第13話 真実の舞奈 ~3~ 

男たちはすっかり怯え切っている舞奈を囲んだ。


「どうしたネエちゃん? さっきまでの威勢のよさは?」

「ごめんなさい。ごめんさない……」


舞奈は涙を浮かべながら必死に謝った。

しかし、男たちは容赦しない。


俊輔は舞奈を助けに行こうと思うが、身体が竦んで動けなくなっていた。


「よく見たらネエちゃん可愛い顔してんじゃん。お詫びにちょっと俺たちに付き合えよ」

男たちは舞奈を無理やり立たせ、連れて行こうとする。

「やだ! 止めて下さい!」

「いいじゃねえか! 一緒にイイことしようぜ」


「やめろ!」

俊輔の叫ぶような声が響いた。


「俊くん?」


俊輔は怯えながらも男たちの手を舞奈から引き離し、両手を広げた。

「なんだ? てめエ!」

男たちが俊輔を睨みつける。

俊輔は震えながら必死に声を絞り出す。

「ぼ、僕の彼女に何する! てっ、手を出すな……」


「おい見ろよ。コイツ震えてるぜ!」

男たちは馬鹿にしたように高笑いをした。


「俊くん……」

舞奈も俊輔の後ろで震えていた。


その時、さっきぶつかった男の子が舞奈のところへ戻ってくる。

「おねえさん、ごめんなさい。これ……」

その男の子が路面に放り出されていた眼鏡を拾って舞奈に渡した。

「これは……ありがとう!」

舞奈はすぐにその眼鏡をかけた。


「お兄さん。ビビってんなら引っ込んでろよ!」

男のひとりが俊輔の胸ぐらを勢いよく掴んだ


「課長! 逃げて下さい。ここは僕が……」

そう言いかけた時だ。


「おい! お前らいい気になってんじゃねえぞ!」


恐い形相の課長まいなが復活した。

眼鏡の奥の鋭い目が男たちを虎のように睨みつけた。


そのガンづけに男たちは一瞬で怯んだ。

「な、なんだこいつ……」


課長まいなは俊輔を掴んでいた男の腕を右手でグイと捻る。

「イデデデデ……」

今度は男の胸ぐらを掴み、そのまま突き上げた。


「く、苦しい……離せ!」

課長まいなは掴んだその手を前へ突き出し、男を前方へ放り出した。

男はその場に倒れ込んだ。


俊輔はその時確信していた。


眼鏡だ。

眼鏡がトリガーだったんだ!


俊輔はその光景を驚きながら茫然と見つめていた。


「畜生!」

男たちはそう言い残してそのまま逃げていった。


課長まいなは俊輔のほうを一瞬チラッと見る。

「高城、帰るよ!」

そう言って駅のほうへ歩き出した。


「は、はい!」

俊輔は慌てて課長まいなのあとを追った。


路地を曲がってようやく俊輔が課長まいなに追いついた時、課長まいなは足を止めてスッと眼鏡を外した。

そして、くるっと俊輔のほうを向いた。

ーえ?


「うわーん! 俊くん、怖かったよお!」

舞奈は叫びながら思いっきり俊輔に抱きついた。

眼鏡を外した課長まいなは完全に俊輔の知っている舞奈だった。


「ありがとう俊くん。助けてくれて」

「いや、僕はなんにもしてない……っていうか逆に君に助けてもらったほうだけど」

「そんなことないよ。凄くカッコ良かったよ!」


間違いない。

舞ちゃんは眼鏡をかけると性格が正反対に変貌するんだ。


「あの、舞ちゃん。もしかして君って眼鏡をかけると……?」

「うん。実は私、昔から眼鏡をかけると怖いものが無くなるんだ」

「やっぱり……」

「でも本当の私は今の私だよ」


彼女の性格がどうして変貌するのか、そのトリガーなるものが分かり少しほっとしていた。

いつ、どこで変貌するのか分からなくてはたまったものではない。


しかし、あの眼鏡に一体どんな秘密があるのだろうか?



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