07 奇跡

 ルミスは死んだ。

 それは間違いない。

 でも、でも……


『バアル、泣かないで。私、幸せだったの。バアルがいてくれて、本当に幸せだった。だから、そんな悲しい顔をしないで』


 間違いない。

 ルミスだ。ルミスの声だ。


『私はバアルから、十分幸せを貰った。だから、今度はバアルが幸せに生きて』


 生首こんな姿になっても、優しいルミスのままだ。

 この奇跡が嬉しくて。

 ルミスを守れなかったことが悔しくて。

 俺は泣く。そして誓う。


「俺の幸せは、ルミスと一緒にいることだ。だからルミス、お前を生き返らせてみせる!」


『嬉しい……嬉しいわバアル! 私も、バアルと一緒にいたい! 一緒に生きたい!』


 ルミスが肯定してくれた。

 嬉しい。とても嬉しい。


 嬉しいけど、とりあえず今は──


「──人間に復讐するか」


 その言葉に、その場にいた村人達はビクリと震える。

 だが逃げない。逃げられない。

 腰が抜けたまま、必死に地下室から出ようともがく姿は、なんだか凄く滑稽に思えた。


 そんな顔するなよ。

 だってこれは、楽しいことなんだろ?


「ままま、まて、バルタザール!」


 何かみっともなく喚いているが、俺は自分がされてきたのと同じように、拳を振り抜く。


 ──パァァンッ!


 すると、男の顔は消し飛んだ。


「……あれ?」


 どうやら、俺の体は極端に強くなりすぎたらしい。

 増えすぎた膂力は、俺に手加減の難しさを教えた。


「……つまんねぇ、一瞬で終わっちまうのはつまんねぇな」


 少し気を付けながら、もう一人の顔を殴る。


 ──ベチョッ


 すると、男の顔が消し飛ぶとまではいかないが、その顔は粘土のように潰れていた。

 目の焦点が合っておらず、悲鳴もあげないことから、どうやら死んでしまったようだ。


「あぁ!? またかよ!? なんで人間ってのは、こんなに弱っちぃんだよ!?」


 俺は少し焦る。

 ルミスをあんな目に合わせた男達には、もっと苦痛を味合わせたかったからだ。


「直接殴ると直ぐ終わっちまう……お? これこれ」


 見つけたのは、地面に転がっていた俺を殴るための武器だ。

 武器といってもただの鉄の棒ではあるが、今の俺にはありがたい代物だった。


 ──ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ


「ぎゃああああ!!?」

「がぁぁぁぁ!!」

「いてぇぇぇぇぇ!!」


 まずは全員の足を潰す。

 これだけでこの部屋から逃げることはできないのだから、人間ってのは本当に不便な生き物だ。


 男達の悲鳴を無視して、俺は全員の服を剥ぐ。

 そして、その辺に転がっていた杭を打ち付け、両腕を固定し四つん這いにさせる。


「ああああああぁぁああ!!? いてぇぇぇ!!」


 こんな体勢になっても、こいつらは何も察せず悲鳴をあげるだけだ。

 まぁいいか。俺もルミスも、何の覚悟もできなかったんだ。

 お前らにも、そんなのいらないはずだ。ほらよ──


 ──ぶちぶちぶち


 鉄の棒を、男の尻の穴に思い切り突っ込む。


「あががごががぎぎぎぎぎ!!?」


 入れられた男が大きな悲鳴をあげたかと思えば、泡を吹きながら白目を剥き、反応が無くなった。

 慌てて確認すると、意識を失っただけのようだ。


 よし、死んでない。

 これなら、思い切り復讐できる。

 ルミスの痛みを、存分に味合わせてやる。


『バアル…………』


 俺が他の男の尻に棒を突っ込んでいると、ルミスの声が聞こえてくる。


『ありがとう、バアル。私、少し気が晴れたかも……』


 あぁ、ルミス。

 お前が受けた不条理を、俺がこいつらにも与えてやる。

 お前の痛みを、お前の恨みを、俺が全部引き受けるよ。


『ありがとう。こんなので喜ぶって、私、変な子かな……』


 そんなことないよルミス。

 ルミスは、本当にいい子だよ。

 ルミス、好きだよ。


『えへへ…………私も好きだよ、バアル』


 ルミスの顔を見れば、依然として歪んだ表情のままではあるが、少し照れているようにも見えた。


 よし、ルミスのためにも、もっともっと復讐しよう。

 俺は、左手にも鉄の棒を持ち、男達の尻の穴の開拓工事を進める。


 男たちは少し、本当に少しではあるが、痛みに慣れてきたのか、すぐに気を失うということは無くなってきた。

 代わりに、常に悲鳴を上げるものだから、少し耳障りだ。

 五月蠅いうるさい、五月蠅いうるさ五月蠅いうるさい、鬱陶しい。

 後でルミスの綺麗な声で癒されよう。


「ガギギギギ……ギギギ」

「ダズケ……ユルジデ」

「死ぬぅぅぅぅうう!! 死ぬぅぅうううう!!! 助けてぇぇぇぇぇ!!」


 男達が泣いている。苦しんでいる。


 分からない。


 分からないが、こいつらはルミス相手にあれだけ楽しそうにしていたんだ。

 これはきっと、楽しいことなんだろう。


 何年も奪われた人生の楽しみを取り戻すため、俺は血に濡れた棒でひたすら突き続ける。

 その間、なぜかルミスが言葉を発することは無かった。

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