Blue after blue

赤城春輔

1

北が〇|〇|、南が高島屋の、大阪の特に有名な難波の交差点。地下鉄から出て来て、青色信号が点滅し始めたので、慌てて傘を開いて駆けようとしたが、交差点に足を踏み入れる一歩手前で赤色に変わってしまった。

やれやれと軽く溜め息を吐いた時、向こう側の〇|〇|の前に並びだした人混みの中に、懐かしい顔を見つけて、「あっ!」と発して気持ちが一気に晴れた。

バレンタインデーの前日の夕方という事で、歩行者の多さも去ることながら、通行する車も連なり絶えず、走行車の間から、健(けん)を改めて見つけ出そうにも、なかなか困難な技である。何年振りなのに、会いたい! 人間の心理なのか、焦れば焦るほど、信号が変わるまでの時間がいつも以上に長く感じられて、余計に焦ってしまう。

走行する車の動きが止まり始め、青色が黄色に変わっていく。俺はそれまでに

、何とか人混みの中を掻い潜って、横断歩道の手前の最前列に辿り着いた。

向かいの人混みの中に、健の姿はなかった。

「あ……。」

「おい、拓(たく)! 」

昔出会った時からその慌て方は変わらんなあ、と高校生の時よりちょいワルルックになっている健が軽く笑いながら言った。

「! えっ、後ろ!? 」

「信号長引きそうやったから、地下から回ってきたねん。」

健は背が低い方だが、脚が長いので、昔から歩いたり走ったりするのは早い方だ。






「ええのんか? 拓、急いでなかったか、さっき。」

だから、急いで地下から来たんやけど、と、喫茶店のアイスコーヒーを飲みながら聞く。

「大丈夫、映画の時間がギリギリだっただけ。別に一人だし、DVDで観るよ。」

実は今日が映画の上映最終日であった。しかし、数年振りに会う親友の方がとても大事だ。

男から見てもイケメンな健が、真剣に心配しながら「仕事辞めたんか?」と聞いてきたので、思わずメロンソーダを吹きそうになった。

「なんで!? ちゃんと教師してるよ!? 」

「あ、ごめん。いや、月曜日のお昼に、私服でミナミにいてるから。最初見間違いか思うたわ。」

健はお好み焼きのお店を営んで、月曜日が定休日になる。

「週末、体育祭だったから今日は代休なんだ。そうそう、この春からこの高校なんだけどさ。なんと、清水先生と木田先生がいたんだ! 」

「まじで!? うわ、懐かしい! え、あれから何年になるんやろ。最後の同窓会以来か? 」

高校時代の最後の同窓会は、29歳の時だった。30歳に幹事の左祐(さすけ)が結婚して、他のクラスメイトも結婚や仕事で忙しくなってきて、自然に同窓会は開催されなくなった。

健が気掛かりに二人の現況を聞いてきたので「心配していたより普通だったよ。」と彼を安心させるように答えた時、いきなり健の着信音が鳴り響いた。ごめんと健がスマホを取り出すと、軽く苦笑してはにかんで、画面を見せた。

「こいつ、タイミングだけは良いからなあ。ほら、粉浜(こはま)だ。」




・・・・・



「おー、佐崎。久しぶりー。」

昔からあまり変わらない、常に眠そうな声で俺に挨拶をした。高身長でスタイルも良く、鼻が高く顔も整っているのに、何か勿体ないなあと会う度に思う。

健がベージュのエプロン姿で、両手にビッグサイズのお好み焼きと焼きそばを運んできた。

「家だから、店の材料と少しちゃうけど、まあ、味付けは同じやから。」

俺はバンザイして、粉浜は身体を前に乗り出して、「待ってました!」と喜んだ。

お好み焼きを一口サイズ取りながら、焼きそばを頬張る粉浜に、「どうしたの、帰省? 」と聞いてみた。

「いいや、離婚して。再婚しようと思って帰ってきた。」

「えっ、どういう事!? 」

そんな俺の単純にびっくりして出た言葉よりも、片付けが済み、流し台から戻ってきた健の絶句して動きが止まった事の方が、より感情的だった。





粉浜が眠そうな目で健を見る。

「豊浦、結婚しよう。」

「はいっ!?」

俺と健が声を合わせて驚いた。粉浜の奥底にある瞳は、出会ってから今まで見た中で、一番真剣な色をしていたと思う。

健が慌ててお盆で粉浜の頭にツッ込み、そして、話を反らす為に運んできたゲーム機で、食事が終わった後、何事もなかったように三人でその日を過ごした。



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