第12話 真実の舞奈 ~2~
二人は最寄駅の近くにあった小洒落たイタリアンレストランに入った。
舞奈と外で食事なんて久しぶりだ。
俊輔はちょっとドキドキしていた。
「二人きりで外で食事なんて久しぶりだね」
俊輔は家にいる軽い感じで声を掛けた。
「そうだっけ?」
そっけなく答える藤澤課長に俊輔は拍子抜けする。
やっぱり舞奈に性格が変わる気配が全然無い。
「あ、そうだ。話って何?」
俊輔の軽い口調の言葉に
「あ、すいません。話って何ですか?」
俊輔はペコリと頭を下げる。
まだ上司と部下の関係のようだ。
「話っていうのは、あなたにもっと営業としての自覚を持って欲しいってこと」
予想外の話の内容に俊輔はちょっとびっくりする。
「え? 仕事の話?」
「何の話だと思ったの?」
「あ、いえ……別に。大切ですよね。仕事の話……」
俊輔は言葉に詰まった。
それから一時間、延々と仕事に関する説教が始まった。
俊輔はぐったりとなった。
これじゃあ、仕事の延長じゃん。残業手当が欲しいくらいだ。
そんなことを思いながら大きなため息をついた。
二人は店を出ると、そのまま一緒に電車に乗って家路についた。
電車の中では二人とも終始無言で、恋人同士とは思えなかった。
全然、舞奈に変わる気配がないなあ……。
俊輔はだんだん不安になってきた。
まさかこのまま変わらないなんてことはないよな。
なんてことを思いながら自宅のマンションの前まで来てしまった。
さすがに家の中に入れば舞奈に戻るよな……。
鍵を開けて中に入る。
「あの、舞ちゃ……」
そう呼びかけた途中で
え? 戻らない?
どうしよう。舞ちゃんが元に戻らなくなっちゃった!
まさか、このまま藤澤課長のまま?
「疲れちゃった。シャワー、先に入っていい?」
藤澤課長はそう言いながら上着をハンガーに掛けた。
「あの……どうぞ」
俊輔はまたペコリと頭を下げた。
ああ、どうしよう。やっぱり戻らない。
まさか家でもずっとこのままか?
泣きそうになりながらソファに腰かけた。
疲れたせいだろうか。
俊輔はウトウトとソファで眠ってしまった。
すると舞奈がバスルームから帰ってきた。
「ごめーん、俊くん! 遅くなっちゃって。いいよ入って」
「え?」
そこにはいつもの明るく可愛い舞奈がタオルで顔を拭きながら立っていた。
「なあに?」
「いや、何でもない。おフロ行ってくる」
俊輔に安堵の気持ちがどわっと湧き出した。
よかったあ! 戻って。
でも、どうやって元に戻るんだろう……。
やっぱりその疑問は解くことはできなかった。
数日後、俊輔はまた顧客先でクレームを起こしてしまった。
そのお詫びにまた藤澤課長と俊輔は同行していた。
「……ったく。同じ失敗を繰り返すことほど愚かなことは無いんだよ!」
「す、すいません」
俊輔はすっかり恐縮して藤澤課長の後ろにトボトボと付いて歩いていた。
駅へ抜ける商店街を歩いている時のことだ。
先のほうで何やら騒がしい声がした。
いかにもガラの悪そうな二人組の男が年配の女性に絡んで文句を言っていた。
どうやらすれ違った時に荷物が身体が当たったということでモメているらしい。
その女性は必死に謝っている様子だったが男たちは納得していない。
俊輔は余計なことに関わらないほうがいいと思い、そこを避けるように通り抜けようとした。
まわりの人も心配しながらも、声を掛けられずただ静観しているだけだった。
その時、
「え? 課長?」
俊輔は思わず叫んだ。
「あんたら何をしてるの? 男二人で女性一人を囲んで!」
まるで会社で部下を叱っているようだ。
俊輔は固唾を飲みながらその様子を見守る。
「誰だあんた? 関係ねえだろ!」
「その人、謝ってるじゃない! もういいだろ?」
「なんだと!」
その男たちは
しかし
「何か文句あるの!」
すっかり委縮した男たちがその場を立ち去ろうとした時、鬼ごっこをしながらふざけていた幼い男の子が謝って
そのはずみで
道路に塞ぎ込んだ
まるで怯えた猫のように震え出したのだ。
その表情は課長でなく、俊輔がよく知っている優しい舞奈の顔になっていた。
「え? 舞ちゃん?」
「どうした、ネエちゃん? なんか急に迫力が無くなったな」
男たちは座りこんでいる舞奈に近づいてくる。
「ご、ごめんなさい……」
舞奈は怯えながら男たちに震えた声で謝った。
今にも泣きだそうな顔だ。
どうしたんだ課長は?
なぜ急に舞ちゃんの顔に?
何が起きたんだ?
そして俊輔は気が付いた。
「あれ? まさか眼鏡?」
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