第四廻 彗月綾斗
あの生き霊の事件が終わって、俺は戒さんへの説明もそこそこに疲れによって寝てしまった。
夜に目を覚ましたら、案の定戒さんは既に家に帰ってしまっていた。卯木さんに文句を言ったら。
「そうは言っても、綾斗は能力を使って疲れて寝たら、数時間は起きないじゃない。さすがにその間ずっとあの子を待たせるのは可哀想でしょ」
と、笑顔で言われてしまった。まぁ、彼のいうことはわかるし正しいとも思うのだが、なんだかあの人に言われると釈然としないのだ。俺、実は卯木さんのこと嫌いなのかな。
そんなことを思っていると、卯木さんはむっと軽く顔をしかめて見せた。
「ひどいな、僕は君のこと気に入ってるんだけど」
「…心読まないでください」
間違いなく言えるのは、この人のこういうところは嫌いだ。ていうか、苦手。戒さんは勘がいいから、卯木さんが心を読めるってのを一発で見破れてた。素直にすごいよね。やっぱり助手に欲しいなぁ。
ふむと一つうなずいて、ソファーに身を沈める。うん、やっぱりここのソファーは座り心地抜群。もうあんまり疲れてないしだいぶ回復してるけど、もう一回寝れそう。
そんなことを思っていると、目の前のテーブルに美穂さんが紅茶を置いてくれた。
「ありがとう」
お礼を言うと、彼女はそっと笑う。
一口紅茶を飲むと、爽やかな香りが口に広がった。寝起きにはちょうどいい目覚ましだ。
「綾斗、明日も学校でしょ。今日はもう依頼者はいないから、帰りなさい」
「はーい」
卯木さんの言葉にうなずいて、俺は紅茶を飲む。
「紅茶飲み終わったら帰る」
「うん。そうそう、明日夏紀くんが来たら、僕からいろいろ説明しても大丈夫?」
「あぁ、うん。戒さん大学生だからなぁ…俺と時間合わないか」
ちぇっとわざとらしく舌打ちをすると、彼はおかしそうに笑った。
「それは仕方ないよ。君もあと少しで高校卒業するんだから、そんなにぶすくれないの」
「わかってるよ」
ため息をついて、俺は紅茶を飲んだ。
相談所を後にして、適当にそこら辺にいる悪霊やらなんやらを回収しながら家に帰る。
「ただいま」
挨拶をしても、返ってくることはない。それをつまらなく思って、俺はシンと静まり返る廊下を歩いて自分の部屋に入った。
息をつきながら、俺はベットの上に倒れ込む。
「…ちょっと疲れたなぁ」
一言つぶやいて、俺はそのまま意識を手放した。
翌朝。閉めていたカーテンの隙間から漏れる朝日の眩しさに目を覚ました。
起き上がって、適当に焼いたパンにバターを塗って食べる。
食べ終えて食器を洗って、俺はシャワーを浴びる。昨日は制服のまま風呂にも入らずに寝てしまったので、シャワーを浴びるとさっぱりする。
完全に目が覚めた俺は少し皺が寄ってしまった制服に軽くアイロンをかけて、それを着る。おぉ、ほんのりあったかくていいな。
そんなことを思いながら、俺は家を出た。誰もいない家の中に、行ってきますと告げて。
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