17 報告

「只今戻ってきました。これ、討伐の証です」


 俺はサラマンダーの大きな首を組合の受付に置いて、クロエに告げる。

 クロエは今日も生理なのか、顔を歪ませていた。


「……確かにサラマンダーの首です……が、そのままここに持ってきます……? 受付に持ってくるのは証明書だけで結構です。いえ……一度に多くのご説明をしたので、覚えきれないとは思いますが……それでもメイケンさんにご指摘されなかったんですか? ……そういえば、メイケンさん達の姿が見えませんが」


 やっぱりクロエはメイケンとは特別な関係なのかな?

 労いの言葉は無く、先にそんなことを聞いてくる。

 少しだけ苛ついた俺は、少し言葉に棘を持たせて答えた。


「あぁ、彼らは死にましたよ。彼らには少し分不相応だったようで……まぁ、俺も助けようとはしたんですが」


 クロエは絶句していた。

 あぁ、やっぱり彼氏か。

 流石に彼氏が死んだら、辛いよな。


 俺が同情していると、ルミスがからかってくる。


『あはは、バアルが助けようとしたのは自分自身じゃん。あれだけぐちゃぐちゃにしといて、よく言うよね』


「し、仕方ないだろ!? 俺だってメイケンには悪いことをしたと、少しは思って──」


 ──そこで、クロエと話している最中だったんだと思い出した。

 クロエ見れば、先ほどよりも更に青い顔でこちらを見ている。

 まずい……ばれたか?


『ばれたんじゃないかな? 殺したほうがいいんじゃない?』


「い、いや、でも……確証もないのに殺すのは……」


『いやいや、それで無罪になるなら安いもんじゃない。もしかしてバアル、クロエさんのこと……気になってたり?』


「そ、そんなことないよ! 俺にはルミスだけだよ! 本当に、本当にルミスだけを愛しているんだよ!」


『……えへへ、嬉しい。ごめんねバアル。私、ちょっとやきもちしちゃったかも。私、バアルが生き返らせてくれるの、楽しみにしてるね。私も早く、普通にバアルと話したいなぁ』


 なにこれ可愛い。可愛い可愛い。ルミス可愛いよ。

 あぁ、チューしたい。していいかな?

 いや、今は人前だ。そうだ、クロエさんと話してたんだ。


 見れば、クロエさんは下を向き、体が震えている。

 そんなにしんどいなら休めばいいのに……っと、それよりも、バレたかどうか少し探ってみるか。


「その、メイケンさん達は魔物にやられてしまったんですけど……勿論、俺が殺したとか、そんなことはないですけど……信じてもらえますか?」


 人の気持ちに鈍感な俺は、クロエさんの心情をなんとか探り取ろうと、受付から身を乗り出して顔を覗き込む。


「ひっ! は、はい! 勿論信じます……よくあることです……冒険者ですから、メイケンさんたちも覚悟はできていたかと……わ、私は、バルタザール様のことを信じていますから!」


 ふぅ、どうやらバレてないようだ。

 クロエさんを殺さなくて良かった。

 流石にクロエさんを殺すとなると、組合の皆に見られるからな。

 それだと、組合の冒険者を皆殺しにしないといけないから、なかなか手間がかかるし。


『ちぇっ、バレてると思ったんだけどなぁ』


 ルミス……やっぱりクロエさん殺したいのかな。

 嬉しいな。可愛いな。

 俺の愛は永遠なのに、他の女に嫉妬しちゃうなんて。



 それから俺は、色々な依頼を受けた。

 ルミスに選んでもらった依頼は、そのほとんどがFランクの俺では受けることができないものばかりだった。

 だけど、クロエさんは多少なりとも俺に好感を抱いているのか、規則を無視してその依頼を受けさせてくれた。

 クロエさんが俺を優遇するたびに、ルミスが『殺しちゃおうよ』と誘ってくるが、それはルミスの愛だと思うので、俺は幸せだった。


 冒険者になってから、数えきれない程の依頼を受けた。

 ルミスを生き返らせるための具体的な方法を持っていなかった俺は、とにかく冒険者ランクを上げたら何かが変わると、漠然と思っていたんだ。

 実際、高ランク冒険者には重要な情報がよく入ってくるので、この考えは間違いではないはずだ。

 不眠不休で依頼を受け続けていた俺のランクは、いつの間にかCランクまで上がっていた。

 かなり早いペースだったんだろう。俺が組合に行くと、いつも周りの冒険者達は俺に注目していた。尊敬……とか羨望……とか、そんな感じで見てくれていたら嬉しいな。


 それでも、Bランクにはなかなか上がることができなかった。

 Cランクまでなら、それなりの実力者ならすぐに上がるが、そこから先は試験などもあり簡単には上がらないそうだ。


「指名依頼……? 俺に?」


 少し悩んでいた俺に、クロエさんから話が持ち掛けられた。


「はい、是非バルタザール様に受けていただきたくて。この依頼が達成すると、Bランクに上がるらしいですよ」


 ありがたい話だった。

 本当にクロエさんは俺に融通してくれる。

 やっぱり強い人が好きなのか?

 前までは、オルゴンの町で一番強いやつはメイケンだったけど、今は俺だ。

 もしかして、俺の事が好きになっちゃったのか?


『バアル、やっぱりこの子殺そう?』


「ちょ、ちょっと待ってよルミス。……あ、ありがとうクロエさん。その依頼、絶対に達成してみせるよ!」



 俺は二つ返事で依頼を受け、直ぐに出発することにした。

 依頼といっても、Bランクに上がる試験に等しいだろう。

 俺は少し緊張していたが、依頼の内容を聞くと拍子抜けすることになる。


「えっと……バルタザールといいます。こっちの子がルミスです。よろしくお願いします」


 依頼内容は、以前サラマンダーを討伐した山脈の調査である。

 今更サラマンダーが出てきても負ける要素は無いので、まず間違いなくこの依頼は達成できるだろう。


 俺一人でも余裕で達成できる内容だけど、別途調査隊として5人の男も同伴することになった。


「………………」


 友達になれるかもと思ったけど、俺の挨拶は全員に無視される。

 ……ま、まぁ友達は月に一人でいいか。

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