第2話 僧侶のポール

 あれから3日後の午前10時、マロニエ発ヘリオス行きの地下鉄が発車した。


 僕が乗り込む際、一人の見覚えのある人物が陽気に声をかけてきた。

「やぁ!!トキオクン!久しぶりだねぇ!僕のこと覚えてるかい!!」

「……もしかしてポールさんですか?」

「そう!!覚えてくれて嬉しいねぇ!!」


 たしかポールさんは10年前に両親を弔ってくれた僧侶だ。僧侶という職についているが堅苦しさや辛気臭さを感じさせず、むしろ人一倍明るく遺族に向き合ってくれた人だったのは覚えている。


「ポールさんはどんな用事でヘリオスまで?」

「ああ。久しぶりに隣町に悪魔による死者が出たらしく、その葬儀を依頼されてね。確か依頼が来たのが3日ほど前かな」

「え!?悪魔が出たんですか?」

「ああしまった!!あんまり言ってはいけないことだったね!!だが悪魔共の殺し方を習った君なら関係ないか!!」


 急に緊張感が高まってきた。悪魔たちが地下都市へ侵入してくるのは年に2,3回ほどである。それでも大抵は死者が出る前に何人もの「悪魔狩り」が対処するので大事にはならないが、今回は死者が出ている上に数日が経過している。


「……ポールさんは怖くないんですか?」

「そりゃ怖いよ。けれども私も一応「悪魔狩り」なのでね!最悪自分の身を護るくらいはできるさ!」


 まさかポールさんも「悪魔狩り」だったとは。知らなかった。


「ということはこの列車も護衛として乗るのですか?」

「そうだね。まさかトキオクン、君もかい!?」

「はい。どうしてもお金が用意できなくて……」

「そうか!!まあ万が一悪魔が車両を乗っ取っても5時間耐えることができれば、あとは鉄道警備隊たちが対処してくれるさ! ともに祈ろう!!」


 ……今はこの明るさが逆に不安になってくる。

 ひとまずポールさんと一緒に地下鉄に乗り込むことにした。


 車両は11両編成で、6号車という一番中央の車両に僕たち護衛は待機することとなった。待機してるのは僕とポールさんの二人だけだ。


「普段もこんな感じなんですかね」

「いや、普段の護衛はもう2,3人はいるね」

「え?」

「深刻な人手不足ってやつかな。最近、地下鉄にも悪魔が出現することが増えてきてね。そんな中で護衛につきたくない「悪魔狩り」も増えてきたってことだろうね。」

「……」


 なんとも運が悪い。町のニュースはよく見るが、地下鉄にも悪魔が出現するなんて聞いてないぞ……。

 不安になってる僕をよそに、ポールさんは早速眠ってしまった。

 仕方がないので、これからヘリオスに着くまでの5時間の間に悪魔が出ないことを祈ることにした。



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