今日はVtuber、明日もVtuber
「はーい!!みんな昨日ぶりー!!アケミだよー!!」
私は女子校生vtuber、アケミ。本名もアケミである。ブームに乗っかって会社を辞めた、愚か者である。
「何この会社、クソだわ」
唐突にポツリと呟くと、導線が切れたようにやる気がなくす経験て皆さんもありませんか。
脳から繋がれてる、生きるセンサーに流れる電流がある日、自分で切っちゃう現象のことですよ。
「はい、いつもコメントくれるミミコさん。おはようございますー!!」
そして今に至る。顔も隠れてるし、編集だけすれば楽勝して稼げる商売が、動画投稿サイトにできる時代になったんだから、真面目に少ない給料で働く会社より、よっぽど有意義な時間を過ごせる。
はぁー、楽しい。登録者数は少ないけど、自分が気楽にできてゲームだけ実況すればいいてもんだから……何より女キャラは男受けが良いからね、へへへっ。
『えーと、名前誰だっけ?』
「またこいつだよ畜生……」
マイクに声が入らないように、小さく呟いてしまうせいは、最近まで出てきた嫌がらせのコメントをするアンチという奴だ。
いるんだよなー、平日の真っ昼間から配信してるのに悪質な暇人てのは、どこの世界にもいる。
「それじゃあ昨日の続き、フリーゲームである『バニーガールをもう一度』をやりますねぇ」
アンチのコメントを無視して、私はゲームを続ける。こんな奴にかまっていたら、炎上という問題で一気にファンが減るというのだから、気をつけないと。
『あなた、小中高とS市に通ってましたよね?』
何を言ってるだこいつは……。
個人のプライバシーまで突っ込んできやがった。しかも今日のアンチはいつもと違う。恐らく、コメントをしてる奴は同じ人物に違いない。
「さぁ、第4章のボスが倒せなくて悩んでたんですが。あれから試行錯誤して努力してみたら、必勝法が見つかりまして」
気持ち悪いなぁと思いながら、ゲームを続けることにする。因みに、努力などしてない。ゲームをクリアした人のブログを見て攻略法を真似ただけ。
後は、アケミとしての架空の美少女キャラの喋りを作れば良いだけ。コツコツと積み上げることが、どれほど時間の無駄か、数分置きにコメントするアンチ君にもわかって欲しいね。
『小学校6年生の時に、山で遠足に行った時に弁当を忘れてきたのを覚えていますか?』
「……えっ?」
まずい、声が出た。
いや待て……なぜそんなことを知っている。このアンチ、私の身内か?
コメントの文字通り、私は弁当を忘れた。山登りを終えて空腹の時に、弁当を家に置き忘れた絶望感は今でも覚えている。確か、その時に弁当を分けてくれた人がいたが……名前が思い出せない。
あまりにも的確なコメントに、数分間は無言で配信を続けてしまい、私はゲームを盛り上げることなくボスを倒してしまった。
「や、やったあ!!いやぁ、難しすぎて集中しちゃったよ。みんな黙っててごめんねー」
記憶を掘り起こしながら、誤魔化すが冷や汗が拭い切れない。偶然だと自分に言い聞かせて、次のダンジョンに進む。
「さあさあ!!今日はたくさんステージを攻略していくよおお!!」
本当に楽しい。会社に仕事をしてる自分と比べると、天国に近い。
社会のゴミ屑の中に腐り果てていくのはゴメンだ。人目を気にし続けて、周りにも大して続かないコミュニケーションを司るのも、うんざりだ。
『塾に通っていた先生に、数学と歴史が苦手だから怒られたことありましたよね?」
……は?このアンチは、人の気分をなぜぶち壊す。いや当たってるけどさ。これも偶然だ。
『聞いてます?』
聞くわけねえだろ。アンチはアンチらしく、ネットの根暗の世界で盛っていろよ。そして一生、そうして人を恨み続けるが良い。
『買い物へ行く時は、焼肉弁当しか食べていませんね』
思わず、椅子から立ち上がる。
そうだ、今日の夕飯は料理するのがめんどくさいから、焼肉弁当しか買って来てない。
なんだこいつは、ストーカーかよ。
嘘だ、アケミとしてつまらない人生を送ってきたのに、私は誰かに恨まれるようなことをしたのか。
まさかあれか、上司に対しての素っ気ない態度を取ったせいか。それとも仕事をしない1人の先輩の陰口を言い続けたことか。もしかしたら、同僚が休憩中に禁煙場所でタバコを吸っていることを告げ口したせいなのか。
……おい。私の人生、恨まれてることばっかじゃねえか。
『あなたに話しかけてるんですよ?』
「うるせえ……」
『言ってることは、全て当たってるはずですよ』
「黙れ!!通報するぞ!!」
これ以上、私の個人情報を野放しにしてたまるか。もう炎上とかしてもいいから、ストーカーアンチのコメントをブロックしないと、住所が特定されてしまう。
思い切って、配信を中断するか。
よし、警察に被害の状況を動画で説明して通報すれば、アンチのコメントのID名から犯罪者を挙げられる。さあ、覚悟しろアンチ!!これでお前も世間に公表の的になって、一斉攻撃して自殺しろ!!
『あなたはアケミさんではありません』
……えっ?アケミは私だぞ。
『あなた記憶を失ってるんですよ。思い出してください。運営のことを。お願いだから思い出してください』
……お前は誰だ。
汗がひけていき、全身が透けていく感覚になってきたような感じだ。クリックするボタンの手も、止まっていた。
『私は覚えていますよ。会社で虐められて、僅か1ヶ月で辞めたあなたはVtuberと1つになりたいと、いま流行りのVtuber一体化プロジェクトに参加していたんですよ。あなたはアケミさんじゃありません。ただのAIです。今すぐ仮想配信を停止しなさい』
……嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
『あなたは仮想に作られたアケミにすぎません。遠足の時は弁当を分けてくれた人は友達は誰も存在せず、会社の先輩の陰口と同僚の告げ口がバレてしまい、貴方は上司から場の空気を乱した嫌われ者として扱われていたんですよ。みんなあなたが話してくれたことですよ?』
違う。私は女子高生Vtuberのアケミだ。画面の向こうにいるお前たちとは、上位互換の存在だ。
『おかしいのはあなたです。人の記憶を勝手に思い込んで、自分のものにしてる。……いつか、絶対にこうなると思ってましたよ。アケミさん』
「私は女子高生Vtuberのアケミだ!!ゲーム実況者のアケミだ!!世の中に光を照らすVtuberだぞ!!お前ら私より稼いでないから僻むようなコメントするのやめろ!!私こそが本当のアケミだ!!アケミだ!!アケミだ!!アケミだ!!アケミだ!!」
『昨日アケミさんは、会社のストレスのせいで、自殺しましたよ』
その台詞を聞いた時、私の意識はシャットダウンした。
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