③
放課後。俺は学校を出てそのまま相談所へ向かった。戒さんはもう来ているだろうか。なんとなく、結構早い時間から来ていそうだな。
俺は妙に真剣な顔をして再び相談所の中へ入って行く戒さんの姿を想像して、思わず笑ってしまった。あの人、俺より年上なのになんとなく子供っぽいところあるんだよね。
今日はいつもよりも相談所に行くのが楽しみだ。
そんなことを考えながら、俺は少し足の歩みを早めた。
相談所について中に入ると、やっぱり戒さんがいた。美穂さんが淹れてくれたらしき紅茶を飲んでいる。
「あ、綾斗」
俺に気づくと、戒さんはよっと手を挙げた。それに、俺も同じようにして返す。こんなこと、初めてやった。戒さんて若いんだね。まぁ、歳の差はせいぜい俺と一個二個くらいしか離れてないだろうから、当然だけど。きっと、俺とは違ってこの人は友達が多いんだろうな。
「座れよ」
ぽすぽすと音を立てて自分の隣を叩いて促す戒さんに、俺は笑いながら座った。ずいぶんと慣れたようだ。
「戒さん、いつから来てたの?」
「講義終わってすぐだから…午前中だな」
それに、俺は目を丸くする。今は放課後…っていうか、夕方だ。結構長い時間ここにいたことになる。それは慣れるはずだ。
「お昼は食べたの?」
「美穂さんがおにぎり作ってくれた。あの人、なんでもできるな」
笑って言う戒さんに、俺は苦笑する。一応人ではないし、そもそも多分、この人はまだ美穂さんが何者かを知らないでいるんだろうな。ほんと、面白い。
「美穂さんは?」
「美穂は今、休んでるよ」
それまで黙っていた卯木さんが言った。それにうなずいて、俺はポケットからスマホを取り出した。
「卯木さん、今週日曜まで神木公園で激辛フェスタやってるらしいんだけど、俺行ってきても大丈夫?」
サイトを見せながら言うと、彼は笑ってうなずいた。
「大丈夫だよ。一人で行くの?」
「…一応、友達と」
佐川は友達なのかよくわかんないけど、多分そうなのだろう。
俺の言葉に、卯木さんは気味の悪い笑みを浮かべて何度もうなずいた。
「いいじゃないか。いってらっしゃい」
「うん。あ」
いいこと思いついた。
「戒さん、辛いの好き?」
「え…うーん、まぁ。普通」
急に話を振られてびっくりしたのか、目を丸めながらも戒さんはうなずいた。
「じゃあ一緒に行こ。日曜、空いてる?」
「えぇ…空いてるけど、高校生と遊ぶのかぁ…」
「嫌なの?」
「や、そういうわけじゃないけど…。なんか、一人だけ大学生って虚しくね?」
「そんなことないよ。大丈夫、戒さん若いから」
にっこり笑うと、彼はなんとも複雑そうな顔をする。
「なんじゃそりゃ…」
「まぁまぁ。じゃあ、決まりね!ここに10時に集合で、そのまま神木公園に行くってことで」
この人といろんなところに行ってみたい。俺は今まで力のこともあったし、そもそも人と関わっていいことなんてあんまりなかったから、率先して関わってこなかったけど。たまには、仲良くなりたいって思ってもいいよね?
そんなことを思いながら、俺はじっと戒さんの返事を待つ。
「…はぁ…わかった、いいよ。行きますよ。ただし、そんなに金に余裕はないから奢ってもらおうとか思うなよ?」
「あはは、そんなこと思ってないよ。楽しもうね、戒さん」
「はいはい、お供しますよ」
手を挙げて、彼は肩を竦めた。俺は満足そうに笑って、佐川にもう一人追加することを知らせるのだった。
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