第15話 魔王城の一日
朝から轟く爆音に飛び起きて、ベランダへ飛び出すが、周りは平和そのもの。
わけがわからないままに部屋に戻り、一応ノゾミの元へ向かえば、まだ寝ているらしい。
「ノゾミさん。朝です」
布団を被られた。
起きてるじゃないか。
「あーもう、ほら! 起きて!」
「寝てます。寝てます。寝てるってばぁ! ぐぅ!!」
「そんな寝息があるか!!」
数分の攻防の末、諦めた。
「今起きたら、きなこオレ作りますよ」
「そういうのはズルいと思います」
よし。起きた。
「それより、さっきの音なんだったんでしょう?」
「爆発狂の?」
「あ、知ってるんですね。ってことは、八柱の誰か?」
「きなこオレ」
「あーはいはい。っていうか、布団の上で飲む気ですか? 溢すからダメですよ」
「なら寝る」
「なにその選択肢!? あーもうわかりました」
持ってきたら、また布団引き剥がさないと。
キッチンへ向かえば、扉をノックする音。
「おっはよー! よく眠れたかい?」
「おはようございます。おかげさまで」
「それはよかった! 仕込んだかいがあった!」
「……はい?」
今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが、キルケゴーンは気にした様子もなく部屋に入ると、キッチンに向かう。
「今、仕込んだって言いませんでした?」
「んん? だって、マルスが一緒にいたじゃないか」
どうしよう。話が通じてない。
そういえば、マルスの姿を見ていない。記憶が正しければ、昨日の夜はこの部屋に泊まっていたはずだが。
「溶けたんじゃねぇの?」
「いや、本当に意味が分からないんですが」
「悪魔っていうのは、本来肉体を持たないものなんだよ。マルスは体を作ってるみたいだけど、昨日はノゾミと――」
突然塞がれた耳で、何を言われたかわからないが、キルケゴーンが自分の少し上を見ながら何かを話し、困ったように口を開けると、思いついたように何かを離すと、その当てられていた手を離される。
「ごめんごめん。正確には別だけど、マルスはイザナミの従属対象でね。なんていうか、あいつらの本来の活動時間とか、子供には刺激が強すぎる光景でね!」
「深くは聞くな。子供どころかまともな人間は狂うぞ」
「え゛っ……」
ヘクターにそう言われると、逆に気になってくるが、そんな心を見透かしたのか、相手は呪術師と悪魔だと、肩に手をやられる。
おもしろがって、前の呪いをかけられても知らないぞ。と小声で囁かれ、何度も首を横に振った。
「それにしても、相変わらず、ビッグバーンの奴は迷惑だな」
「爆発大好きリッチーでね。毎朝、寝る前に一発自分諸共爆発するのが日課なんだ」
どういう日課だとは言いたいが、誰も騒いでいない理由はよくわかった。
予想通り、そのビックバーンというリッチーは、八柱のひとりらしい。自他共に関係なく爆発するため、近づかないように注意された。
食事を終え、ノゾミは残念ながら布団に潜られたが、いつものように屋敷の周りの罠の確認もなければ、町に出て買い物をすることもない。
つまり、暇。
「それなら、お使いを頼んでいいかい?」
キルケゴーンに渡されたメモと宝石を渡される。
「フィズィに頼まれてたんだ。見せればわかるから」
「フィズィさんは、どこに? 特徴とかあります?」
顔も特徴もわからない相手だ。せめて場所は知っておきたい。
「特徴ねぇ……優男?」
「とても難しいです」
「図書館にいることが多いけど、いろんな場所に呼ばれてることが多いからなぁ……まぁ、冒険だと思って楽しむといい! 男の子って好きだろ? 冒険」
冒険と言えるのかは怪しいが、顔のわかるかもしれないノゾミに声はかけたが、予想通り断られた。代わりに、カリノがついてきた。カリノも顔はわかるらしい。
魔王城とはいうが、案外、普通の城だ。先ほど行った図書館も、大きな図書館ではあったが、魔法書が襲ってくるわけでもなく、至って普通の図書館。
もっとマグマとかあって、人間が住むのは難しい環境かと思っていたが、普通に生活できそうだ。
「本丸だしな。もっと手前の方は、森の迷路だの、溶岩だらけだの、落雷だらけだの、吹雪だの色々あるぞ」
「そ、そうなんだ……ってことは、魔法がなかったら出るのも入るの大変ですね」
「一応、簡単に出る方法はあるらしい。知らねぇが」
人間だから知らされていないのだろうか。
ヘクターがいうには、今の魔王は穏健派のため、人間との交渉を行うが、魔族の中にはそれを良しとしない者もおり、そういった魔族からヘクターたち人間は嫌がらせなどを受けているという。
ノゾミがカリノについていかせたのもそれが理由だろう。
「初めに来た時に、全部ぶっ壊したから詳しいことは知らねぇ」
