第1作戦 帝国侵入

01

 その日、私はパパと能力者教育機関であるヴェーベを訪れていた。とても大事な役目を果たすために。

 しかし、運悪く怪人が現れ、私たちのいたビルは怪人に押しつぶされ倒壊した。私は運好くガレキの隙間に入っていて、大きな怪我をすることはなかったが、パパは大きなガレキの下敷きになっていた。


「パパ!」


 呻きながらもゆっくりと目を開けたパパは、私を見つめると、苦しそうに微笑む。


「ルーチェ。すぐに能力者が来てくれる……そしたら、声を出して、助けてもらうんだ」


 パパはかすれた声でそれだけいうと、力が抜けたように目を閉じた。


「パパ……? パパ! ヤダ、ヤダ……! いやァ――――」

「きぃ゛ぃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 少女の悲鳴が奇声にかき消される。

 同時に、一部のガレキが音を立てて動き出し、カラスの仮面をつけた黒い男が、ガレキの隙間から這い出してきた。


「死ぬかと思った……! 誰だよ! 人の上に怪人落とす奴は! 人の迷惑も考えろっての」

「お前が言うな!!」


 ツッコミと共にガレキを退かして現れた、鬼の仮面を付けた赤い男と白い鎧の男は、疲れた様子で退かしたガレキに寄りかかる。


「なんだよ。あの声。笑いすぎて、力抜けたじゃねーか!」

「世界の終わりじゃねぇんだから」

「腹筋に力入っただろ? それに、俺が死ぬってことは、世界の終わりと同じことだ」

「あー何かムダに疲れた……」

「同感」


 黒い男以外がため息をつく中、笑っていた黒い男は笑いをやめ、前を指さす。自然とほかの二人もそちらを向けば、砕けたウミナメの一部が小さなウミナメとなって、地面を這っている。


「アレって、新種ってやつ?」

「増殖、分裂はまだ報告なかったはずだぜ?」

「ってことは、俺らが世界で一番最初の発見者」

「つまり、発見者として名誉と金がもらえる」

「いやーもらえねぇだろ。たぶん」

「よし。じゃあ、あいつは、絶賛増殖中君にしよう」

「助けて……!」

「絶賛助けて増殖君?」

「なんだよ。助けて増殖君って」


 そこで、ようやく三人は先程から「助けて」と言う声が響いていることに気がつき、辺りを見渡した。この辺は、すでに避難が終了しているはずで、人はいないと思っていたが、何度も助けを呼ぶ声がしている。


「いた!」

「幽霊か!?」

「ちゃんと生きてるよ!」


 見つけてしまえば早いもので、三人、ではなく主に二人が大きなガレキを退かし、少女を助け出せば、その隣にいる父の方を見た。赤い人が、まだ息があると言えば、また父もガレキから救い出された。


「がんばれ! すぐに俺らが病院に連れていってやるから!」

「あ゛……まずい」

「どうしたんだよ」


 赤い人の視線の先を見れば、増殖君が今だに増殖を繰り返し、道という道を塞いでいる。しかも、音を立てていたからか、全員こっちを見ている。


「俺のスター性かな?」

「よし。スター。お前が足早いんだ。二人を運べ。おっさんの方は結構ヤベェから」

「ちょっと待って!? 足は早いけど、力ないのは知ってるだろ!? 二人はさすがにキツイ!」

「大人一人に子供一人だから、なんとかなるでしょ?」

「ほら、女の子の体重は羽毛のようだっていうだろ?」

「何十キロある羽毛があってたまるか!」


 文句を言いながらも、黒い人は父を担ぐと、少女も小脇に抱える。不安気な少女の目に、黒い人の笑顔と先程までなかった道が映った。斧と槍によって作られた道。電気が弾ける音と共に、その道が急に迫り、駆け抜けていく。

 走るというよりも、跳ぶに近かった。二人の援護が無くなった状況では、大人を背負い、少女を抱えた状態で戦えるわけもなく、建物の取っ掛りに足をかけて跳んでいる状態だった。しかし、病院の近くには、大通りとロータリーのおかげで、建物はない。

