第六廻 助手?

 彗月と戒さんと激辛フェスタに行った次の日。俺はいつものように学校に行き、教室に入った。挨拶をしてくるクラスメイトに返しながら、キョロキョロと彗月の姿を探す。あれ、いねぇや。まだ来てないんかな。

 いつもは俺よりも先に来ているので、少し珍しいなと思った。

 少しして、担任がホームルームを始めるために教室に入ってきた。のに、彗月はまだ登校してきてなかった。あいつ、寝坊でもしたんか?

「よーし、ほんじゃホームルーム始まるぞ」

 担任の言葉に、号令係が声をかける。礼をし終えて、座る。

「今日の欠席は彗月と佐々木な〜」

 え、休み?まじ?

 彗月は結構真面目なので、基本的に毎日学校に来ていた。休むのは珍しい。昨日あれから体調でも崩したんだろうか。まぁ、あんだけ辛いものバクバク食ってたらそれも考えられるけど、平気そうだったしな。

 だとしたら、あの爆発になんか色々あって巻き込まれたかなんかして怪我した?

 それを考えて、俺は一気に血の気が引いていくのを感じた。いやでも、戒さんもいたと思うし…大事にはならなかったんだ思うけど…。

 心配だ。眉間にシワを寄せて、俺は考え込む。

 彗月の家なんてどこにあるのか知らないし、そもそも押しかけていったら迷惑がられるだろう。

 悶々と考えているうちにホームルームが終わって、礼をし終えてまた座る。担任が教室から出て行こうとする。意を決して、俺はその背中に声をかけた。

「あの、すみません。ちょっと聞きたいことがあるんすけど」

「ん?」

 続きを促すように首をかしげられ、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「彗月の家の場所、教えてください」

 俺の言葉に、担任は虚をつかれたような顔をした。



 重い瞼をゆっくりとあげて、俺は目を覚ました。見慣れた天井に、少しだけ息をつく。

「…卯木さん」

 俺から視ると緩やかな光を纏うその人の名前を呼ぶと、返事が返ってくる。

「うん」

「俺、何時間寝てた?」

「そうだなぁ…時間で言うと丸一日くらいかな」

 のんびりと放たれたその言葉に、俺は目を腕で覆ってため息をつく。最悪だ。ていうか、あの黒いの還してから記憶がないんだけど。ここまでどうやってきたんだろ。まぁ多分、戒さんが運んでくれたんだろうけど。

「戒さんは?」

「今日は大学の講義が午後まであるらしいから、来るのは少し遅れるらしいよ」

「そう」

 言いながら、俺は体をゆっくりと起こした。

「…だるい…」

 額に手をやって、ぐらぐらする視界と重い体に嫌気がさした。

「まだ顔色、よくないね。今美穂が生姜湯作ってるから、それ飲んで今日は家でゆっくりすると良い」

 案じたような声音に俺は素直にうなずいた。少し照れくさいけどね。

 ちらりと時計を見やると、針は5時を指していた。

「昨日のこと、戒さんから話聞いた?」

「うん。聞いた。美穂に頼んで、色々やってきてもらったから。しばらくは何にもしてこないんじゃないかなぁ」

「…そう、デスカ」

 思わずぞくっと背筋が凍って、俺は顔を引き攣らせる。改めて思ったけど、この人怒らせるのはやめておこう。

 ちょうどそのタイミングで、美穂さんが生姜湯を持ってきてくれたので、それを受け取って一口飲んだ。ほんのり甘く、生姜特有の匂いが口に広がる。

「ふぅ…ありがとう」

 お礼を言うと、彼女はにっこり笑ってうなずいた。

 一息ついて、俺はげんなりと顔を歪めた。

「あーあ、結構昨日いい気分だったのに。台無しだ。あのクソ次男、今度あったら本人をぶっ飛ばしてやる」

「その意気込みは評価に値するけど、あんまり無理したらまた倒れちゃうよ。夏紀くん、すごい心配してたんだから。あとでお礼言っときな」

「はぁーい」

 ふんと息をついてから、俺はこくこくと生姜湯を飲んでいく。まぁ、たしかに目の前で人が倒れたら心配もするよね。戒さんには悪いことしちゃったかも。あとで謝っとこ。

 そう思って、俺は戒さんを待つことにした。

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