14 悪魔の理論

「団長ぉぉぉぉぉ!!」

「貴様ぁぁ、何をぉぉぉぉ!?」


 自警団の奴らが、剣を抜き俺に走りかかってくる。

 邪魔だ、俺はまだ調べたいことがあるんだ。


 俺は雷鉄剣スサノオの刀身を少しだけ鞘から出す。


「力を貸せ雷鉄剣スサノオォ! 奴らを俺に近づけさせるなぁ!」


 紫電が俺と太っちょの周囲を包む。

 それだけで、自警団の足止めはできた。

 それでも無理やり近づこうとした奴は、雷に打たれ気を失っている。


『バアル、このおじさんの言っていることは、嘘だったの?』


「あぁ、嘘だ。間違いなく嘘つきだよ。見てろよルミス」


 俺は手に持っていた肉片を捨て、太っちょを無理やり仰向けにする。


「ごほっ!? お、お前ざん、なにをっ!?」


「黙れ。嘘つきは喋ることが罪だ」


 ──ぐちょ、ぐちょ、ぐちょ


「あがぁぁぁ……がぁぁ……」


 太っちょは最初は叫んでいたが、すぐに言葉を発さなくなった。

 俺は、腹から色々なものを取り出していく。

 大半はブヨブヨした赤い肉。

 肉が無くなれば、ズルズルと内臓を引きずり出す。

 これは……なんだ? これが、知識か? いや、違う。これは太っちょの晩飯だ。


「ほらなルミス、知識なんてどこにも無かったろ? こいつが言ってたのは全部でたらめさ。ルミスを生き返らせる方法は、あるんだよ」


『本当ねバアル、このおじさんは嘘つきだったわ。なんであんな嘘をつくの? 私たちを悲しませて、楽しいの?』


「なんでだろうねルミス、許せないよね。人間たちはいつもそうだ。俺達を傷つけて楽しんで。だから、今度は俺達が楽しんでやらなくちゃ」


 頭にきた俺は、自警団の首を一人一人落としていく。


 ──スパッ、スパッ──


 落とす。落とす。人間の首を落とす。


 ──スパッ、スパッ──


 何かを忘れるように。

 何かを上書きするように。


 ──スパッ、スパッ──


 すぐに、自警団はみんな死体となった。

 力の差がありすぎたのか、要した時間は10秒にも満たない。


 全員の首を落とし、尻の穴に何かをぶち込もうとしたとこで、待ったがかかる。


「ば、バルタザール! お、お前は何をしているんだ……っ!?」


 あぁ、メイケンか。そういえばいたな。

 どうしたんだ? なんでそんなに息を切らしてるんだ?


「何って、楽しんでるんだよ。今からこいつを突っ込まないと、なっ!」


 俺が首の無い太っちょの尻に、自警団が持っていた槍を突き刺すと、メイケンが怒声を上げる。


「止めろバルタザール! お、お前、そんなことをして……人を殺して許されると思っているのか!?」


「メイケン! 見てわかるでしょ! こいつには会話が通じない!」

「えぇ、そうよ! 早く殺し……いえ、討伐しましょう!」


 美女AとBまで喚きだした。

 えぇい、うるさい。俺は友達メイケンと話してるのに。


「なんだよメイケン。こいつらは嘘をついたんだよ? 殺されても当然じゃないか。なんでそんなに怒ってるんだよ」


「嘘? 嘘をついたら殺すのか? そんなの、許されるわけないだろうが!」


 え? そうなの?


「許されないって……誰に許されないんだよ」


「誰にでもだ! 人にも、神様にも、世界にも! お前は絶対に許されない。しかるべき罰を受けろ!」


 人? 人に許されないとどうなるんだ? 別に問題はなさそうだ。

 神様? 神様なら、俺の行いを楽しんでるじゃないか。何も問題はなさそうだ。

 世界? また世界か。だから、俺はこんな世界に復讐しないといけないんだ。


 俺が全く意に介していないと思ったメイケンは、更に言葉をかぶせる。


「人殺しが、この世界で真っ当に生きていると思うな! お前のような犯罪者は、こそこそと生きていくだけで精一杯だ! その子を蘇らせるなんて、夢のまた夢だろうよ!」


 ルミスを指さすメイケンの言葉は、俺に不安を抱かせた。


 確かにルミスを生き返らせるなら、広く方法を募るべきだ。

 人殺しが一般的に受け入れられないのなら、俺が今とった行動はアウトだったのかもしれない。

 やばい? やばいかもしれない。

 どうする? どうしよう、どうしたらいいんだ。


『バアル、安心して、大丈夫よ』


 ルミス? 大丈夫なの?

 メイケンが怖いんだ。俺が罰を受けるべきだって。

 俺って、そんなに悪いことをしたのかな。


『大丈夫、大丈夫よバアル。よく思い出してみて。コリン村であなたは村人を鏖殺おうさつしたけど、何の罪にも咎められなかったじゃない』


 確かに。確かにそうだ。

 なんでだ? なんで今はメイケンにこんなに糾弾されてるんだ?


『簡単なことよバアル。コリン村と、今とでは、明確な違いがあるじゃない』


 明確な違い? なんだ? なんだなんだ?

 あ…………もしかして……


『えぇ、そうよ。コリン村でバアルはいっぱい人を殺したけど、誰にも見られてないじゃない』


 そうだ。

 俺はコリン村の人を、文字通り皆殺しにした。

 爺ちゃんすらも殺したんだ。

 だから、誰も俺が人を殺したって知らないんだ。


『正解よバアル。つまりね、人を殺すのは悪いことではないの。人を殺すところを、見られることが悪いことなのよ』


 納得だ。

 俺は雷鉄剣スサノオを構え、メイケンを睨む。

 メイケン達が息を呑むのが分かった。


「ば、バルタザール……お前……本気か? こんなことをしといて、その上、更に罪を重ねるつもりか?」


「何を言ってるんだよメイケン。俺はまだ、悪いことは何もしていないよ。何も罪を犯していないよ」


 メイケン達が構える。

 流石はBランクパーティー、”華麗なる翼”だ。

 隙が無い、のかな。素人の俺にはよく分からないけど、さっきの自警団とは雰囲気が違う。


「だけどねメイケン。君たちを逃がしちゃうと、俺は罪を犯したことになるんだ。だから……折角友達になったとこ悪いけど、友達のために死んでくれよ。死人に口なしって、言うだろう?」


 左手に抱えた喋る死人ルミスのことはさておき、俺は自身の無罪を勝ち取るために”華麗なる翼”と戦闘を始めた。

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