 走るしかないと決めたところまではいいが、案の定すぐに囲まれた。


「お前ら、女の子に寄りたガールか!」


 黒い人が泣き叫んだ瞬間、周りにいた怪人が文字通り、凍りついた。


「へ……寒すぎて、本当に凍りついた?」


 驚いている黒い人を他所に、氷の上に人が降りてくると、その氷を叩き割った。


「おぉ! 二人共! 助かった! この絶賛増殖君どうにかしてくれ!」

「ウミナメだろ」


 ローブに杖を持った人が妙なところに即答してきたが、なぜかその人は尻餅を付いていた。


「じゃあ、増殖ウミナメ君!」


 その提案に頷くローブの人は、ようやく杖を振ると、病院前の一本道にいたウミナメを凍りつかせた。そして、もう一人の青いゴーグルをつけた女の人が、その氷を叩き割る。


「助かる! あっちにあいつらもいるから、手伝ってやってくれ! じゃないと、さちこがクビになる!」

「どういうこと?」

「少しは俺たちのスター性を見せないと、さちこが責任とってクビになる!」

「それはヤバい」


 また粉々になった氷からウミナメが増殖する前に、黒い人は走り出し、助けてくれた二人は、女の人がローブの人を抱えると、先程までの少女たちと同じように、ウミナメを避けるように跳んだ。


***


 その事件から四ヶ月が経ち、父はどうにか一命を取り留めていた。今だに病院のベッドの上ではあるが、その経過は順調だった。そんな父が、ある日こんなことを言い出した。


『私たちを助けてくれた、あの能力者たちなら、私たちの役目をこなしてくれるはずだ』


 その言葉通り、ルーチェは中央管理局に来ていた。能力者への仕事の依頼は、全てここで依頼する必要がある。名指しもできるし、誰でもいいなら依頼の難易度にあった能力者を派遣してくれる。


「鎧の特徴とか、名前とか、せめてA級かB級かもわからないかな?」


 誰でもいいというわけではないのに、その人たちのことをルーチェは全く知らなかった。色と性別だけで特定できるはずもなく、受付の女性も困ったように画面を見ていた。


「何かありました?」

「赤哉さん! あ、いえ、実はこの子が依頼を出したいそうなのですが」

「言葉がわからない?」

「いえ、言葉は話せるようなので、問題はないのですが、前に助けられた能力者に依頼したいということなのですが」


 助けられた能力者に依頼するというのは、少なくはない。いつの事件かというのを調べていけば、数名の能力者に絞られるため、調べることは無理ではないのだが、どうにも今回は歯切れが悪かった。


「もしかして、ウミナメの時のじゃない?」

「おかえり」


 蒼哉の思ったことは当たりで、ウミナメの時は戦える能力者はみんな出てしまったため、関わった能力者はほぼ全員だ。しかも救助となればB級も混じってくる。探すのは困難だ。


「あーあの時は人が多かったからなぁ。今日は予定もないし、俺は手伝ってもいいけど」

「そうだね。あの会議室、今使ってないみたいだし、借りようか」


 ルーチェはよくわからないまま二人に連れていかれ、小さな部屋に通された。蒼哉はタブレットを操作し、ルーチェのいう能力者の特徴から探していく。


「まずは、あの時の北東病院に大人一人と女の子を連れていった能力者で、黒の鎧……うーん、やっぱり結構いるね。あそこは出現地近くだったから」

「他に、二人と一緒、でした。赤い人と、白い人」

「三人チーム? はい。お茶どうぞ」


 赤哉は三人分のお茶をいれると、三人チームを思い浮かべるが、それは蒼哉が否定した。先程の条件から、それではヒットしない。


「そういえば、あとで二人……女の人とローブを着た人が」

「チームとしては、普通だけど……赤哉」


 追加された情報で、赤哉が突然机に突っ伏し、蒼哉も目を向けた。


「悪ぃ……俺、あの人たちが頭の中から離れない……うるさすぎて、ちょっとほかに頭回んない」

「今のところ、あの人たちも条件に残ってるよ」

「マジで!?」

「マジだよ」


 ものは試しと、赤哉が四柳の画像を見せてみれば、ルーチェは驚いたように目を見開き、頷いた。


「……これは、どうする?」

「いろいろまずいね」

「まずい?」

「ごめんね。ちょっと待っててね」


 ルーチェにそう告げると、二人は小声で相談を始めた。四柳たちは伝説のトリプルスコアではあるがA級能力者だ。依頼料は高い。一応、ルーチェではなく、父親の依頼ということで金はなんとかなるかもしれないが、やはりそれも相談になるだろう。

 そして、もっと問題なのは、四柳たちは今、A級能力者としてさほど活躍していない。それは、元々分かっていたことではあるものの、中央管理局からの依頼も、その日ライブだから。という理由で断り、書類上リーダーである日向が呼び出され、毎月一依頼という最低ノルマを設定された。

