第五廻 力と代償

 日曜日。俺は半分無理矢理綾斗とその友達の激辛フェスタに付き合わされるために、待ち合わせの時間より少し早く相談所の前に立っていた。

 はぁ、なんで俺が休日に男子高校生たちと遊ばにゃならんのだ。極めて不満である。いや、別に嫌ではないよ?けどね、男としてはせめて女子と遊んでみたかったわけだよ。あーあ、終わってんなー。

 目をすがめてそんなことを考えていると、綾斗がやってきた。

「おはよう戒さん。今日は楽しもうね」

 にっこりと微笑む綾斗に、俺はうなずく。そして、歩き出しながら聞いた。

「お前、辛いの好きなんだな」

 初めて会った時、カフェではいちごオレを頼んでいたのに。ずっと疑問だったのだ。

「うん。すごい好き。甘いものも普通に好きだけどね」

 なるほど。よく辛いものが好きな人は甘いものは苦手だ、という話を聞いたが、それは偏見だったか。

「へぇ…」

 相槌を打つ俺に、今度は綾斗が首をかしげる。

「戒さんは何か好きな食べ物とかある?」

「うーん、基本的になんでも好きだけど…あ、唐揚げが好き」

 言い方が子供っぽかったのか、おかしそうに笑われてしまった。

 俺はむっと顔をしかめる。

「笑うなよ」

「ごめんごめん」

 結構無邪気な笑顔だ。年相応で何より。

「にしても、お前の友達は今日俺も行くこと知ってるのか?」

「大丈夫。伝えてあるし、快くおっけいしてくれたよ」

 まぁ、こいつの友達ならきっと心が広いんだろうな。

「ま、ならいいんだけど」

 とりあえず、今日は楽しむか。

 そう思って、俺は軽く伸びをした。



 神木公園に着くと、結構賑わっていた。辛い物好きはたくさんいるんだな。

 そんな中で、大きな木の下でスマホをいじっていた高校生くらいの男子に、綾斗が声をかけた。

「佐川」

 なるほど。この子が綾斗の友達か。いい奴そうだ。

 佐川と呼ばれたその子は、俺を見てなぜか感心したように何度もうなずいた。

「…本当に彗月、俺以外にも友達いたんだな。しかも年上」

「失礼だなぁ」

 そのやりとりに、俺は目をすがめて綾斗を見つめる。こいつ、一体高校でどんな奴なんだよ。

「…綾斗、お前…」

「ちょ、戒さんまで。佐川が余計なこと言うから」

「えぇ」

 八つ当たりをされて、佐川くんはとても不満そうだ。かわいそうに。

「えっと、挨拶遅れたんすけど…佐川晴翔です。晴翔でいいっす。今日はよろしくお願いします」

 礼儀正しく頭を下げてくれた晴翔に、俺は慌てて頭を下げ返す。

「こっちこそよろしく。夏紀戒です。俺も下の名前で構わない」

 見つめ合って、少し笑う。いい奴だなぁ。

「よーし、挨拶も済んだみたいだし早く激辛料理を食べ尽くそう」

 生き生きとした顔で、綾斗が俺の腕を引っ張る。その後ろで、晴翔がボソリとつぶやいた。

「…俺も頑張ろ…」

 何をとは思ったが、なんだか聞くのは悪い気がして俺はあえて聞かなかったことにした。

 

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