②
学校について、俺はぼんやりと窓の外を見やる。暇だ。
朝のホームルームが始まるまで、あと数分。クラスメイトたちはみんな仲の良い友達と何が楽しいのかわいわいとはしゃいでいる。
あいにくと、俺にはあんな風に話せる友達なんていないからね。こういう時間は暇なんだ。ま、仲のいい友達がいて何が良いんだかって思ってるし、必要性も感じてないから別に良いんだけどね。
「彗月〜はよー!」
忘れてた。一応俺にも友達って呼べる存在が一人いたんだ。
勝手に俺の前の席に座ったこの男、
明るくて無駄に元気で、普通にクラスメイトとも仲の良い、善人だ。なんで俺みたいなひねくれてて変わり者と関わろうとしてくるのかよくわからない。
ちなみに、一番最初に俺は話しかけてくる佐川に対して。
『もしも俺が一人でいて可哀想って思って話しかけてくれているのならそれは見当違いだよ。ていうか、普通に迷惑。そういう偽善者、俺大っ嫌いなんだよね』
と、笑顔で言ってやった。中学の時も同じような奴がいて、同じことを言ったらそいつは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして逃げていってた。あれは爽快だったなぁ。ああいうタイプは「俺、友達いないような奴にも話しかけたら気にかけたりできる、優しい奴なんだぜ?」アピールをクラスメイトにしてより人気を得ようとするのが魂胆だ。俺を自分の地位獲得のために利用しようなんて、傲慢だ。反吐が出るね。
まぁ、佐川はそんな俺の尖った言葉に爆笑したんだけど。お前面白いなー!って言いながら、肩をバシバシ叩かれた。あれ、結構痛かったんだよね。
で、そっからますますちょっかいをかけられるようになっちゃったんだ。面倒なことこの上ない。別に嫌いってわけじゃないけど。
「…おはよう」
一応返事を返して、俺はちらりと佐川を見る。ニマニマと何故か嬉しそうに笑っていた。
「何その顔。気色悪っ」
素直な感想を漏らすと、今度は不満そうに口を尖らせる。よくそんなにコロコロと表情が変わる。
「ひどいなぁ。お前素直すぎるんだよ、もうちょい言葉をオブラートにだな…」
ああ、気色悪い笑顔だったっていうのは認めるんだね。
素直で何が悪い?操言師である俺は言葉を濁すことはあっても、嘘をつくことは滅多にない。俺がついた嘘は嘘にならないからだ。まぁ、普段は力を使わないようにしてるからそこまではっきりとはそうなわないけど、気を付けて損することはない。
「嫌なら俺に関わらないで」
「そればっかりだなぁ。三年間ずーっと言われ続けて、さすがに心が折れそうだ」
さほど気に留めてなさそうな顔をして言う佐川に、俺はため息を返した。
「本当にそう思ってるなら話しかけなきゃ良いんじゃない?」
「俺はお前が絆されて、デレてくれるのを待ってんだよ」
相変わらず、よくわからないことを言う。
目をすがめて、俺は再び窓の外を眺め始める。
「なぁなぁ、彗月今日の放課後暇?どっか寄ってこうぜ〜」
「忙しい」
「んじゃ明日は〜?」
「いつも放課後は忙しいよ」
「んじゃ休日は暇ってことだな。よーし、お前と一緒に行きたいところが…」
そこで、俺は我慢ならずに佐川を睨んだ。
「あのさ、いい加減にしてくれない?これだけ断ってるんだから、普通にあんたとは遊びたくないってわかるよね」
「まぁまぁ。そう言うなって。お前と行きたいところってのはここだよ」
言いながら、佐川はスマホを俺の目の前に突き出した。渋々受け取って、そのサイトを見る。
それは激辛フェスタ開催のお知らせだった。ちょうど今週の日曜日までの開催期間だ。
思わず、俺は生唾を飲み込んだ。その反応を見逃さなかった佐川が、ニヤリと口角を上げた。
「…行きたいだろ〜?」
「………」
もう一度言うけど、俺は嘘がつけない。ああ、今は目の前のこいつが悪魔に見える。
「んじゃ、今週の日曜日11時にここの広場で集合な」
俺は、無意識にも首を縦に振ってしまった。
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