 そんなA級能力者は前代未聞で、周りからはもう呆れられているが、本人たちはあまり気にしてはおらず、本当に月末に慌ててノルマをこなす程度にしか活動していない。


「話せばやってくれるかもしれない」

「まぁ、根はいい人だけど、基本的にあの人たちって、才能をどぶに投げ捨ててる人たちだからなぁ」

「アオって、結構辛辣だよな……」


 仕方ないといって、蒼哉が携帯で電話を取り出すと、ある人に電話をかけた。


「あ、もしもし、弥? ひさしぶり」

「え!? 弥の方!?」

「実は、弥たちを名指しで依頼をしたいっていう女の子がいて、内容は護衛。

 ――普通はそうなんだけどさ、ちょっといろいろあるみたいだから、今夜、暇なら寮に遊びにきてよ。うん。みなさんで」

「アーオー終わったら、代わって」

「よかった。みんな来れるんだね。六時ね。わかった。待ってるよ。うん。また」


 赤哉に代わる間もなく、電話は切られ、視界の隅で赤哉がっかりと肩を落としていた。


「さて、先輩に連絡はつけたから、寮に戻ろうか。ルーチェちゃんも、来てくれるかな?」

「あ、あの、お二人は、その人たちと知り合い、なんですか?」

「知り合いも何も、あの人たちは、僕たちの先輩だからね。依頼としてはもう送ったから、一度顔合わせしておこうね。それから、詳細な依頼の内容も」


 通常、A級能力者がいくら依頼だかといって、素顔で依頼人と会うことはない。しかし、それをあえて会おうとするのだから、蒼哉も何かこのルーチェという少女の依頼から、何か別の目的を感じたのだろう。

 ニコニコと笑顔でルーチェと手をつないで、寮に向かっている蒼哉の後ろで、赤哉は少し表情をこわばらせていたが、振り返った蒼哉に頬を引っ張られた。


「暗いよ。アカ」

「先輩たちが来たら、後片付けが大変そうだと思って」

「そうだね」


***


 寮に戻ると、もう一つの嵐が吹き荒れた。同チームである、宇佐美白菜うさみしろな


「自分たちのしていることの意味、わかってるの!?」

「わかってるわかってる。というか、白菜が嫌がってるのは、アレだろ? 先輩たちが来ることだろ」


 白菜は大衆と同じく、トリプルスコアで最下位という伝説を残した四柳たちを快く思っていなかった。しかも、ここにいるメンバーが、白菜を除き全員がそんな北東教育機関の汚点といえる、四柳たちを受け入れ、その中に全能力者でもトップクラスにはいる赤哉、蒼哉がいるのだから、なおさら快く思えない。


「あんなのが、この私の先輩で、しかも同じ学校っていうだけでも我慢ならないのに」

「だったら転校もできるよ?」

「うわ……バッサリいくな……」


 白菜の発言を一刀両断してしまう蒼哉に、つい赤哉も苦笑いになってしまう。まだ言い足りなさそうな白菜だったが、外から聞こえてくる騒がしい声に、顔を背けた。

 蒼哉が出迎えのために、玄関に向かうと、同時にチャイムが鳴った。そして、ドアノブをしっかり握ってから、鍵を開ければ、同時に強い力がかかった。

 向こうが慌てたように、何度も開けようと引っ張っているようだが、しばらくして、ようやく開けようとする力はなくなり、声が聞こえてきた。


「うちの四柳が泣きそうなので、開けてもらえませんか?」


 その言葉通り、ようやく開ければ、和樹が座り込んでいる拓斗の肩を叩き慰めていたが、ドアが開いたことに気がつくと、家の中に飛び込んでいった。

 全員が拓斗のその行動を読んでいた、というよりも、いつもどおりのことなので、拓斗は止められることなく勢いよく家の中に入っていった。


「おじゃましまーす」

「おじゃましまーす」

「ウッヒョー! いい匂い!」

「マジだ!」

「「モモ~~!!」」


 台所から漂ってくる香りに、拓斗だけではなく、和樹と遼太も駆け足でダイニングに向かう。


「あいつらに遠慮って文字がないもので……すみません」

「いえいえ。予想通りなので、問題ありませんよ」


 丁寧に頭を下げてから入る木在は、ダイニングで暴れ出していそうな三人を止めるため、早歩きで向かった。そして、最後に入ってきた弥の手には大きな袋が抱えられていた。


「ただいま。アオ」

「おかえり。その袋は?」

「モモに調理してもらおうって、いろいろ買ってきた」


 その頃、ダイニングでは、カウンターの前で餌を待つ犬のように立っている拓斗と和樹がいた。その視線の先には、おいしそうな料理を作っている、ふくよかな体型の男、赤哉たちのチームの一人である尾飾桃太びしょくももたがいた。