違う。これ、カリノとノゾミのせいだ。
フィズィを探し回っていると、ふとカリノが周囲を見渡し始める。
なにかと視線を送れば、朝方爆発したのはこの辺りのため、リッチーの破片が落ちている可能性があるのだという。
少し前を歩いていたカリノが急に振り返った瞬間、
「能ある蛇は、二番目に通る人間を襲うというものです! というわけで、ドッカーン!!」
足元から聞こえた声と共に、槍の柄で殴り飛ばされた。
不思議と痛みはなかった。目の前に炎が通り抜けていったが、衝撃も熱も感じなかった。
「つい、助けちまったが……なんで人間がこんな場所に……」
「あ、ありがとうございます」
視界の隅に現れた白い髪の男は、しばらくフジを見下ろし、手を額にやった。魔王城にいる人間なんて限られている。
「ゲェ……! あいつの世話係とか、関わりたくねェ!!」
正直に、ノゾミの世話係であることを伝えれば、素直すぎる返事が返ってきた。
「ゲホゲホッ! 無事か?」
「むしろ、お前は何で無事なんだよ」
土埃の中から現れたカリノは、大きな傷はなさそうだった。その槍についている血のようなものと土は気にしないでおこう。きっとその方がいい。
「おや……騒がしいと思えば、ビックバーンの死体撃ちですか。怪我は、ないようですね」
現れた男は、全員に怪我無いことを確認すると、カリノに指をさされる。
「……あ! もしかして、フィズィさん!?」
「はい?」
どうやらこの人が、フィズィらしい。確かに、優男に見える。
キルケゴーンから渡された宝石とメモを渡す。
「あぁ……ありがとうございます。魔工学の本? わかりました。少し待っていただけますか?」
「え、あ、はい」
本を取ってくるだけだから時間はかからないと、その場を去ろうとしたフィズィは、足を止めると白髪の男へ顔を向ける。
「ちょうどいいですから、アンジュ。そこの迷惑リッチーを少し清めておいてください」
「……っす」
優男とは思えない笑みを残して、去っていった。
アンジュと呼ばれた白髪の男は、何とも言えない表情で空中に文字を描くと、周囲に輝く雨が降り注ぐ。
「ギャァァアァァアアァアアア……!!」
同時に断末魔のような何かが辺り一面から響き渡ってきた。
「アイツは?」
断末魔をBGMに声をかけられ、一瞬誰の事かと思ったが、すぐにノゾミの事かと思い至る。
「布団剥がしても起きなかったんです……」
「そこは世話係として起こせよ。あ、いや、起こさない方がいいか」
どうやらこの人もあまりノゾミが得意ではないらしい。今のところ、得意という人の方が少ないが。
確かに、自由人とは思うし、レイルたちからも聞いているが、実際に目にしたことはなかった。
「あいつ、ムカつくとさっくり殺してくるから嫌なんだよ」
「それは誰でも嫌だと思う」
カリノだけが理解できないという表情をしており、アンジュを互いに目を合わせ、静かに頷きあった。
「なんでお前みたいな普通なのが、アイツの世話係なんてしてるんだよ」
「ノゾミさんには助けられて」
「気のせいだ」
詳細も聞かず否定されるのは、さすがに初めてだ。考えてみれば、今まであった人たちは、なぜかその辺りの経緯を知っていたから、実際に話した人はほとんどいなかった気がする。
「いいか? ここは頭がおかしい連中が多いんだ。ちょっと拗らせて、捻くれたくらいで調子乗ってみろ。自分が大天使かと勘違いできるぞ」
妙にリアルな例えのような気がするが、なんとなくこの人は普通の人のような気がするフジだった。
フィズィに本を渡され、キルケゴーンの元へ戻ろうとすれば声をかけられる。
「一応言っておくけどな、あの研究所には近づくな。特にお前らは」
指されたのは、城から離れた白い建物。
なんでも、地下に広大な研究施設が広がっているが、そこにいるのは八柱であり、魔王軍でも屈指の実力者であり、マッドサイエンティストのフランケンらしい。
「今は一応死んでて、胎児の状態なんだけどな」
「正確に言えば、母体を元の彼と同量の大脳皮質へ変換しているのを、母体の胎内で待っているところですね」
「ちょっとよくわからないです」
「俺もわかんねぇ。とにかく、また生まれてくるのは100年近く後だから、お前は死んでるし、関係ねぇだろ。
一番大事なのは、そのフランケンを殺したのは、お前んのとこの主神だってことだ」
心配になってついカリノを見てしまえば、呆れたような顔をしていた。
「あいつが、ヒノモトの巫女が珍しい、解体させろとか言ってきたのが原因だろ」
「まぁ、あの件に関しては、フランケンが悪いとは思うが……」
アンジュがいうならきっとちゃんとした正当防衛だったのだろう。
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