まないかい? おいらの名前はヘドロ。パートナーにしてくれよぉ」


 パートナー? 俺のパートナーはルミスだけだ。

 こいつ、やっぱり殺そうかな。


「兄さんはその力を発揮してくれたらいい。きひ、おいらは、兄さんに有益な情報をもってくるさぁ」


 正直、俺は最初、ヘドロというその男をどこで殺すかを考えていた。

 だけど、ヘドロは本当に有益な情報を持っていたんだ。


「兄さん、その左手に抱えている……人間……多分……女……だろぉ? そいつを生き返らせたいんだろぉ? お、おいら、知ってるぜ。死人を生き返らせる方法、知ってるぜぇ」

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