「モモちゃん。モモちゃん。味見は……」

「もうできあがりますから」

「皿出しますかね!?」

「じゃあ、その深い皿出してください」

「イエッサー!」


 蒼哉と弥もダイニングに来ると、すぐに弥は拓斗にキッチンに連れていかれ、買ってきた品物を桃太に見せる。料理はすでに並んでいるものの、それをつまみながら、また新しい料理が作られ始めた。

 本来の目的を忘れていそうな人達に、赤哉もため息をつくが、遼太が料理をつまみながら、ようやく本題を切り出した。


「それで、そいつの護衛って話だけど」


 ルーチェは驚いたように、食べていた料理を一旦置いたが、すぐにまた料理を口に運ぶ。


「めんどくさそうな依頼だなぁ。言葉の壁とか」

「そんなの気にしなくていいぞ! この俺様にかかればな! ペラペーラ、ペラペラペーラ」

「?」

「通じてないです」

「そもそもその子、普通にしゃべれますよ」


 そう言われると、途端に興味を失ったのか、拓斗はまた桃太の方へ行ってしまった。


「言葉が話せるなら、なんでめんどうなんだ?」


 木在が不思議そうに遼太に聞けば、遼太、蒼哉、赤哉の三人は、驚いたように木在を見つめ、なおさら木在は首をかしげた。ほかの全員も同じように首をかしげる。どうやら、全員わからないらしい。


「アホの子二人はわかってたことではあるが、木在と弥まで撃沈か……」

「うちらの方まで……」

「よし、説明してやるから、よく聞け」


 ルーチェはどこからどう見ても、外人だった。帝国出身ではないことは明らかな容姿をしている。

 本来、能力者に依頼が来るのは国内に限定される。特別な場合、例えば複数の国が同じ怪人に襲われ、その怪人を倒すことが急務である場合、国同士が協力することはある。ただし、その場合、国防ということになり、普通の依頼ではなく帝国軍に属する能力者が派遣される。

 自国の領地外での活動には、多くの許可が必要でもあり、帝国が絡んでくることが絶対で、ルーチェのように個人が依頼を出すことはない。

 加えて、怪人の生みの親については未だ不明であり、どこかの国が生物兵器として作り出しているのではないかという説がある。そのため、自国以外の依頼を受ける時は特に慎重になる必要がある。


「――と、いうわけだ。わかったか?」


 遼太が確認すれば、拓斗は和樹の肩に手を乗せ、和樹は弥の肩に手を乗せ、弥は頷き、木在の肩に手を置く。


「なんとなく。というか、まだ怪人の研究、進んでなかったんだな」

「生物兵器って初耳だぜ?」

「俺も」


 拓斗と和樹の言葉に、今度はルーチェ以外の全員が凍りついた。それもそのはずだ。怪人が生物兵器である可能性については、高等教育機関で習い、他にも突然変異説が唱えられ、それらについての試験も必ずある。

 どちらにしても、怪人のそのほとんどに大元となった生物がおり、一部の遺伝子が変わっているだけだ。それは、能力者についても同じであり、大部分が人間と同じ遺伝子であり、一部だけが大きく違う。

 そのような能力者にとっては、常識にも近い説明を後輩である桃太からされ、納得した様子で頷く拓斗と和樹に不安はあるが、同チームである三人が全く気にしていない辺り、これもまたいつものことなのだろう。


「あいつらはほっといて、だ。話を進めるが、護衛はお前を本土のある場所まで無事に届けることだよな?」

「はい。これを、届けるために」


 そういってルーチェが取り出したのは、ペンダントだった。中には、メモリーチップ。


「中に、世界の命運を分けるようなもの入ってないよな……?」

「先輩。なに、わかりきったこと聞いてるんですか」


 そんなもの赤哉に言われなくても想像がついている。このメモリーチップの中にお菓子のレシピでも入っていたら、かわいいものだ。だが、能力者の護衛を付けるほどものが、そんなはずない。


「中身は、新種の怪人の分析したデータが入っています」


 新種と言えば、増殖ウミナメ君のことだ。

 確かに、どこかの国や組織がその情報を欲しがり、入手すること自体はおかしな話ではない。真っ当なことだが、それならなおのこと、子供の護衛ではなく、能力者自身がそれを受け取り、運べばいいはずだ。

 それをせず、わざわざ個人的に護衛を雇うなど、真っ当とは程遠いこと、あまりいい予感はしない。


「ルシファエラ・I・デルニーニョ」

「誰だ?それ」

「現在の連合諸国統制研究機関、帝国支部の局長っすよ」

「レンゴウショコクトウセイケンキュウキカン?」


 首をかしげる拓斗と和樹は、木在と弥に連れて行かれた。二人がいては話が進みそうにない。

 連合諸国統制研究機関というのは、複数の国が研究費を出し合い、国籍関係なくその機関に属する人々は怪人について、研究、解明に尽力する機関である。その際に得られた情報は公のものとし、所属する国全てに公開することが規定となっている。

 また怪人の研究と合わせて、能力者の力をアップする方法なども研究されており、弥が使う属性付加の結晶は、まさにその研究の成果の一つであった。


「で、そいつがなんだ?」

「ウミナメが現れた日に、そのウミナメについての情報を届けるためにヴェーベに来ていました。残念ながら、その情報が届いたのは、ウミナメが現れた数週間後のことでしたが」

「それは、パパが重症で……」

「ちょっと待った。お前、その局長の子供なのか?」


 ルーチェがおずおずと頷くと、遼太はまた考えるように腕を組み、ルーチェに何か聞こうと口を開いた瞬間、顔を押しのけられ、拓斗が割り込んできた。


「ってことは、お嬢さんは正真正銘のお嬢様!」


 後ろで和樹たちが、いつの間にか抜け出した拓斗に驚きながら、縄を持って拓斗を椅子に縛り付ける。暴れる拓斗を押さえつけながら椅子に縛り付け、口には桃太の作った料理が詰め込まれる光景に、ルーチェは驚いて周りを見たが、気にしている人は全くいなかった。


「ウミナメは人工的に作られた怪人ってこと?」

「あ、このまま話進めるんだ……」


 拓斗は和樹たちに任せ、弥も椅子に座ると先程の続きを話し始めた。さすがの蒼哉も驚いて、困ったように眉を下げる。


「まぁ、ウミナメに限ってはそうだろうな」


 新種ともあれば、すぐさま全世界に情報は巡る。新種の報告は、帝国が一番だったことから考えても、ウミナメが分裂して、別の国を襲ったとは考えにくい。

 つまり、どこかの国がウミナメを人工的に作り出し、その情報をいち早く知った連合諸国統制機構の局長であるルシファエラは、狙われたヴェーベにその情報を知らせに来た。

 しかし、間に合わず、ルシファエラとルーチェは事件に巻き込まれ、情報はウミナメが現れた後に届くこととなった。


「でも、ウミナメはもう来たんだし、データを持ち帰るだけなら、別に大変なことじゃないだろ? なんで護衛なんか」


 木在の疑問は最もだ。だが、遼太は、至極めんどくさそうに言う。


「そりゃぁ……まぁ、アレだろ。護衛が必要なところに行くからだろ」

「護衛が必要な所って……その研究機関って帝国の中にあるんだろ?」

「つまり、帝国の陰謀だァ!!」


 拓斗の叫びに、和樹も木在もまさかと笑い、遼太も別の意味で笑った。


「今日は冴えてるな! 拓斗」

「俺様はいつだって冴えてるぜ!」

「マジかよ!?」


 和樹が驚くのも無理はない。帝国がまさかそんなことを考えているなど、考えたこともない。


「帝国全体が、とは考えにくいですが、その可能性はあると思いますよ」


 蒼哉のその言葉に、遼太にすがりつくように依頼を断ることを提案しだす和樹の顔を押さえ込むと、拓斗の方を見た。


「どうする? 帝国の陰謀ってなれば、相当デカい依頼だけど」

「受けるに決まってんだろ! そんなおもしろそうな依頼!」

「だよなー」


 まるで遊びに行くのを約束するような気軽さで、頷く遼太に、ルーチェは不安そうに弥を見たが、特に気にした様子もなく、料理を食べていた。和樹も木在も諦めたように、椅子に座っていた。

 依頼を受け、帝国本土に向かうことを決めると、ルーチェのことを今、この場から護衛すると拓斗が言い出し、散々後輩の家で騒ぎ倒したあと、ルーチェと共に帰宅した。


「よーしっ!じゃあ、明日は帝国に向けて出発だ!」

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